一章 五話 ・・俺はイメージする

・・ここまでがプロローグの前の話。


そして、話は戻って現在。いきなり現れた乱入者に、獣たちは体制を整えようと距離を置いている。けど、戦意が無くなった訳ではないようで、隙を見せればすぐさま攻撃をしてくるだろう。


アルムさんもそれは分かっているようで、こちらを向いていても一切油断していない。


・・近くで見るとやっぱり凄い美少女だ・・あ、そうだお礼。


俺はお礼をしようとアルムさんに・・「あの」・・ん?


「どうして人具で戦っているんですか?」


牙鉄を見て眼を丸くするアルムさん・・まあ、気になるよね。


「これが俺の戦闘スタイルなんだ。俺は神器を持ってないからね」


「持って・・いない?」


「「ガアァ!」」


「・・っ!」


会話をしていることでこちらが油断していると考えたのか、攻撃を仕掛けてくる獣たち・・だが、甘い!


「おらぁ!」「・・ふっ!」


完璧なカウンターを獣に食らわせる俺とアルムさん。


・・俺は見えていたから出来たけど、アルムさんは背を向けていたにも関わらず完璧にカウンターをして見せた・・前評判は嘘じゃないってことね。


さて、二匹倒して残りも二匹。ゲル状に変化するのは怖いが、アルムさんもいることだし問題無く倒せるだろう。


「まだ戦う意志があるんですね」


「いくら不利になっても、こいつらが撤退したことは今までないよ」


不利な状況なら逃げたほうがいいだろうに・・追跡を警戒しているのか?


ともかく残りを・・・・なっ⁉


「「ガァァァ!」」


突如最後の二匹がゲル状に溶けたかと思うと、グチャグチャに混ざり始めた。


「変態さん。あれは何ですか?」


「分からない!俺も初めてだ・・あと変態さんはやめてくれ!」


対処の方法が分からず困惑している間に相手の姿、大きさは変わっていく。


・・一回りほど大きくなった身体。触れただけで重症は避けられないであろう爪と牙。銃弾など簡単に跳ね返してしまうであろう堅牢な剛毛・・・・だが、そんな身体的な特徴よりヤバイのは、あの獣の武力が跳ね上がっていることだ!


「「・・グラァァ!」」


体の芯に響くような咆哮・・さっきまでとは何もかも違う!どうしたってんだよ今日は⁉


ともかく、様子を・・・・っな⁉


一瞬で距離を詰めたかと思うと爪を振るうバケモノ。俺は咄嗟に牙鉄でガードする。


「ぐっ‼」


ガードは崩れなかったが、衝撃で腕がじんじんと痛む。


・・スピードもパワーも段違いだ!振り下ろした爪の切っ先が見えなかったぞ⁉


「うおっ⁉」


獣は標的を変えることなく再度爪を振るってくる。ちょっ、ちょっと待って!


横、前、上・・四方からの相手の攻撃をギリギリで対処し続ける。


「・・いっ⁉」


が、避けきれずに爪を右肩に喰らってしまい、鮮血が溢れ出る。


「「グガァァ!」」


再び振り下ろされる爪。不味い!避けられな・・


「はぁ!」


間一髪といったところで獣の死角からアルムさんが斬りかかる。が、獣はそれを予測していたようで、容易く回避し距離を置かれてしまう。


「ご無事ですか?」


「はは。なんとか・・」


助かった・・あの攻撃を喰らっていたら致命傷は避けられなかった。


「これを・・後は任せてください」


止血用にと、ハンカチを俺に渡し、獣へと接近するアルムさん。


「はぁ!」


刀を振るうアルムさん。鋭い攻撃だが、獣はそれを悠々と避けてしまう。


・・アルムさんの刀を相当警戒しているな。


常に刀の範囲外にいるように徹底している。あの刀・・いや、神器か。相当に強力なものなんだろう。


「使うつもりはありませんでしたが・・いきますよ「断罪ジャッチメント!」


長期戦を嫌ったのか、神器を鞘にしまい構えるアルムさん・・あれは、居合切り?


「・・断罪!」


放たれた斬撃。獣もそれと同時に後方へと飛ぶ。が・・


「・・グギャアアア⁉」


獣の目の下あたりがぱっくりと裂けた。


・・あそこまで届くのか。三メートルはあるぞ。


どのような能力かは分からないが、ともかく獣は傷を負った。


「「グガァァア!」」


今の攻撃に激昂した獣はリスクの考慮をしない、でたらめな攻撃を始める。


「くっ・・っ!」


・・横薙ぎの範囲攻撃、必殺級の噛みつき、テンポを崩すための突進。

激昂しながらも多彩に攻撃を繰り出す獣に、ただでさえ取り回しずらそうな刀のアルムさんは、後手に回ってしまっている。


・・あの獣、思っていたよりは速くない。アルムさんなら倒せるだろうけど、その前に致命傷をくらってしまう可能性もあるわけで。


・・やるしかないか。


「頼むよ、牙鉄」


・・俺はイメージする。


傷一つない理想の肉体を。


想い描くは・・

「常勝の存在!」


俺の言葉と共に傷が塞がり、肉体の疲労感も無くなっていく。


「・・っく!」


後手に回りながらも反撃の機会をアルムさんは伺っている。


「・・・・」


・・続けて、俺はイメージする。


あの獣の鋭い爪でさえ裂けぬ拳を。


数多の存在を噛み砕くであろう牙すら破壊する拳を・


風のように駆ける俊敏さをも超える速さを!


想い描くは・・

「常勝の存在!」


全身に爆発的な力が巡る・・・・よし!行ける!


「・・こっち見ろやぁ!」


俺はアルムさんと獣に割って入る。


「・・‼」


ギリギリのところで察知したのか俺の拳は獣を掠めるだけに留まった。


「・・私一人で問題ありません。下がっていてください」


邪魔者を見るような目で俺を見るアルムさん・・肩で息をしてるのに強気ですな。


「後は俺に任せてよ・・すぐに倒すから」


俺は獣を睨みつける。


「・・グワァァア‼」


先程までとはまるで違う俺の力に気付いた獣は、体格差を活かした突進をしてくる。


・・・・バン‼


耳を塞ぎたくなるような衝突音。トラックの衝突と同じかそれ以上の威力だろう。


「・・こんなもんか」


が、俺はそれを簡単に止める。


・・ふむ。用心して強めに上げたけどそんな必要なかったかな。


俺は右腕に力を込め・・


「・・ぶっとべや‼」


思いっきり真上にぶん殴る‼


・・ドン‼


轟音と共に獣は吹き飛び、空中で跡形もなく霧散するのだった。

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