9話 『パッシィオーネの終焉 3』
【ボルリオーネ邸第一館】
四人が境界を出た先は、マフィア『パッシィオーネ』のボスの館である。
館の外見は、古い建物の割にはシンプルで綺麗な建物なのだが、要塞化されているので威圧感は隠せない。
それに比べてビンセント達が現れた要塞内部は流石に優雅な物である。
土地は荒地であるのにもかかわらず、リティス邸の庭同様に噴水と水路がある為、景観的には程良く潤って観えるようだ。
そんな水の通る庭は規則正しく花が植えられており、作物を作る畑までもがある。
要塞と楽園の境目である敷地の門は閉まっており、武装している二人の門番が対になって立っていた。
館の門前にも門番がおり、上を見上げれば弓士が弓を絞り、更には魔法使いが詠唱をしてこちらに構えている。
「おい! そこの奴ら! いったいどこから入ってきやがった!? 」
館の門番が仲間の合図に気が付き振り返ると、四人に対して叫び問う。
「人捜しだ! 気にするな!! 」
「人捜しだ?! ふざけるな! 何者だ貴様ら、ここをどこだと思ってやがる! 」
ビンセントが何を言っても耳を貸さずに、警戒は一層強くなる。
マフィアとビンセント達の思いは平行線をたどり、決してこの状況で分り合えるような事は無かった。
すぐさまボルリオーネ邸の警戒レベルが最大となり、ビンセント達四人に対して迎撃姿勢が取られた。
「ここ終わったら少し休もうか」
「そうね、いるかなボス」
「奴ら来るぞ」
「やっちゃおー! 」
館のバルコニーで見張っていた魔法使いが炎弾を撃ち、弓士が矢を放つ。
そのままビンセントが開いた境界に呑み込まれると、術士者の急所に返って直撃した。
見張りの弓士も魔法使いも死んでしまったが、魔法使いの方はあまり強力な魔法では無かった為に、
館に傷が付かなかったことがバルカスにとって幸いだった。
「――でかい館だな。俺とバルカスは先に館に侵入して進めるから、カミラとミルは庭の奴らを片付けてから来てくれないか」
「いいわよ」
「で、できるだけ壊さないでくれ。できるだけでいいからな」
「大丈夫よ、建物は壊さない。すぐそっち行くわ」
「じゃあ宜しく。――バルカス行こう」
ビンセントは境界を開くとそのまま館の門前に侵入した。
「じゃあ、私達もやりましょうかミル」
「私も手伝うよ! どっちが多くやっつけられるか競争だよ! 」
「お、勝負? いいね。じゃあ――、スタート! 」
ビンセントとバルカスが館内に侵入すると、さっきまでバルコニーで見張りをしていた、
魔法使いの自爆音を聴いた組員達が慌ただしくしている。
更に、庭から悲鳴と何かが飛び散るような音が連続で聞こえている。
それを聞いた館内の組員達が門の方を見ると、ようやくビンセントとバルカスの姿を眼に映した。
「なん、なんだお前らは! 門番はどうした! 」
「俺達はどうもしてない。一つ聞くが、『ドン・コルスト・ボルリオーネ』は今この館にいるか? 」
「俺達が質問をしているんだ! いや、それはどうでもいい。おい! こいつらを始末しろ! 」
ぞろぞろと揃い出て、二人を攻撃すべく魔法詠唱を始める。
「探した方が早そうだな。ビンセント」
「らしいな」
手を掲げた魔法使い達の詠唱が終わり、その手から電撃が走り飛ぶ。
「ライトニングアロー! 」
電撃系の魔法は炎系下位魔法である炎弾よりは早く、特性的に鋭く二人に撃ち放たれた。
だが二人は動き、狙った場所には既にいない。
「ヤァッ! 」
バルカスがロビーの組員を斬り裂いて進撃し、ビンセントは境界で上階に行くと、亜空間から剣を取り出して攻め始める。
「なんだこいつ!? いつの間に! くそっプロテクト! 」
ビンセントに迫られた魔法使いはプロテクトを使用し、物理攻撃の防御を行った。
「……魔法使いか、防御魔法プロテクト。俺も使ってみたい」
「ひぃ!? 」
ビンセントが大降りに振った剣はプロテクトを素通りしたかのように鋭く斬り抜け、そのまま魔法使いを断った。
「この先行かせるな! スキル、『オーラ』『身体強化』『プロテクト』『バリア』『フリクト』『水避体』! 」
二階門前に立っていた小柄な男がスキルを使用し、部分開放をするとビンセント目掛けて跳び襲い掛かる。
「ン――」
