鳥のさえずり、澄んだ青空。窓の外を眺めている受ケ留愛斗うけとめあいとは、平和な朝に浸っていた。ふと時計を見ると、登校の時間が迫っていることに気づき、急いで準備をし、自転車に乗り、出発した。登校中はいかにも平和な朝だった。途中、警備員や定員さんに話し掛けられたが、無視して通り過ぎた。僕は校舎内へ向かった。そして、僕は三年五組の教室に入った。

 うるさい教室、今では当たり前。もう慣れた。僕は、窓の外を眺めていた。友達はいない。作る気が無い。それは僕が恥ずかしがり屋だからという単純な理由ではない。ただ単に人と接するのが嫌なのだ。

 僕は感情を棄てた。それは、小さいときに遡る。僕は小学二年生の時、周りの子と何ら変わりない生活を送ってきた。笑顔は勿論、喜怒哀楽全ての感情があった。

 しかし、僕にとって最悪な出来事が起きた。それは愛犬が死んだこと。僕が産まれたときからいた犬で、子供から見ればとても大きかった事を憶えている。傍から見れば、犬が死んだ。ただそんな理由だ。しかし、小さいときの自分には、とても大きな出来事だった。ただ単に死んだから、悲しいのでは無かった。その後の大人の対応が嫌だった。親は、また新しい犬を飼おうとするし、友達は犬の死について面白可笑しく話し掛けてきた。今考えれば、歳的に当たり前だと思ったが。僕は感情が嫌になった。そして僕は決めた。感情を棄てることを。そうやって今までを生きてきた。

 僕が小六の時、母さんと父さんが事故に遭った。反対車線からの車と衝突したそうだ。僕は親との旅行すら行かないほどに興味が無かったので、車に乗っていなかったため、死なずにすんだ。僕は、親が死んだ悲しさすら感じず、ただ単に見つめていた。何も感じず。それで親戚の人に怒鳴られたり、叩かれたりもした。別に痛くは無かった。それは体ではなく、心の話だ。

 それで、僕は祖父母の家に迎えられることになった。そのため、今の学校の距離では遠いため、引っ越しせざる負えなかった。なので僕たちはお別れ会をした。その時も僕は、何も感じなかった。周りが泣いているのが、馬鹿馬鹿しかった。僕は都会の東京から少し離れた埼玉県に転校した。

 「席に着けぇ~!」

 担任の平井孝ひらいたかし先生が言っている。平井先生は髪の毛に所々白髪が混じっている。だが、歳を感じさせず元気で、生徒の面倒をよく見る良い先生だと評判されている。

 気づけば、チャイムはとっくのとうに鳴っていた。号令係が、

 「起立、きょうつけ、礼」

 と言い、朝の挨拶をした。先生が出席確認をした後は、いつもは読書タイムだ。だが、今日は始業式だった。僕は一番後ろに並んだ。一応一番でかいからだ。アリーナに着くと、上履きからアリーナシューズに履き替えて、整列をした。話している人がちらほらいるが、気にしなかった。始業式が終わり先生が来ると先生は、転校生を紹介すると言い出しクラスは騒がしくなった。この時期に転校するのは、やっぱり親の事情なのか。多分そう思っているのは、僕だけだろう。先生が静かにさせるとドアの方に相槌を打ち、ドアが開いた。そこには、一人の女の子がいた。彼女は

 「転校生の広田真海ひろたまみです。よろしくお願いします!」

 と言った。すると拍手が起きた。僕は窓の外を眺めていた。拍手が鳴り終わると、先生は、

 「とりあえず、受ケ留くんの隣座って。」

 と言い、僕を指さした。僕の隣に広田さんが座った。僕は特に気にすることなく窓の外を眺め続けた。彼女は僕に、

 「うけとめって言うんだ。」

 と、笑われた。

 「したの名前は?」

 と、聞いてきたので僕は、

 「愛斗。愛に斗。十に点々でわかるか?」

 と、答えながら、彼女を見た。すると彼女と目が合ってしまった。 彼女は、僕が見た限りでは、眼鏡にショートカット、身長は一七一ある僕より小さい。一六八といったところか。 すると彼女は、

 「んじゃ、愛斗くん!よろしくね!」

 と、微笑みながら、言った。僕は、すぐに窓の方を眺めた。家族以外でしたの名前を呼ばれたのは小学二年生以来だった。

 彼女は、僕に、好きな食べ物はとか、好きな人のタイプや、彼女はいるのかとしつこく質問をしてきたので、一応答えた。僕は、彼女に何でそんなに聞いてくるのかと聞いても、彼女は僕の声が聞こえないかのように一方的に質問をしてきた。僕は、何故か耳に残る懐かしい声だと思った。僕はただの記憶違いだと思い特に気にはしなかった。

