立派な息子

ディールは倒れた体を起こし、木にもたれ掛かっていた。


そのディールの目の前に、少女は浮いていた。


「さっき言った通り私は神様の一人、まぁ天界から落ちた身だから、神かどうかは微妙なラインだけどね」


「それで、あんたは何しにきたんだ・・・」


「あんたじゃない」


ミルシ=ルテナは腰に手をおいて、ディールに詰めよった。


「私の名前はミルシ=ルテナ、ミルシでいいわよ」


「じゃあミルシ、何しにきたんだ?」


「何って、天界があまりにも退屈だから逃げてきたのよ」


「それで、何でこんな所に降りてきたんだ?」


「それは、あんたに興味があったから」


「俺に興味?」


少し苦笑いを浮かべたディールはミルシにこう問いかけた。


「魔法を使えない異端児に、何で興味が湧くんだよ」


でも、その答えは簡単だった。


「そこよ。あなたは魔法が使えない、だから興味が湧いたの」


確かに、この世界で魔法を使えないのはディールただ一人。そんな意味では興味も湧くだろう。


でもミルシは少し違った。


「でも興味が湧いたにはもう一つ理由がある」


「その理由は?」


「・・・あなたが、別の世界の力を持っていたこと」


「はぁ?なんだよそれ。俺はそんな力知らねーぞ」


「それはそうよ、その力は魔法みたいに何かを具現化させたりするものじゃない」


「じゃあなんなんだよ」


「君が持っている力は――」


この後少しミルシと話をして分かった事がある。


一つは俺が魔法を使えないの理由。


それは俺が別世界の力を有していたから。


そしてもう一つ。


俺は、本当に人間じゃなかったこと。



「ハハッ、なんだよそれ。俺は人間じゃなくて、ただの怪物だったのかよ」


「そうとも言えるね。君の持っていた二つの力は人間とはかけ離れている」


ディールが持って別世界の力。それは、


何度重傷をおっても完全に回復する


超回復ハイパーヒール


自分の限界を超えて身体能力をあげる


全てを越える身体能力フィジカルオーバー


「でも何で、最初から使えなかったんだ?」


「さぁね、でも一つ言える事は、君の母親の死でその力が目覚めた」


「そうか・・・」


ディールはうつむき、涙を流し始めた。


「俺は、母さんとの約束を守れなかった。ただの殺人者だ」


「でも君は、母親を殺したやつらを許せなかった。そうなんだろ?」


「あぁ、俺はあの瞬間。目の前が真っ赤になった。怒りで自分を制御できなかった」


「それは、普通の人なら当たり前の事なんじゃないかな?」


「違う。当たり前なんかじゃない」


「私が君の立場なら、間違いなく君と同じことをしたと思う」


「いや、お前は俺に同調しているだけだ」


「ううん、違う。」


「違わないんだよ」


「だったらずっと、そこで泣きじゃくってろ。この弱虫!」


その瞬間、ディールの涙が止まった。


「ずっと、ずっとうだうだ言いやがって!お前の母親は、お前がそんな風になるのを望んでいたのかよ?」


ディールは、今までの母親との思い出を思い出した。



「ディール、あんたは異端児なんかじゃない。母さんの、立派な息子だよ。」


母さんが何度も何度も自分に言った言葉の一つだ。


ディールはこの言葉を誇りに思っていた。



「母さんは、俺を立派な息子だと言ってくれた」


「だったら君は、もう立派な息子じゃない?」


「違う、俺は母さんの、ただ一人の息子だ!」


「だったら、母親の分まで生き抜くべきなんじゃないかな?」


「そうだ、俺は、生き抜いてやる!何年でも、何十年でも!」


ディールは気がつかないうちに立ち上がっていた。


「それでこそ私が興味を持った人間だ」


ミルシは笑みを浮かべた。


「なぁ、ミルシ」


「なんだい」


「よかったら、俺と一緒に来ねーか?」


「行くってどこに?」


ミルシがディールに問いかけると、すぐにディールが答えた。


「王都フォルテ、そこにいこうと思う」


「でも何でそこに?」


「そこに、年齢は問わない強さだけが求められる騎士団があるんだよ」


ディールも笑みを浮かべ、年相応の少年のような顔を見せた。


「あぁ、なるほど。それに入団しようって訳ね」


「でもここから遠いから・・・歩きで一週間はかかるな」


「何で歩く必要があるの?」


「何でってそれは、それ以外にどんな方法があるんだよ?」


ミルシはディールを見て、ニヤリと笑った。


「私は神様よ?あなたを飛ばすこと位簡単にはできるは」


「おいミルシ、それって危険じゃないよな?」


「大丈夫大丈夫、ディールには超回復あるんだから、死にたくても死ねないしね」


次の瞬間、ディールの体が空に浮いた。


「おい、まじでゆっくり飛べよ?」


「はいはい、分かってるよ」


ミルシが手を少し動かすと、浮いた体が動き始めた。物凄いスピードで。


「ぬわあぁぁぁぁ!」


「あはははははは!」


「ミルシてめぇ!絶対許さないからなー!」


その2日後、二人が飛んだ姿を目撃した人の周辺の村で、「新種のドラゴンを見た」と言う噂が広まったらしい。


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