戦
決着は新宿ICWビルのオフィス最上階。外ではあいかわらず雷鳴と轟音が轟いている。
「あなた、囲碁経験一年って本気で私と戦う気があるの?」
「年数は関係ない!やる気の問題だ!」
やよいが言って一が返す。
「勝負はやってみなければ分らない。でも本気でビギナーズラックなんて言葉を本気で信じているの?」
やよいが言った。そのとき二人ともNNsをスマート腕時計から召喚した。
「本気でデリートするよ。PIOも一君も」
Lisaが言った。
先手は田中で天元の近くに星を打っていった。コウの形が始まりセキに続き勝負は平行線だ。やよいはあえて黒をつがせる。結果、黒の負けだ。一方Lisaは右手から光を放ちPIOを消しにかかる。PIOは逃げながら左手から光の玉を応酬する。最後に光にPIOは光線に飲み込まれ消える。
Zeroは一に初めて電話を掛けた。
「伊坂やよいに勝ちたいか?」
低音で竜は架空の生き物だが竜が喋ったらこんな声っていう声で話かけた。
「誰だ!?あんた!??」
一が混乱するのも無理はない。自分自身の電話番号から電話がかかってきたのだから。
「俺の名はベガ・ルーザー・ゼロ。敗北者の象徴だ」
Vegaは続けて
「人は息を吸うように簡単に動物を殺す。俺はそうやって殺されていった負の魂が合わさってできたものだ」
「俺は極力菜食をとるようにしている。」
一は続けて
「お前が親父が作ったNNsだってことは分かるよ。」
と言った。
モノリスプロジェクト。月を空洞化し、地上のNNsを制御するサーバーを設置する計画。伊坂やよいはこの計画の実行担当者だ。
何故一がこの計画を阻止しなければいけないのか。それは田中の生まれはアメリカだからだ。そして伊坂の生まれがロシアだからだ。
内閣環境省発注のこの計画は火薬を直接制御することを禁ずる「火薬物オフライン絶対条約」が施工されたあとだからこそ実行されようとしている。
「お前に俺を入れろ!」
と叫び、一に移り込んだ
力を、力を感じる。
これから国を作るか、世界を作るか。
二回目の決選は3年後の2020年に東京オリンピックの名を冠して月の裏側で行われる。ヤコブベースと呼ばれる衛星基地だ
このサーバーの設置量は金メダルの量に比例するとは決して言いきれないのだがあくまでゼロではない。だからこの戦いだけは負けられない。
時は2020年、ヤコブベースへはOE(Orbit Elevator)社の軌道エレベータに乗って行く。俺とやよいの二人とサポーターだけだ。青い星が手のこぶしくらいの大きさになったとき、月の裏側が見えた。おびただしい量のサーバーとサーバーの発する光のおかげで銀河のように広がっている。
「見える?この半導体の量が。これら全ての所有権が私たちにあるの。」
「俺は何も感じない」
やよいが言って俺が返す。
やよいが黒星。
やよいがLisaを召喚した。
俺はVegaと意識を繋げたままVegaを自分の体から引き離した。
先手のやよいは天元近くに黒星を打った。
俺は対称的に打っていき、白の領土はやや狭いが二段組みの壁だ。なんとかやよいの黒い線を囲いきり俺は勝った。NNs側の戦いではLisaは光の剣を両手に構え、次々とそれを投げ付けては新しい剣を空中に召喚し持ち替えていく。Vegaは最初の二本の剣を手の甲で受け止めた。手の甲を剣貫通しながらも剣を引き抜いては投げ返し、Lisaの胸を突き刺した。
「私たちの負けね。あなたは真実を知る権利があるわ」
やよいにつれられ、軌道エレベータに乗り込んだ。やよいが操作盤の前でキーコードを入力するとエレベータは下降を始めた。地球が大きくなり地球の地下に入っていく。
エレベータから見える風景はやがて真っ暗でマントルの中に入っていっていると思われる。地球の中心部に来たかと思うほど、下降を続けるエレベータはやがて停止した。そこにはピラミッドの石室を思わせる狭い一部屋にたどり着いた。
中には一たちが入ったことによりガラス管の照明がつき、白いコンクリート壁で四方を覆われたせまい部屋が表れた。6畳ほどだろうか。部屋の隅には棚があり,チョコレートの箱のようなものがその上に安置されていた。
「開けてみて、一」
やよいが言った。
一が箱を開けるとそれはPCの内部によく似た構造になっており、「1」とかかれたチロルチョコのようなチップが設置されていた。
「これがあなたの正体のCPUなのよ」
やよいは続けた。
「これが設置されたのは1991年。一を動かすのはこのチップのみ」
「これが・・・俺?」
「全てあなたが地球人として真っ当に人生を歩んでいくよう設定されていたのよ。」
目の前の「1」チップが本体だとはどういう意味か?
