第3話 低速のアレな車

 遭遇率15%


 今夜は定番の奴等を紹介したい。

 多くの皆さんがご存知。夜の街の道路と言えば奴等を思い出す人も多いのではないだろうか。

 深夜の世界を語る場合、外す事は出来ないであろう。


 皆さんもよく知っている。

 そう。もう見るからにアレな車である。


 車種は、少しお高い系のゴツいセダン、型落ちモデルが王道。次点でワゴン車。

 ローダウンにエアロは奴等の標準装備で。オプションとして鬼キャン、改造マフラー、ブラックライト系の室内照明や、蛍光色のテールランプを持ってる奴等もいるし、酷い奴等はヘッドライトが蛍光色だったりもする。

 ぷおーん、と大きな音を鳴らす奴ほど、彼等の中では上級者で格上である。

 偶に軽自動車バージョンもあるので優しい目で見守ってあげよう。


 さて、そんな奴等だが、普通に走り去るだけなら煩いだけで何の問題もない。しかし稀に何かを物色するように低速で走行している奴等がいる。

 具体的に言うと、時速20キロほどのスピードで走行しつつ、通行人がいると速度を時速4キロほどにまで落として通行人を観察する。

 そして興味がなくなればブォーンとぶっ飛ばしながら去っていくのである。


 もし奴等に興味を持たれたらどうなるのであろうか?

 もし私が女性の身だったら?

 少し気になるが、尋ねてみようとは思わない。


 奴等は人間観察が趣味なのだろうか?

 いや、実は奴等が実際にこちらを観察しているかどうか、私は直接見てはいない。

 何故なら、それは知っているからだ。

 この地に長年、住んでいる生粋の野郎共なら知っている、奴等の習性。

 子供の頃からそういう奴等と関わってしまう事で、知らず知らずの内に覚えて、理解してしまう、その習性。


 実は奴等は、他人を興味深く観察する習性があるくせに、逆に自分達が興味を持たれて観察される事を嫌う。

 つまり、目が合うと襲ってくる習性があるのだ。

 なので決して奴等の方を向いてはならない。


 野生動物と遭遇した場合、その相対する野生動物の目をしっかりと見て、決して背を向けたりせず、大きな音をたてて相手を刺激しないようにしながら、ゆっくりと距離を取る事が重要だ。

 決して背を向けて逃げたり、走って逃げてはいけない。当然、死んだふりもダメだ。

 何故なら肉食動物は逃げる獲物を追う習性があり、油断している相手はただのカモだからだ。

 熊などの場合、地面に置いてある荷物を拾おうとするのもマズい事がある。

 その荷物を熊が既に自分の物だと思いこんでいた場合、荷物を拾う事で熊の物を奪ったと判断されて襲われる事もある。


 まぁとにかく、流石に町中に生息しているだけあって、奴等は野生動物とは違う。

 野生動物と相対した時の対処法ではいけない。

 その逆をやらなければならない。

 ちなみにだが。

 他の野生動物とは違い、ニホンザルと相対した時はニホンザルの目を見ないようにした方がいい。

 目を見られるとニホンザルは興奮して襲ってくる事があるからだ。


 奴等は追いかけっこも大好きだ。

 月に一度はパトカーのポリスメンから「はーい、そこのセダン、停車してください」と拡声器で話しかけられ、彼等が、ブウォーン! ブルルルル! キキキー! と、数キロ先まで聞こえる爆音で返答して、そしてそれを合図に追いかけっこが始まる。

 ポリスメン側も、ウゥーウゥーと、数キロ先まで聞こえる爆音で対抗するので深夜でも賑やかだ。

 この街の住人は、わざわざレース場に行ってレースを見る必要などないのだ。モナコまで行ってモナコグランプリなど見る必要もない。

 何故なら本物がそこにあるからだ。





 治安悪すぎんだろ……。

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