波乱に満ちた入団式

「うまいな、ここの飯」


「そうでしょ、私も初めて食べた時は感動した」


闘技場内にある食堂で出された定食を食べるディールと、それを見て笑っているミルシ。


「何て言ったっけ?この白い豆みたいなの」


「お米。東にある国から最近伝わったそうよ。それからこの国でだいブームになったんだって」


「マジで?俺いっつもパン食ってたから知らなかった」


てんこ盛りにあった白米をペロッとたいらげ、隣にあった味噌汁も飲み干した。


「この飲み物もうめー、なんだここ天国?」


「大袈裟すぎだよ、美味しいのは分かるけど」


ご飯のおかわりに向かうディールをミルシは笑いながら見ていた。


そして帰って来たディールが持っている器には、またてんこ盛りのご飯があった。


「お前は何か食わないのか?」


「私はあなたが起きる15分位前に食べたから、もうお腹いっぱい」


「そうか、でもこの飯なら何時間でも食えそうだよな」


「確かにそうだけど、もう時間ないよ?そろそろ王城にいかなきゃいけないから」


「なんだ?まだ何かあるのか?」


「入団式、まだやってないでしょ?」


「あっ、そうか。だったらちょっと待ってろ」


そう言うとディールは一気に食べて、完食した。


「ほら、早く行こーぜ。入団式」




王城一階にある玉座の間。


一直線に伸びたレッドカーペット先に、玉座がおかれており、その空間は庶民では手に入らないような風景が広がっている。


そしてに玉座に座っているのが現国王。

メルゾ=フォルテ


「それでは只今より、ドルモアス騎士団への入団式を始める。入団する者、ディール=サランダ、

ミルシ=ルテナの二名はここへ」


「「はい」」


二人はレッドカーペットを歩き、王座の目の前で立ち止まった。


「ディール=サランダ、ミルシ=ルテナ。己の身を犠牲にし、この国を守る盾に、時には矛になる事をここに誓うか?」


「「誓います」」


「それでは、ただいまをもって。この二人をドルモアス騎士団の団員の仲間として認める者は、賛成の拍手を」


周りの騎士団の団員達が拍手をし、城内が拍手の音に包まれた、それは認められた証拠。


「それでは、ディール=サランダは団長ノピアが率いる第一部隊に、ミルシ=ルテナは第八部隊に任命――」


「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁ!」


開いた扉の音と共に、一人の男大声が響き渡った。


「そなたは一体何者ぞ?」


国王が問いかけると男はすぐに答えた。


もっとも、ディールはその男の事を知っていた。


「私は、この国の領内にある名もない小さな村の住人です。」


「何故ここに来た?」


「この場にいる騎士団に伝えたい事があって来ました。その子供、ディール=サランダは犯罪者です!そいつは村の住人3人を殺し、逃げた!」


城内にどよめきが訪れ、騒がしくなった。


「ディール=サランダよ、それは事実か?」


ディールは答えられなかった。


母親を殺されたからといっても、自分が犯した罪には変わりはない。


「沈黙か・・・、ミルシ=ルテナよ、そなたは何か知っておるのか?」


「はい多少は。ディールは母親を殺した4人の子供のうち、3人を殺めました」


「母親を殺されたからか・・・」


国王は少し困ったような顔をして、ノピアにこう言った。


「ノピアよ、ここはそなたに決断を任したいのだが、構わんか?」


「はい、別に構いませんよ」


ノピアはディールに近寄ると、頭に右手をのせて言った。


「ディール、お前辛かっただろうな。でももうもう大丈夫だ」


ノピアは玉座の前に立つと、思いっきり息を吸って大声を出した。


「ドルモアス騎士団団長、ノピア=メッゾの名において、ディール=サランダの罪を免除する!」


これでディールの罪は問われなくなった、だがそれを認めない者もいた。


「なぜですか!そいつは3人他人を殺したんですよ!?なぜ罪を問わないんですか!」


「その者は!親を殺さた!そなたは自分の家族を殺した喪のを許すのか?許す分けなかろう!」


気づくと国王も立ち上がって叫んでいた。


「ワシでも同じ事をするは!」


国王が叫んだ事で騒がしかった城内が一気に静かになり、村の男は怯んだ。


「この場からの立ち退きを命じる、逆らうなら分かるな?」


男は黙って王城を後にし、中断された入団式は再開された。


こうして、波乱に満ちた入団式は幕を閉じた。





「ここがお前の部屋だ、自由に使っていいぞ」


ここは騎士団の宿谷の中。ディールは自分の部屋に案内されていた。


「あの、団長」


「どうした、トイレか?」」


「いえ、今回の入団式でなぜ俺の罪を免除したのかを聞きたくて」


ディールの質問にやれやれと言った顔でノピアは答えた。


「お前は俺の部隊の一員で、同じ騎士団の仲間だ。俺は仲間を見捨てるようなクズになったつもりはない。あとよく覚えとけよディール、何があっても仲間を見捨てるな。絶対にいつか後悔することになる」


ノピアは嫌な事を思い出したのか、少し顔がひきつっている。


「分かりました」



こうしてディールの新しい生活が始まった。

今度はいじめられる異端児としてではない、国を守る一つの盾、または矛としての。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る