第2話 反省ザルのおっさん

 遭遇率 1回


 あれはいつの頃だったろうか。

 確か、肌寒くなってきた秋口の深夜だったと思う。

 その日も深夜にコンビニに出かけたのだが、この日の『おかしなモノ』との出会いは、家を出て一〇〇メートルほど、一分もかからずに遭遇する事になった。


 この日、いつもとは違い、家から二番目に近いコンビニへと向かっていた。

 昔はコンビニなど、どこでも大して違いはない、と思っていたから、コンビニへと行くならば家から一番近いコンビニと決めていた。しかし深夜に何かを買いに出かける事が増え、深夜に何かを買いに行くとなると必然的にコンビニになってしまうような状況が続いた結果……飽きてしまったのだ。一番近いコンビニに。

 お菓子の品揃え。お酒の品揃え。お弁当の種類、内容。カップラーメンの種類。そしてコンビニの雰囲気まで。全部、飽きてしまった。


 コンビニで売られる商品というのは、絶対にこれを販売しとかなければいけないぞ! という商品を本社が決めるが、それ以外の商品については店長が裁量権を持っている。らしい。

 つまりコンビニの品揃えには店長の好みがモロに出るのだ。

 なので店長が保守的な考えの人であれば、品揃えは無難に昔からあるお馴染み商品と売れ筋商品だけになる。逆に積極的に色々やってみるようなタイプの人だと、こんなもんコンビニで売ってんの? と言いたくなるような商品が売られてたりする。

 こういう裁量権がある事で、地域に根付いた店作りがしやすくなるというメリットがあったり。その場所ピンポイントで需要がある商品だったり、その地域でしか使用されない物を置けたりするので重要な事なんだが……。


 まぁ要するに、一番近いコンビニの品揃えが保守的すぎるという事なんですよ。

 お菓子もカップラーメンもジュースも、お馴染み商品と各社の新作しかほぼないって、どういう事なの?

 いやほんと。どうにかして下さいよ店長。




 そんなこんなで二番目に近いコンビニまでの道にある最初の十字路を中ほどまで歩いた時。なんとなく、なんとなくだが十字路の右側の奥が気になった。

 別に音がしたとか、光が見えたとか、そんなチャチなモノでは断じてなかった。ただ、何となく、そちら側が気になっただけだ。

 皆もそういう経験はあるだろう。

 虫の知らせ。第六感。とにかくそんなシックスセンスがピキーンと働いて右側を何となく見た。

 すると、そこにいたのだ。




 電柱に向かって反省ザルのポーズをするおっさんが。

(わからない人は“反省ザル”でググって!)




 おっさんが手をついている電柱は二〇メートルほど先にあり、その周囲には車や自転車などもない。

 ここは工業地帯だ。我が家の近辺には深夜までやっている飲み屋などない。付け加えるなら民家もほとんどない。ただの酔っぱらいではないはずだ。


 おっさんは微動だにしない。

 おっさんの付近には街灯もなく、月明かりだけがおっさんを照らしている。

 今夜は雲もなく、月が綺麗に出ていた。

 他に人はいない。ここにいるのはおっさんと、そして私だけ。二人きりの空間だ。

 若干、幻想的な雰囲気が漂っている中、私はその場所を後にして、コンビニへと向かった。

 こんな幻想的な空間におっさんと二人きりではいたくなかった。

 おっさんとのフォーリンラブが始まっても困るからだ。


 コンビニから帰る時に同じ場所を通ったが、おっさんはいなくなっていた。

 おっさんはどこに消えたのだろうか。

 月にでも帰ったのだろうか?


 あのおっさんが物の怪の類だったのか、妖精だったのか、それともただのおっさんだったのか、今となっては謎である。

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