二章 三話  協力の始まり、隠し事の継続

俺たちは楽しく会話をしながら屋上へと向かっていた。


「・・・・」(話題を探し、そわそわする咲夜)


「・・・・」(無言で咲夜を引っ張るツバキ)


「・・・・」(引きずられながらもゲームをする灰)


はい、そんなこと一切ございません。そもそもこのメンバーに会話を求めても無駄だよね。


・・アルムさんとは共闘することになるんだ、少しは親密になっておくべきだろう。

俺は意を決して話しかける


「お昼は持ってきた?アルムさん」


「はい」


「お弁当?それともコンビニで買った?」


「コンビニで買ってきました」


「そうなんだ。俺、コンビニのおにぎりが好きなんだ。アルムさんは何が好き?」


「特にないです」


「へえ~」


「・・・・」

「・・・・」


・・会話終了。


俺の会話スキルにも問題はあるだろうけど、アルムさんも昨日のことばかり考えていて全く会話を広げてくれない。


「・・ぷっ」


「灰。人のこと笑うんじゃありません。というかお前も会話に混ざれや」


「イチャイチャと楽しそうに話してるから混ざりずらかったんだー(棒)」


「・・棒読みなのが余計に腹立たしい」


結局、まともな会話が成立しないまま俺たちは屋上に到着する。


・・俺たち以外の人は予想通り見当たらない。陽の光が程よく当たるフェンス近くに座り弁当を広げる。


「ここなら、説明してもらえますよね?」


そして、もう限界だといった様子のアルムさんが俺をせっつく。


「その前にお互いの自己紹介をしよう?ほら、お互いの立場の確認は重要でしょ?」


弁当を広げながら自己紹介を提案する。


先延ばし・・というよりは、どれ程話していいのかの判断材料として聞いておきたい。


「・・「神器騎士協会アークナイツ」所属のツバキ・アルムです。この町で起こっている事件に参加、

協力するために派遣されました」


簡潔に自己紹介をするアルムさん。


神器騎士協会・・世界各国の武力に関連する事件に介入し解決に協力してくれる警察のような組織だと聞いている。


ちなみに日本にも、灰も所属している「高天ヶ原」という似たような組織が存在する。まあ、組織理念は全く違うと聞くけど。


「俺は柊咲夜。組織には所属してないけど、今回の事件に協力している」


「・・名前を聞いたのは今回が初めてです」


「・・確かにそうだね」


思えば、アルムさんとの会話で名前は出てなかった。


「・・橘灰だ。よろしくアルムさん。」


おにぎりを食べ、ゲームをしながら挨拶をする灰。こいつは本当にぶれないな。


「よろしくお願いします・・さ、もういいですよね」


自己紹介を切り上げ、またも急かすアルムさん。彼女は興味のあるものにしか目が行かない人のようだ。


「・・と言っても何から説明すればいいのやら・・そうだ。アルムさんが聞きたいことを言ってよ。俺はそれに答えるからさ」


自分から情報を出すよりよっぽどいいだろう・・昨日みたいに口が滑らないか不安だが。


「・・口下手なお前に出来るのかぁ?」


「うっさい。ならお前が答えろ」


「・・・・」


・・言いたいこと言ってゲームの世界に戻りやがった。まぁ、灰には始めから期待しちゃいない。


「さ、質問どうぞアルムさん」


「それでは・・柊さん。あなたは昨日神器使いではないと仰っていました。では、あなたは一体何者なんですか?」


昨日の続き、俺は何者なのかを俺に問うてくるアルムさん。


・・何者か、ねぇ。


「俺が何者なのかなんて俺にも分からないよ・・人間、なんて答えても納得してくれないでしょ?」


何者かなんてそんなことは分からない。むしろ俺が教えてほしいくらいだ。けど・・


「けど、普通の人と違って俺は神器を使えない・・正確には神器使いの才能がないってことは言えるかな」


「・・才能がない?」


アルムさんは驚きとも疑問とも取れない反応をする。


「神器を使うことに才能が必要なんですか?」


「みたいだよ?我が家の神さまが言うにはね」


・・神器を使えるようになる方法は「神に仕える」それだけだ。才能も技能もへったくれもない。

けど、俺はその神にかしずく才能すら持っていないらしい。


「そんなわけで俺は神器を使えない。だからこれを使ってるんだ・・切り裂け、牙鉄」


発動キーワードを唱え俺の愛用する人具を展開する。


「俺だけが使える専用の人具「牙鉄」。神器の基本能力しか持ってないけどね」


神器には固有能力の他に使用者の表面に武力の膜を作り、防御力を上げる「硬質化」と全身に武力を巡らせ身体能力を向上させる「肉体強化」という共通した能力がある。


牙鉄も、少々燃費が悪いけどその共通能力を持つ人具として破格の代物だったりする。


「それでは・・昨日のあの力は?」


恐らくアルムさんが一番聞きたいであろうこと・・悪いけどこれは喋れないかな。


「牙鉄の能力だよ」


「硬質化と肉体強化だけだと聞きましたが?」

「硬質化で攻撃を防いで、肉体強化で攻撃したんだよ」


