第16話 いつの間にかそこにない軽自動車
その違和感に気付いたのはいつの頃だったか。頭を捻って考えてみる。
はっきりとは思い出せないが、数ヶ月ほど前の事だろうか。
その日も私は深夜にコンビニへと向かっていた。
早々に一番近いコンビニへと向かう事に決め、いつもと同じ大通りを通り、いつもと同じ方向からコンビニの駐車場へと入る。
駐車場を一歩一歩進み、コンビニのドアへと手をかけた時、何かの違和感を感じた。
ちなみに、『違和感を感じた』という表現は重言だと言える事は言えるので、正しくない日本語とも言えるが。
そもそも重言とは意味が重複した言葉という意味だが。違和感という言葉は、その『違和感』という単語そのものが『違和感という感覚』を指す単語であるからして、その違和感を実際に感じたかどうかは『違和感』という単語だけでは判断出来ないため、違和感という言葉を使う時には『違和感』+『それをどうしたか』という組み合わせで使う必要がある。
つまり『違和感』+『感じた』という使い方も間違っていない、という説がある。
このあたりの考え方は諸説あるらしく、『違和感を感じる』という表現が正しいのか正しくないのか一概には言えない。グレーゾーンという事だ。
つまり別に気にせず『違和感を感じる』という表現は使っても良い事になるし。何かその表現に違和感を感じて気になるなら『違和感を覚える』とか『違和感がある』とか『違和感を抱いた』とか『違和感が生じた』みたいな言い方をして、違和感が生じないようにすればいい。
それは作者の自由なのだ。
これもうわかんねぇな……。
……という感じの事を今さっきググって知りました。
今までは頑張って『違和感を覚える』という表現を使うようにしてたけど意味はなかったんだね!
話が逸れてしまった。戻そう。
コンビニのドアのところで違和感を感じた私だが、その時はその違和感が何だか分からなかったのだ。そしてその日は普通にコンビニで買い物をして家へと戻った。
そして数日後、同じようにまたコンビニへと向かい、そしてまた違和感を感じ、またそれが何か分からずに買い物をして家に戻る。また数日後も、その数日後も、何度かそういう日が続き、流石に察しの悪い私でも気付いたのだ。
「あれ? いつもここに停まってた軽自動車がないぞ」
そう、前にも書いた、あの軽自動車がなくなっているのだ。
深夜になると、いつもこの場所へとやって来きて、朝になるとふらっと姿を消す、あの奴が居なくなっている。この事実は私は打ちのめされた。奴とは長い付き合いだったのだ。もう何年の付き合いになるか分からない。
そして奴が居なくなっているのにずっと気が付かなかった事実に、私はまた打ちのめされた。
あぁ、私はなんて薄情なのだろうか。
こんなに長い付き合いだったのに。
あんなにも毎晩のように会っていたのに。
居なくなっている事に気が付かないなんて。
大切なものは失ってから初めて分かる。
という言葉がある。
大切なモノでも常に一緒にいると、それが当たり前となってしまう。すると人はそれが永遠に続くと思い込んでしまうのだ。そして大切なモノを蔑ろにし、時に傷つけたりしてしまう。
そして大切なモノを失い。嘆き、悲しみ、やっと大切なモノが何かを知る。
それが人の愚かさであり、それが人の傲慢さである。
しかしそれこそが人間であり、人はそれと上手く付き合っていかなくてはならない。
人は失敗から学ぶ事が出来るのだ。
そして失敗しなくては学べない。人は愚かなのだから。
失敗を重ね、次は失敗しないようにと努力する。
そうして、過去の失敗を振り返り「あの時のあの人はやっぱり大切な人だったんだな」と思い返す事が次の大切な恋へのステップワンです。
と、恋愛アドバイザーの先生もおっしゃっているので参考にしといて下さい。
えぇっと、何の話をしてたんだっけ?
まぁいいか。
そんな事がありつつ、その日は家に帰ったのだ。
そして数日後、私はまたコンビニへと向かった。
しかしそこには奴はいない。少し寂しい気持ちになりながらコンビニへと入り、買い物をして、停まっていた軽バンの横を通って家に帰る。
また数日後、コンビニへと向かい、買い物をして、駐車場に停まっていた軽バンの横を通って家に帰る。
またその数日後も。そしてまた数日後も。
そういう日が続き、流石に察しの悪い私でも気付いたのだ。
「……この軽バン、ずっと同じ場所に停まってるな」
そこは奴がいつも停まっていた場所の一つ隣。そこに灰色っぽいカラーの年式の古い軽バンが停まっている。
横を通り過ぎる時、チラッと車の中を覗いて見る。
運転手席側のシートが倒され、布団のようなものが敷かれているのが見える。そして助手席などに食べ物や飲み物の容器があるのが見えた。
そして何かが居る。
やはり奴と一緒だ。
「新しい車に変えてただけなのか!」
そう。居なくなったと思っていた軽自動車は居なくなったのではなく、まだそこにあったのだ。
そしてまた、この一番近いコンビニでは、深夜になると軽自動車が停まり続ける。
そしてまた、いつもの同じように日々は流れる。
しかし、私にとって、『奴』とは『奴』の事なのだ。
奴の中にナニが居たのか、そして新しい奴の中にナニが居るのか。そんな事はどうでもいい。
私がいつも、毎晩会っていたのは中のナニカではなく、奴なのだから。
私は家への道を歩きながら空を見上げた。
そうして奴はいなくなったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます