「私、愛斗に出逢えて良かった…。」

 僕は、起きあがった。

 「なんだ、夢か…。」

 僕は最近似た夢を見る。かなりしっかりとした夢なのに相手の顔が見えない。僕は、歯痒い思いを抱きながら顔を洗いに行った。

 僕と真海は同じ家に住んでいる。同じ家だからこそ悩み事が起きる。

  「ま、まみ?」

 僕は、彼女に声をかけた。すると彼女は、僕の方に顔を向けた。

 「何?」

 「あのさ、僕ら、別々に登校しないか?」

 僕は、あまり噂が好きじゃない。僕達が二人で登校すると、クラスメイトにいじられた。僕はいじられたことがあり、そこからイジメに発展するんじゃないかとそわそわしている。なのでこのような提案をした。

 「別に良いよー」

 「え、良いのか?」

 僕は、あっさり了解してくれたので驚いた。これで噂が広まることはない。僕は、先に登校することにした。クラスメイトにいじられたが、違うとだけ言ってその場をしのいだ。

 今日は、お葬式をすることになったので、僕は早退した。今回のお葬式は、僕だけでは無理だったので、親戚の人が準備をした。これも、近所つきあいの良いばあちゃんのおかげだと思った。僕は、参列者に挨拶をして、片付けをした。今日はもう遅いので、自分の家で寝ることにした。

 次の日から、普通に登校した。休み時間を一人で読書や、ボーッと窓の外を眺めていた。逆に、真海は友達と仲良く話していた。転校早々に友達が出来たのかと感心した。僕は、今暇である。去年は、陸上の大会や、定期テストなので忙しく感じたが、今年は慣れた。だから、暇である。

 ふと、耳を傾けると廊下が騒がしくなっていることに気づいた。どうやら、何かを無くしたらしい。僕は、ああいう面倒なことに首を突っ込みたくないが、優雅に読書をしたいので、探すことにした。探すと言っても、僕は、その人の記憶を見て、どこタイミングで無くしたかがわかれば良いだけなのである。僕は、彼女の心の声を聞いた。

 『ない!ない!私の大切なシャーペンが無い!誕生日に彼氏から貰ったのに!』

 「なんだ、彼氏かよ。…声にでてた。」

 僕はシャーペンを探そうとしたが、どんなのかわからない。すると、真海が急に、

 「何を探しているの?」

 と聞いていた。

 「私の大切なシャーペンなの!ピンク色のクルトガよ!」

 その言葉を耳にした僕は目をこらした。するとすぐに見つけた。昔から目が良かったからだ。僕は彼女に近づき、肩をたたき、シャーペンの方を指さした。

 「あった!」

 周りから安堵の声が漏れている。僕は静かに教室に戻った。すると、真海が、

 「良かったね。見つかって。」

 と言ってきた。

 「あ、うん。」

 なんだ、それだけか、僕は真海から視線を外し、本を読んだ。気付くと、授業が始まりのチャイムが鳴っている。僕は、授業の準備をして、授業をうけた。今日はそれぐらいしか変わったことがなかった。放課後、部活に行った。僕は、陸上部に所属している。一応副部長だ。後輩の二学年をまとめるのは骨が折れる。特に二年生はまとめるのは大変だ。何か行事があるごとに色々やらかす。

 「センパイ~」

 「何?」

 「いつ部活終わります~?」

 「六時ぐらいかな。」

 「へ~い」

 早く終わりたいなら、しっかり部活やれ。と思ってしまう。まぁ、正論だが。

 「おつかれー」

 部員で同級生の大井舜平おおいしゅんぺいが話しかけてきた。彼は、部活の中でしっかりやっている。まぁ、同級生の男子なら、ちゃんとやっているが。

 「やっぱり後輩は疲れるな。」

 「そうだな。」

 「でも、あと半年もないからなぁ。頑張ろうぜ!」

 「おう。」

 やっぱり、人と話すのは疲れる。そう思いながら、走った。

 帰りは、自転車だったが、真海の家に住んでるので、自転車じゃなくても大丈夫な距離になった。帰り道の途中で真海に会った。真海は、男に礼をして僕の方へと歩んできた。僕は自然と歩調が速くなり、真海と距離が開いた。すると真海が走ってきた。

