六
今は夏休み中だ。だが、普通に部活はあるし、夏休みの宿題は多い。僕は、友達がいないので、殆どを部活と勉強だけで過ごしていた。真海は夏休み前にやっと、部活を決め、女子ソフトテニス部に入った。どうやら、クラスの明央に誘われたらしい。僕は宿題をやっていると、汗を流しながら、真海が帰ってきた。
「ただいま」
「お帰り」
これはいつもの癖になった。彼女は二階で着替えている。数分後、彼女が降りてくる音がした。珍しい。彼女は帰ってくると、二時間近く部屋にこもっている。だが今日は、三十分で降りてきた。これはなんかあるなと、思った僕は、
「どうかした?」
と、声をかけた。すると彼女は、
「あのさー、今週の土曜日公園でお祭りだよね!」
そういえば、そういえばそうだったな。近くに大きな公園がありそこでお祭りをするんだっだ。
「一緒に行かない?」
やっぱり。そうきたか。僕は、お祭りは一回しか行ったことがない。父と母が生きていたとき一緒に行った。あの頃は、楽しかった事を憶えている。それしか行ったことがない。なにせ、今まで友達がいなかったので誘われなかった。
「一緒って言っても、友達とだよ!?」
何故か焦っている。どうせ暇だし、僕は行こうと思ったので、
「行くよ。」
と言った。真海は返事だけして、二階に上がっていった。今週の土曜日か。今日は、木曜日だから、まだ日数はあるな。と思っていたが、案外すぐにやってきた。
僕は、Tシャツで待っていると、真海が浴衣姿で降りてきた。真海は僕の姿を見るなり、怒り出した。
「何で浴衣じゃないの!?」
いや、別にいいだろうが。
「僕、浴衣持ってねぇよ。」
「んじゃ、私の貸してあげる!」
え、嫌だ。と言おうとしたが、特に断る理由がなく渋々僕は浴衣を着た。改めて、自分が流されやすいと思った。
「うん!すごく似合ってるよ!」
「お世辞にもほどがあるぞ。」
「んじゃ、行こっか!」
僕の発言を軽く流された。僕は、浴衣の袖を引っ張られて、よろけながら歩き出した。入り口では、クラスメイトの、明央と千葉 優太(ちば ゆうた)が待っていた。二人がこちらに気づくと手を振り、こちらにやってきた寄ってきた。この二人は、どちらも、ソフトテニス部で顧問の先生から期待されているエースだそうだ。
「待ったー?」
真海が二人に話しかけている。
「大丈夫。今きたところだもんね?」
高城が言った。千葉はうなずくだけだ。
「まさか、愛斗が来るなんてねー。」
明央が感心しながら、言った。
「確かに。いつも一人だからなあ。」
ここで初めて千葉が声を出した。思っていたより、高かった。
「んまぁな。」
「まぁ、ここじゃなんだし、歩きながら、話す?」
真海の提案に全員が一致し、歩き出した。真海達はずっと話している。僕は、少し後ろで、見ているだけだ。すると、真海がこちらに手招きをした。僕はしょうが無く、皆の方に行った。祭りは賑やかで、どこもかしこも声が聞こえる。僕らは、かき氷やたこ焼き、焼きそばなどを食べ、射的や、金魚すくいなどを楽しんだ。
僕らは、花火がそろそろ上がる時間だと気付き、花火の見える場所に行った。人が沢山いたが、良い場所を見つけそこで止まった。そして間もなく、ヒュ~と、火の玉が上がり、辺り一面に、火花が散った。僕は生まれて初めて、花火を見た。綺麗でデカかった。僕らは、最後まで花火を見て、帰ろうとすると、明央が、
「ない!私の大切な腕輪が無い!」
「え!」
真海が驚く。
「探そう!」
すかさず、千葉が言った。
「でも、どこで無くしたか、わかんないんでしょ?」
三人は頭を悩ませた。しょうが無い。
「僕が探すから、絶対ここから動かないでね。」
僕はそう言い、目を凝らしたがさすがにどこだか分からなかった。なので僕は必死に思い出そうとした。記憶力は良い方だ。そういえば、さっき明央にぶつかっていった男の人がいたな。僕は、自分の記憶を信じ、男が曲がった角へ向かった。そこには、金品を沢山持った男がいた。僕が話しかけようとしたら、
「ちょっと、そこの人!」
