二章 一話  タイムリミットは昼休み

朝。目が覚めると、そろそろ登校しなければ間に合わない時間になっていた。


「やっべ!遅刻!」


ベットから飛び起き急いで支度を始める。


家から学校が近いとついつい遅刻が多くなってしまう。一回、二回なら許されるだろうけど今日遅刻すると三回目。反省文と特別宿題をやるはめになってしまう。それだけは避けなくては!


「花さん!なんで起こしてくれなかったの⁉」


制服に着替えながら台所で調理をしている花さんに文句をたれる。いつもは起こしてくれるのに!


「「俺は限界に挑戦する」と言って、起こさないように釘を刺してきたのは咲夜ですよ」


・・恨むぞ、昨日の俺!


「ともかくすぐに出るから。ごめんなさい!朝食はいらない!」


テーブルの上に並べられている美味しそうなご飯。腹は減ってるけど今日ばかりはしょうがない。


「何言ってるんですか!朝食は食べきゃダメです!少し待ってなさい」


そう言って花さんは食器棚からお弁当箱を取り出すと朝食のおかずを詰め、ご飯をおにぎりにしてくれた。


「はい。遅刻しないようにしてくださいね」


朝食用と昼食用の二つのお弁当を渡してくれる花さん。これはありがたい!


「ありがとう!行ってきます!」


お弁当を受け取りすぐさま学校へと向かう。


ホームルームまであと十分ほど。このまま走ればなんとかなりそうだ。



キンコンカンコーン



学校の校門近くのところで、ホームルーム五分前のチャイム。


よし!これなら間に合う!


と、その時だった。


「・・⁉」「あてっ⁉」


そのままのスピードで誰かと衝突してしまう。


「いつつ、悪い!」


「いえ、こちらも不注意でした」


ぶつかったのは同い年くらいの制服を着た白銀の少年。


「いや、俺が急いでいたのが・・ん?お前、木葉じゃないか」


「・・柊先輩?」


木葉。ひょんなことから知り合ったしっかり者の後輩。


珍しい銀色の髪は、西洋の人と日本人とのハーフだからと言っていた。


「走るのは危ないですよ。僕だからまだ良かったですけど、女の子だったらケガをさせていましたよ」


「うっ・・気を付けます」


・・本当にしっかりしていらっしゃる。


「それにしても、どうしてそんなに急いでるんですか?まだ・・」


「あ,やっべ!すまん、もう行く!また今後な!」


「ちょ、先輩⁉」


タイムリミットが近いことを思い出し、俺は学校へのマラソンを再開する。


既にしまっている校門を飛び越え、最速で上履きに履き替える。


「間に合った――‼」


無事、遅刻することなく教室へと到着した。


ふう。間に合った。これは絶対に自己新記録を叩きだしたね。


「おはよう柊君。今日は早いんだね」


「え?」


・・改めて周りを見るとクラスメイトは半分来ているかといったところだ。


時間は・・ホームルーム開始十分前・・?


「・・あの目覚まし時計、壊れてたな」


花さんの落ち着きようと、木葉の冷静さを今になって理解する。


・・まあ、遅刻してないならいいや。これで万事解決・・


「・・あ」


していなかった。


教室の一角に出来ている人混み。昨日と同じかそれ以上なんじゃないだろうか。


・・そんな人ごみの中心にいる人物が俺をじっと見つめていた。


俺はそれを視界にとらえないように、こそこそと席に座る。


・・まずい。何も考えてない。


打開策を必死に考える。どうにかして話を先延ばしに・・ん?


「・・待てよ?」


確かに今日説明するとは言った。けど、いつとは決めてない。つまり、まだ時間はあるということだ。


「ホームルーム始めるぞー。全員早く席に座れ」


アルムさんは人混みに捕まるだろうから話すタイミングも俺が自由に選べる。


それなら放課後にでも説明すればいい・・なんだ、楽勝じゃないか。


「これでホームルームを終了する。次の授業の準備をするように」


放課後までの間、ゆっくりと考えるとしよう。

「さあ、約束通り話してください」


「・・へ⁉」


時間差ほぼゼロ。先生の終了の合図と共にアルムさんが俺の目の前に現れる。


「昨日の約束です。忘れてないですよね?」


ズズズイと昨日よりも寄って来るアルムさん。だから近いんだってば!


・・完全に予想外だ。まさかここまで早く行動してくるなんて!


この状況、俺一人では到底無理だ・・・・灰!助けてくれ!


「・・・・(シャンシャンシャンシャン)」


両耳イヤホンで音ゲーしてやがる!お前、神に誓ってたよねぇ⁉


「さあ、早く・・」


「ひ、昼休み!昼休みに話そう!ほら、間休みじゃ短いし、人がいないとこで話さないといけないし!」


「・・分かりました・・逃がしませんからね」


物騒なセリフを吐きながら自分の席に戻るアルムさん。


・・席に戻ってもじっとこっちを見てるよ・・よっぽど気になるようで。


「・・ツバキ様と約束?」


「それも人気のないところでだと?」


「情報班。二人の関係の洗い出しと、柊への脅迫材料を集めろ」


アルムさんとの会話は周りにバッチリ聞こえていたようで、クラス中からの視線を集めた・・大半が敵視だけど。


「・・・・www」


こちらを見ながら笑っている奴が一人。あいつ、これを予想して俺に押し付けたのか。


灰への復讐に燃えながら、昼休みに話す内容を考えるのだった。

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