「脳は送受信の為の端末に過ぎないという話よ」
やよいは俺の疑問を読んだかのように説明を続ける。
「送受信端末ではない脳。あなたのような本体を持っていない人間のことはドールと呼ばれているわ。」
待てよ、おれが1991年にチップとして誕生したのだとしたらZeroはどうなる。Zeroは父親がプログラムした存在じゃないのか?
「この場所に一を導くようにプログラムされた存在はオートマタと呼ばれているわ」
「私はオートマタじゃなかったのだけどね。あなたが私を選んだのよ」やよいは言った。さらに続けて一の目を見据えて言った。
「あなたは誰も信じてはいけない。誰も頼ってはいけない。それがあなたの出した答えなのだから。」
父親との会話すら偽物だったのか。俺は絶句した。
俺はこのCPUを設置した人の行方を追い続けるだろう。「1」としかかかれていないこのCPUを。チョコレートの箱のようなPCにはUSB差し込み口がついていた。スマホの通信ケーブルをつないでVegaをコピーした。そしてIPアドレスを調べた。IPアドレスは「0001」
だった。月のサーバー全てはここと接続されているようだ。
「さあ、地上へ帰ろう」
一は言った。
何日か後、病院のベッドの上で一は目覚めた。病室の机の上に嵌めていた腕時計をみると意識を絶ってから1日と3時間が過ぎていた。
しばらくすると看護婦のジェニファーが病室に入ってきた。
「お薬ちゃんと飲んでいます?昨日あなたが倒れ込むように帰ってきて大変でしたよ。」
全ては夢だったのだろうか?空っぽになってしまうような気持ちを抱えて不安になった田中はVegaを探す。
「俺ならここにいるぞ」
Vegaはホログラムとして時計から浮かび上がった。
「ジェニファーさんありがとう。でも今はVegaと二人きりにしてくれますか?」
「わかりました。じゃああとでね。」
ジェニファーは病室から出て行った。Vegaは言った
「今の俺はすごいぞ、見たいこと聞きたいことだけでなく叶えたいことまで端末に入力したことは 実行してやる。名付けてスーパーOS、略してSOSだ」
Vegaが警告する。
「政治経済学問あらゆる分野でNNsは使われている。使用してもそれらに影響を与えるサーバーは赤色、影響を与えないサーバーを青色、影響を与えたとしてもそれらが小さいサーバーを紫色で表現すると赤:青:紫=25%:25%:50%になる。」
「あと、ICWで消えた同期とは田中一、お前のことだ。月のサーバーを使ってクビになった事実を書き換えてやる。全部で5%のサーバーを使用する。最大値25%以下ならどんな風にでも書き換えてやるぞ。お前がそれ以上を望むならその時はお前次第だ。」
一は返す。
「あの石室のコンピュータを作った人とその目的が知りたい。」
「それを知るには100%のサーバーが必要になる」一は今までの世界が変わってしまうことを恐れた。
「25%分のヒントをくれ。」
Vegaは返した。
「分かった。ちょっと待てよ・・・『父親に聞け』だ。」
一の父親はロバート田中であり,言語学および天文学の専攻者でありNAXA(National Aeronautics and X Administration)で働いている。俺の作成者であると自覚している。電話してみる。…出ない。直接アメリカまで行った方が早い。
「あと人を二値分類できるようになった。A:ドールB:オートマタ…まあどのような意味があるかは不明瞭なままだ」
「1」を作った人探しの始まりだ。一はその目的が知りたかった。
翌日ICWビル。さて、何から手を付けるか。
伊坂やよいと出会った。
「おはよう一。紫扉社長に頼んでね。直接アメリカNAXAまで出張旅行してもらうことにしたよ。ちょうどその頃一般人公開フェスティバルがあるのさ」
紫扉はICWの社長である。一は直接会ったことがない。
それにしてもやよいは仕事が早い。早すぎる。
「視察とあと観光も兼ねてね。あなたと同期2人選んで一緒に出張旅行に行く人を連れてきて。」
「連絡くれたらその人のぶんのパスポートとVISAとっておくから。」
やよいは続けて言った。
俺の目では伊坂やよいの頭上にBと表示されている。自分でも言っていたがもともとAだったようだ。田中一の頭上にはCと表記されている。このことは感覚をリンクしている一にも伝わることだ。
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