 「帰りぐらい一緒に歩いて良いでしょ?別に誰もいないし!」

 「しょうがないな。」

 そう言って僕は真海の隣を歩いた。

 「さっきの男の人と帰んなくて良いのか?」

 「まぁね!さっきねー、告白されたんだ!転校早々にね!一目惚れかなー!」

 僕は沈黙を続けた。沈黙を破ろうとした真海は、

 「もうー、なんか喋ってよ!」

 「じゃあ、学校慣れたか?」

 「うん!友達も出来たし!」

 (早っ)

 「私、女テニに入ろうと思うの。やってけるかな?」

 「真海ならいけんだろ。運動神経良いし。」

 「ん?なんで運動神経良いなんて知ってるの?」

 確かに。僕は、真海が運動しているところなんかまだ見た事も無い。なのになんで?すると僕は、脳に痛みを感じた。何だ。この痛み、経験したことの無い痛みだ。僕は必死に痛みをこらえた。

 「大丈夫?」

 真海が心配をしている。

 「大丈夫」

 僕は平気を保っていたが、かなり辛かった。こんなの初めてだった。僕は何か嫌な予感を感じた。どうやらその予感は当たったようだ。ちょっとずれた感じはしたが。

 僕達は帰る途中に、誰かがヤンキーに絡まれていた。

 「あれ、ヤバくないの?愛斗?」

 「ああいうのに関わっちゃ行けないんだよ。」

 すると真海はそのヤンキーの方に向かって走りだした。止めようとしたが遅かった。

 「ねぇ、やめてあげて?」

 「あぁ!?なめた口聞いてんじゃねぇよ!」

 ヤンキーは真海を襲おうとした。僕は間一髪のところでチンピラの拳を止めた。

 「何だおめぇ?」

 「通りすがりの学生です。」

 僕は、ヤンキーの拳を振り払った。するとヤンキーは懐からナイフを出してきた。後ろから真海の小さな悲鳴が聞こえた。

 「ヤンキー舐めるとこうなるんだよぉ!」

 僕らにナイフを刺そうとしてきたが、ナイフ相手には、相手の視界から消え裾と襟を持ち思いっきり投げると、簡単に吹っ飛ぶ。ヤンキーは、凄い勢いで吹っ飛んだ。

 「愛斗すごぉい!」

 真海がピョンピョン跳ねている。するとヤンキーが起き上がり、ヒィっと小さな悲鳴をあげて、逃げていった。僕は安心して、襲われていた人の元へ行こうとしたが、そこにはいなかった。

 「どこ行ったんだ?」

 「まぁ、助かったんだから良いんじゃない?」

 「そうだな。…そうなのか?」

 僕はそう言い、真海の家へと帰った。

 家に帰ると、真海は自炊すら出来ない僕のために真海が料理を作っている。真海が料理を作っているとき僕は、真海に貸して貰っている部屋で休んでいた。

 「動きが鈍った。それに力も衰えている。久しぶりに筋トレでもすっか。そういえば、あの人、ヤンキーって言っていたな。もう嫌な予感しかしねぇよ。」と独り言を言っていた。

 僕はそう言ってると、真海の「ご飯が出来たよぉ!」の声が聞こえた。僕はリビングへ向かった。そこには、短時間で作ったとは思えない料理がずらりと並んでいた。

 「相変わらず、すごいな。」

 「腕によりを掛けてみました。えへへ」

 「ん」

 「それじゃあ、食べよっか!」

 「おう。」

 「それじゃあ、いただきます。」

 「いただきます。」

 「…どう?」

 「…おいしい。」

 僕は舌を疑った。どれもこれも今まで食べてきたものの中で一番おいしい。

 「良かった!」

 僕達は食事をしながら他愛もない会話をした。真海からの一方的な質問だったが。

 「そういえば、愛斗って凄く強いんだね!」

 「僕は前にいじめられていて、それを知ったじいちゃんが僕にあらゆる武術を教えられたから。」

 「そっか。私なんかより大変だったんだね…。」

 「なんか言ったか?」

 「ううん。それより食べよう!冷めちゃうから!」

 そう言って僕達は真海の作ったご飯を食べた。この時は、誰も思っていなかっただろう。

 この先大変な事が起こることをつゆ知らず…。

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