 それからというもの授業中も、小さな声で質問をしてきた。そのせいで疲れたし、授業が頭に入ってこないし、うるさくて先生に怒られた。僕が思った彼女の第一印象が、うるさいになった。

 僕は、放課後に部室へ行った。制服から、運動着に着替え準備運動を行った。ペアでやるストレッチで余る系男子の僕は、ストレッチの時は静かに体操している。速さの関係上、自分が部長で部活を仕切っているが、声は小さいので聞こえずらく部活をサボる人が多い。まあ、それが理由かは知らないが。ちゃんとやってるっちゃあやっているので、顧問の先生は何も言わない。それが顧問の先生の良いところだ。部活が終わると、ミーティングを済まし、早々に一人で家に帰った。

 「ただいま」

 と、僕は言ったが、いつもなら聞こえるばあちゃんの元気なおかえりが帰ってこない。それに、人の気配もない。確か祖父母は日帰り温泉だが、五時三十分には、帰ると言っていたが、今は六時すぎだ。帰ってきてもおかしくないのだが。その時に、急に電話が鳴り響いた。いつもだったら、躊躇なく電話に出ているが、今は何か不吉な予感がする。僕は恐る恐る受話器を取ると、全く聞き覚えのない声だった。間違い電話だと思ったが、次の一言で、不吉な予感と聞き覚えのない声の意味が分かった…。

 僕は、急いで総合病院へ向かった。

 病院は、かなり混雑していた。どうやら、ばあちゃん達の乗っていたバスの乗客全てを、ここの病院に搬送しているみたいだ。僕は、忙しそうで話し掛けられそうにないナース達をただ見ているだけだった。すると、一人のナースの人が気づいて、こちらにやってきた。僕は、自分の祖父母の名前を教えてあるところに案内された。

 僕は、暗く、さっきまでと違うとても静かな場所にいた。そこには、霊安室と書かれていた。僕は、特に何も感じなかった。それもそうだ。感情を棄てたのだから。ドアを開けると、そこには、まるで寝ているかのようにばあちゃんとじいちゃんが死んでいた。本当に寝ているかのように。お医者さんに聞くと、ばあちゃん達は、バスが雪道で滑り、坂道から一気に下りその先にあるカーブを曲がることができず、正面にある大きな木にぶつかり大破したらしい。即死だそうだ。感情を捨てた僕に涙は出るはずが無かった。僕は、ばあちゃん達の思い出を思い出しながら、その場を去った。

 僕は、次の日学校を休んだ。行く気になれなかった。一日中、ボーッとしていた。四時を過ぎた頃に、インターホンが鳴った。誰だと思いドアを開けると、そこには、広田が立っていた。僕は、目を疑った。

 「な、何しにきた?そもそも何故僕の家が分かった?」

 と、不思議そうに言った。すると彼女は、

 「平井先生に聞いてきたの!」

 とだけ言った。彼女はかばんの中から、紙を出して、

 「今日貰ったプリントね!」

 と言い、プリントを渡した。僕は、恐る恐るプリントを受け取った。彼女は、

 「今日、何で来なかったの?」

 と聞かれて、僕は、昨日の出来事を伝えた。すると彼女は、

 「そっかー、んじゃ、私の家来る?」

 と、急に言ってきた。僕は考え、そっちの方がメリットが大きいと思い、

 「そうするよ。」

 と、言った。すると彼女は、何故だか嬉しそうに感じた。僕は、彼女についていくことにした。僕の家から、歩いてから、二十分近く経った。辺りは、暗くなってきている。そして、かなり、林道を通っている。彼女は一体何者なんだ。考えていると、彼女の声が聞こえた。

 「着いたよ!」

 僕は、また目を疑った。僕の目の前には、豪邸一軒、そこにあった。

 「これ、広田ん家?」

 「そうだよ!ここに独りで過ごしているの。」

 「独り?」

 「そう。私、独りで過ごしているの。どーせ一人なら、一人同士でいた方が良いじゃん!?」

 そっか。彼女も、そうだったのか。独りなのか。僕は彼女の何かを感じた気がした。

 「あ、そうだ!」

 彼女はとても言いたげな表情をしている。

 「私のことは、真海って呼んで欲しいなー」

 「なんで?」

 「良いから!」

 彼女は微笑んだ。僕は、仕方なく彼女を“真海”と呼ぶことにした。彼女は僕が真海と呼ぶと、彼女は微笑んでいた。

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