二章 五話 動き始める異変
午前零時少し前。パトロールへと向かう時間だ。
「二人とも気をつけてください・・ツバキちゃん。咲夜をお願いします」
「はい」
「咲夜。ツバキちゃんの足を引っ張らないように」
・・花師匠は厳しいですなぁ。
「分かってるって・・行ってきます!」
花さんに見送られながら俺たちは学校へと向かう。
「住民の方の安全確保は・・?」
「もう灰がやってるよ」
灰は俺たちより先に出現スポットに向かい周辺の人払いと安全確保をやってくれている。
周辺の人の安全確保は我が家にある巨大人具のおかげでなんとかなるんだけれど、人払いやもしもの時の記憶操作なんかは人力でやらないといけないから、灰にはその作業をやってもらっている。
「・・的確な仕事ですね・・これを橘さんがお一人で?」
「こういうのはあいつの得意分野だからね」
灰は根っからの補佐気質だから、こういう細々した仕事は安心して任せられる。
「それに俺はちょっと手伝えなくて・・」
「何故です?」
・・まーた口を滑らした。
「・・大したことじゃないから機会があれば話すよ」
実際、不便に感じたことはあるけど困ったことはないし。
「それならば今・・」
ゾワッ!
「「!」」
禍々しい気配が次々と現れる。
「・・いつもより早い!」
まだ、数分の余裕があったはずなのに・・急がないと
プルルル
大急ぎで走っていると携帯が震える・・灰から!
「咲夜。そっちはどうなってる?」
開口一番にこちらの様子を聞いてくる灰。心なしか声に焦りが見える。
「特に問題はないよ。でも、学校まではもう少しかかる」
ここから走ったとしても、学校まではあと四、五分はかかるだろう。
「それなら近くの獣から倒していけ。俺は反対側の数を減らす・・切るぞ」
言いたいことを言いすぐに電話を切る灰。それだけ切羽詰まっているということだろう。
「ツバキ。学校には行かないでこのまま近い獣から倒して行こう」
「分かりました・・断罪!」
「切り裂け、牙鉄!・・よし、行こう!」
それぞれ武器を構え俺たちは気配の元へ急ぐ。
一番近いのは・・右斜め前方!
十字路を右に曲がり細道を抜ける。
「「グルル・・」」
その先にいたのは三匹。俺たちの接近に気付いていたようで攻撃態勢に入る。
「ガァァ!」
俺たちが見えたと同時に一匹が襲いかかってくる。が、予測済み!
振り下ろされる爪を左手で防ぎ、がら空きになった腹を・・右腕で掴む!
「うりゃぁ!」
そのまま地面へと叩きつける。地面と右腕に板挟みにされ叩き付けられ、衝撃から逃げることが出来ない獣は苦痛に顔を歪ませながら霧散していく。
襲撃に失敗したのを見て距離を稼ごうと後ろへと下がる獣たち。
「逃がしません」
が、すでに接近していたツバキが一匹を斬り倒す。
これで残りは一匹。すぐに片付けようと近づいたその時だった。
「ウオォーン!」
突然、遠吠えを始める獣。
何が起こるのかと警戒していると・・周囲の禍々しい気配が近づいてくる!
「まさか・・仲間を呼んだのか⁉」
昨日に引き続いて、またも新しい行動を起こす獣。
・・でも周囲の仲間を呼べるなら、どうして今までやらなかったんだ?
「ガァァ!」
前方や屋根の上から次々と現れては攻撃してくる獣たち!
・・今は理由を考えている場合じゃない!
右肩を狙う攻撃を避け、反撃しようとする。が、逆から遅いかかってくる獣に邪魔をされ意識をそちらに移すとタイミングを見計らったように背後から攻撃。
「・・ったい!」
避けられないと判断し、少しでも勢いを殺すためにダメージ覚悟で後ろに跳ぶ。両肩に痛み走るが・・それを無視して獣たちの腕を掴み、地面に叩き付ける!
鈍い音を上げ、頭から落ちた獣は霧散していく。
そして倒したことで生じた隙間から、獣たちと距離を離す。
「はぁ・・はぁ」
息を整えながら獣たちの動向を目で捉え続ける。
・・こいつら、数の有利を活かした波状攻撃を仕掛けてくる。
俺には攻撃を喰らってからの反撃しか有効な手段がない。けど、そう何度も喰らえるほどこいつらの攻撃は軽くない・・。
ともかく、ツバキと連携をとって・・
「・・⁉」
突然の浮遊感に頭が真っ白になる。
「ぐっ⁉」
いつの間にか後ろにいた獣に足を払われてしまい俺は大きく体勢を崩してしまった!
「「ガァァ!」」
四方から一斉に襲いかかってくる獣たち。
まず・・
「断罪!」
風の音が聞こえたかと思うと・・俺の周囲の獣が全て真っ二つになった。
「・・無事ですか?」
「ツ、ツバキ。今のは・・?」
「私の神器能力です」
神器能力・・各神器使い特有の能力であり、神器使いの実力として見られるほどの強力な力。
・・よく見ると、刀の刃の部分が白く発光している。
「助かったよ、ありがとう」
「いえ、見殺しにするわけにはいかないので」
淡々を通り越し、もはや事務的な返答を返すツバキ・・うーむ。もう少し柔らかくなってくれないものかな。
「と、ともかく助かったよ。さ、次に行こう」
灰のことだから大丈夫だとは思うけど、長時間一人にするのは心配だ。
それからも、周囲の獣を掃討しながら俺たちは学校へと急ぐ。
「・・断罪!」
とは言っても
「・・断罪!」
会敵する獣のほとんどを
「・・・・断罪!」
ツバキは惜しげもなく神器能力を使い、倒していくのだが。
「はっ・・はっ」
・・学校まであと少しというところでツバキの息が上がる。
「・・ツバキ、無理をしすぎだよ。休むべきだ」
「いえ、問題ありません。やれます」
・・神器能力はその強力な力の反動として武力を大幅に消費する。
そんな力を短期間で何度も使ってたらすぐに限界が来るのは当たり前だ。
どんなに強くとも・・いや、強いからこそ神器能力は人間には負担が掛かりすぎるんだ。
「・・ツバキはここで休んでいて。灰の所には俺だけで行ってくるから」
武力は疎か、体力まで限界が来ている今のツバキを連れて行っても大した戦力にならないだろう。なら、少しでも回復してもらったほうがいい。
「いえ・・私も行きます」
「その状態で?」
「今の状態の私でも、咲夜さんより強いです」
・・凄い自信だこと。いや、実際そうなのかもしれないけど。
「それに、咲夜さんを一人にしては危険です」
はいは・・・・ん?
「俺の心配をしてくれるんだ?」
「あ・・・・・と、とにかく。別行動はしません。一緒に行動するように言ったのは咲夜さんのはずです」
すぐさま話題を逸らすツバキ・・・・フム。
「分かった。やっぱり一緒に行動しよう」
「それならば早く学校に・・きゃ⁉」
「よっし!行くぞー!」
俺はツバキを背負しながら学校へと走り出す。
「な、何をするんです⁉下してください!」
「妥協案だよ。俺はツバキを休ませたい。ツバキは俺と一緒に行動したい・・これならどっちも叶ってるでしょ?」
「ですが・・!」
「それとも、これ以上の案を持ってる?」
「・・・・」
諦めて大人しくなるツバキ・・優しくするんじゃなく、強引に行く方が効果的だな。
静かになったお姫様を揺らさないように気を付けながら、俺は学校へと急いだのだった。
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