そこには、真海がいた。
「何で真海がいるんだ?」
僕の疑問はすぐに解消された。
「愛斗の跡を辿ってみれば、あんた、私の親友の腕輪を返しなさい!」
「ついてきたんかい」
僕らのペースを崩すように、男は言い返してきた。
「なんだよ!?俺にいちゃもんか!?」
「親友が大切にしていた腕輪返しなさいよ!」
「うるせーガキだなぁ!?そういうガキにはお仕置きだ!」
男はそう言って、真海に襲いかかった。真海は辛うじて避けたが、怪我をしたらしく、足から血が出ている。ここぞとばかりに、男は襲いかかろうとしている。
「めんどくさいな。」
「死ねぇぇぇ!!」
真海は覚悟して、目を閉じた。だが、男のパンチは当たらなかった。
「彼女に手ぇ出すんじゃねぇよ。」
僕は、間一髪のところで男の拳を止めていた。男は、笑い出した。
「何も出来ねぇガキに何ができるんだ!?」
「こんなのができるよ。」
僕はそう言って、走ってきた男を派手に吹っ飛ばした。
「まさかここでも愛斗コンバットを使うとは。」
男は、僕の力に怖じけついたのか恐がりながら、金品を返してきた。間もなく、明央と千葉が警察に連絡し、全てが終わった。
「大丈夫か?」
真海は返事をしたが、痛そうだ。僕は、
「ほら」
と言って、手を差し伸べた。真海は恥ずかしがりながら、僕の手を握った。
「色々あったねー」
明央が言った。千葉もうなずく。
「二人ともありがとう!」
「僕は何も」
「愛斗が取り返してくれたんでしょ?」
「ま、まぁ」
「だから、ありがとう…」
明央は何故か、赤くなっている。
「愛斗、ちょっと良い?」
明央が僕にそう言ったので、僕は明央の元へ行った。僕は、真海に「ちょっと行ってく」るとだけ言って行った。
「いいのか?あの二人結構良い感じだぜ?」
千葉が真海に言った。
「大丈夫、きっと大丈夫。」
僕らは、人気の少ない所に来た。
「急に呼び出してごめんね…。」
「別に大丈夫。それより、腕輪見つかって良かったな。」
「…なんでさ、そんなに優しくするの?」
「え?僕はただ正しい事をしようと、」
「どんどん好きになっちゃうじゃん!」
「え?」
「そうだよ。私ずっと前から、愛斗の事が好きだったの!」
「ずっと前っていつから?」
「私をナンパから助けたとき…。ううん、一年生の時から!」
「そっか…。」
「私、愛斗と付き合いたい!」
僕は悩んだ。僕は初めて、告白されたからだ。僕は考えた。そして、
「ごめん…。」
「どうして?」
「僕はまだ恋というものが分からないんだ。分からないまま付き合っていたら、君を悲しませるだけだと思うんだ。」
「そっか…。愛斗はいつまでも優しいね。」
「僕が優しいとかそんなんじゃないよ。」
「…大丈夫!これからも友達としてよろしくね!」
僕らは、真海の元へ帰っていった。
「どうかしたの?」
真海が問いかける。明央が
「何でもない!だよね。愛斗!」
「お、おう。」
「もうこんな時間だ。そろそろ帰るね!」
そう言って、彼女達は、帰って行った。
僕は、歩こうとした。しかし、真海が倒れてしまった。
「やっぱり、擦りむいたし、挫いたわ。」
真海は足をさすりながら言った。
「しょうが無いな。ほら、乗りな?」
そう言って僕は、腰を下ろした。
「ありがとう…。」
そう言って、彼女は僕に身を任せた。
「仕方ねぇやつだな。」
「えへへ」
僕らは、真海の家へ帰った。
帰り道では僕と真海が話していた。すると彼女が、
「ねぇ、ちょっと止まって!」
「どうした?」
「あそこに彼岸花が咲いてるよ!」
彼女が指を差しと向こうに、彼岸花が咲いていた。すると彼女は、
「ねぇ、愛斗?」
「ん?」
「私がもしも死んだら、お墓に彼岸花を挿して?」
「死ぬ気か?」
僕は、冗談で言ったつもりが真海は黙り込んでしまった。
「冗談だろ?」
そう聞くと、真海に返事はなかった。どうやら寝ていたようだ。
僕はこの会話を懐かしく感じた。
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