「硬質化に発動時間はかからないはずですが」

「人具だからね。神器と違って時間がかかるんだ」


「ですが、いくら時間をかけても昨日ほどの力になるとは思いませんが」

「俺は人より武力が多くてね。多めに武力を割けるんだよ」


事実、俺は人の倍近い武力を持っている・・こんな才能より神器を使う才能が欲しいよ。


「・・納得してくれた?」


「・・・・」


腑に落ちないが、これ以上は聞いても無駄だと悟った様子のアルムさん。


・・ごめんね。あまり言いふらしたくないんだ。


「さて、他に何か聞きたいことはあるかな?」


「いえ、もう大丈夫です」


ひとまず、溜飲を晴らすことは出来たようだ。


「・・おら、もう終わったぞ。そろそろこっちに耳を傾けろ」


「あ、おい!せめてセーブさせろ!」


未だにゲームに熱中してる灰からゲームを取り上げる。こうでもしないとやめないからな。


「それじゃあ・・事件について話し合おうか」


これも重要なことだ。彼女とは事件解決のために共に戦うのだから。


「アルムさんは協会側からの命令はある?」


いくら手伝ってくれるといってもアルムさんは協会の人間だ。そっちの命令があるならアルムさんはそちらに従わなければならない。


「・・迅速に事件を解決しろ。の一点のみです」


つまり、手段も俺たちとの協力もアルムさんの自由にしていいということか。


「なので、私は被害減少のため別行動をさせてもらいます」


・・アルムさんが派遣された理由は人手不足が原因による公共物への被害を減らすこと。確かに別行動は妥当だろう。


けど・・

「別行動をするべきではないな」


灰が別行動を否定する。


「やっぱり、灰もそう思う?」


「ああ、ここに来て不確定要素がボロボロと出てきたからな」


確かに一昨日までの状態なら別行動でも問題ないだろう。


けれど、昨日の敵は今までと違う行動をとってきた。アルムさんがいなかったら俺は昨日やられていただろう・・・・おまけに混ざりあって何倍も強くなったし。


「アルム。昨日戦ってみてどうだった?」


昨日、一番長く戦っていたのはアルムさんだ。敵の実力を把握出来る有益な情報となるだろう。


「・・二、三匹程度なら対処できますが、それ以上となると無傷では厳しいかと」


「そのうえで別行動を取るつもりか?」


「・・問題ありません。私一人で何とかなります」


こちらをきっぱりと否定するアルムさん。


・・強情そうだしなぁ。ちょっと卑怯に行きますかね。


「アルムさん。命令違反して大丈夫なの?」


「・・どういう意味でしょうか?」


よしよし、食いついた。


「迅速に解決しろって言われてるのに、協力をはねのけて効率の悪い選択をするなんて立派に命令違反だってことだよ」


「別行動によって被害を減らし、犯人の捜索範囲を拡大・・これのどこが効率の悪いことだと?」


「えっと・・」


まずい、上手く言葉にまとめられない・・。


「・・全部自分でやろうとすることがだ。敵の掃討、被害の抑止、そこに犯人の捜索なんてやってたら全て中途半端になる。分担したほうがよっぽど効率的だ」


灰のフォローが入る。ナイス詭弁!


「それにだ、昨日のでかいのが大量に出てきたらお前一人でどうするつもりだ?」


「アルムさん、三匹が限界なんでしょう?」


「・・いいでしょう。お二人の考えの方が効率的だ」


よし、説得完了。頭が固い人でなくて良かったよ。


「咲夜とアルムは共に行動して獣を掃討してくれ。犯人捜しは今まで通り俺がやる」


「・・橘さんは別行動をなんですか?」


「ああ。俺の神器は遠距離型なもんでな。後方支援のほうが向いている」


灰は後方支援と武力感知に長けているから今まで通り、索敵をしてもらうほうがいいだろう。それに、灰は逃げ足が早いからやられることはないだろうし。


「アルムさんもそれでいい?」


「異論はありません」


「それじゃあ改めて、今日からよろしくねアルムさん」


そう言いながら俺は手を差し出す。


「・・・・これは?」


「握手だよ。これからよろしくってことで」


握手は信頼関係を築くための第一歩。良い関係を築くには、まずは物理的な距離からだ。


「・・必要ありません。私たちはあくまで、事件解決までの短期的な関係なのですから」


そんな俺の考えを真正面から否定するアルムさん。


否定・・いや、拒絶だ。アルムさんに近づくことへの強い拒絶。


キンコンカンコーン


見計らったかのような昼休み終了のチャイム。


「・・失礼します」


アルムさんはすぐに教室へと戻っていく。


「・・見事に振られたな」


「あはは・・俺たちも教室に戻ろ」


少し遅れて、俺たちも教室へと戻る。


・・あの完璧な拒絶・・何か嫌な過去でもあったのかな?


俺は拒絶されたことよりも、アルムさんが拒絶した理由のほうが気になった。

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