第9話 謎の電車

 遭遇率 1回


 その日も深夜にコンビニに行こうとしたのだが、その日の違和感は家を出てすぐに訪れる。


 カタンコトン。


 どこからともなく、遠くから音が聞こえる。

 何の音だろうか?

 音はそれほど大きくはない。しかしその音はどうも遠くから響いているような気がする。と言う事は、元の音はそれなりに大きいのではないか。

 などと、二番目に近いコンビニへと歩きながら考える。


 カタンコトン。


 音はどんどん大きく、そして近くなっていく。

 う~ん。これはもしかしなくても、線路を電車が走っている音ではないですかね?

 やはりこの音には聞き覚えがある。このカタンコトンが、電車が走って線路の下の枕木か何かをカタカタと震わせている音なのか、それとも電車の構造上、電車側から出てしまう音なのか、よくは知らないが。電車が動く時によく聞く、カタンコトン、という音にしか聞こえない。

 いや、でも、そんなまさか。

 今は既に深夜だ。終電なんてとっくに終わってる時間。こんな時間に電車なんて走っているわけがない。

 確かにここは地方だ。しかし、都会に比べれば終電の時間は早いが、今のこの時間なら都会の電車でも既に止まっている時間のはずだ。


 カタンコトン。


 しかもペースが明らかにおかしい。音的に、かなりのノロノロ運転な事がわかる。

 こんなゆっくりとした電車の音は中々聞けるものではないはずだ。

 今は深夜で、そしてこの深夜の工業地帯という、人も車もほとんど存在していない空間。少し離れたところにある幹線道路を走る車の音が遠くで聞こえるのと、深夜でも辛うじて動いている一部の工場が遠くで発している機械音ともスチーム音ともとれない音。普段、聞こえる音はそれだけなのに、今日はそこに電車のカタンコトンという電車の音が混じる。

 と言うか、一番目立っている。

 この静かと言ってもいい空間に響いているのだ。


 カタンコトン。


 私は踏切へと一歩一歩、近づいていく。

 音もどんどん近くなっていくのが分かる。

 何なんだろうか、この音は。もしかして銀河鉄道か?

 と、思い始めた瞬間。少し先にある踏切に電車の頭が顔を出した。そしてプシューとか鳴らしながら停止し、そしてしばらくしてからまた動き出し、踏切を電車が通過していく。

 超鈍足で。


 これまで長年ここに住んできて、今までに一度も見たことがない形の電車。

 何だこれ? と、思いかけてふと気付く。

 あ、これって噂の線路検査用の特殊車両なんじゃないの? と。


 カタンコトン。


 変な電車を見送る。

 今日は運が良かったのかもしれない。あんな電車は初めて見た。ここに長年住んでいたけど初めてだ。

 少しホクホク顔で踏切を越え、またコンビニへと歩いていく。



 しかし、電車通ってんのに遮断器上がったままなのは初めて見たぞ。

 やっぱり踏切前の一時停止は必要だったんだね。

 いや、それより道路を通過する時に一時停止する電車を初めて見た。

 むしろこっちの方がレアかもしれないな。

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