ビンセントに対して跳び、通りすがりに斬撃を加えるが、全て剣で弾かれた。
床に着き、スキル『フリクト』により足を床に喰らい付かせ、正確な足さばきで攻める。
ビンセントの剣を、スキル『水避体』により全て避けて見せた。
(ん? 強い。 ……もしかして、幹部? )
「スキル『身体強化』」
敵に対抗し、ビンセントも身体強化を使い視覚を強化させた。
ビンセントがその小柄な敵を剣で弾くと、男はまた壁、天井をと蹴り周り、ビンセントの死角を狙っている。
壁を蹴り跳び、ビンセントの背後から突きの姿勢で迫る。
(――まぁいいか。後でバルカスに聞けば分るな)
跳びかかる男のオーラを感じ、振り向きざまに剣で出迎えた。
「水避体! 」
剣に跳び向かった男は回避スキルを重ねてかけたが、身体強化をかけたビンセントの突きの方が速かった。
男の体は剣で胸を貫かれて即死し、ビンセントはそのままバルカスに顔の確認をさせた。
「バルカス! こいつに見覚えはある? 」
バルカスは組員を一人斬り裂いた後で呼びかけられた方を向くと、ビンセントの剣に貫かれている男を二度見した。
「な!? そいつは幹部プラトの側近だ! 運がいいな、という事はココでビンゴだ! 」
幹部の側近がいるとすれば幹部がいる可能性は高いようだ。
これを聞いたビンセントは剣から男を抜いて置き捨てた。
「分かった! このまま片付けよう! 」
何人斬ったか、周囲のマフィアは数少ない。
その時、館の正門が開かれた。
「終わったよ! 」
「うん、終わったよ。それじゃあ手伝うね」
正門からカミラとミルの姿が見えたが、そこから奥に見えた緑の庭は色が赤黒く変わっていた。
バルカスを囲んでいた組員の剣士の頭が、カミラの拳で粉砕される。
バルカスとビンセントもプロテクトレベルの物理防御魔法は難なく破って攻撃を通し、敵を斬り裂いていった。
「ラストォ! 」
ビンセントが最後の一人を斬り倒すとバルカス達のもとへ行き、状況確認をした。
「ビンセントがさっき倒した小柄の男は、幹部プラトの側近で、奴がいるってことは、プラトもいる。
しかも大当たりな事に、プラトともう一人の幹部リストっていう奴はボスの側近でもある。
そいつら二人がいれば、恐らくボスもこの館内にいるだろう」
「という事は、逃げる前にやらないとな」
「急ぎましょう」
四人が階段を上がっている途中、二階通路から生物の気配がする。
「――お? ……犬? 」
五匹の黒皮の犬が鼻を利かせて探り歩いており、四人に気が付いたのか一斉に吠え出した吠えだした。
「あれはプラトの召喚獣だ。詮索兼戦闘要員だな」
召喚犬が牙を剥き出しにして四人に向かって走り迫ってくる。
「がおー! 私も威嚇は負けないぞ! 」
ミルが威嚇の姿勢をとっているが、その姿ではただ可愛いだけである。
しかしドラゴン姿のミルの威嚇は大抵の生物が気絶するレベルのモノであるが、今はその片鱗さえも見えない。むしろ威嚇するミルの姿を見ているカミラの方が恐いのである。
「ミ、ミルを真似て、わ、私も威嚇だぞー! 」
カミラもミルを撫でながら威嚇のポーズをするが、結局ミルに同じである。
紅蓮の闘神として威嚇をすれば大抵の対象者が自害するレベルではあるが、今はその瞬間だけオーラを消しているせいか、紅蓮の闘神の片鱗も見えない。
むしろ威嚇するカミラの姿を見ているビンセントの方が、姿だけで言えば一番圧がある様にみえる。
「……カミラが腹減ってきているせいでかヤバイ気がする。早く終わらせよう」
「ちょっとビンセント! 私は何もヤバくはないよ!? 」
「いや、大丈夫だ。無理は良くないからな」
「な、なによ無理って、ま、まぁいいわ。終わらせましょう」
突っ込んでくる犬にカミラが迎えて突っ込み、拳で犬の頭を貫くと、カミラの手は犬の胸の中まで潜り進んだ。
するとビンセントにも感じられる程、大量の魔力放出が犬の体内から行われた。
「お? 」
召喚獣の魔力が弾けて爆発が起こった。
カミラはゼロ距離で爆発に巻き込まれ、その姿は煙で見えにくい。
煙の中に残った四匹の犬が突っ込んでいくが、二匹の犬が反射でもされたかのように壁に吹っ飛んで行って爆発した。
「久しぶりに見たわ、召喚獣のこういう使い方。また元ギルド関係者かな? 」
カミラが煙を払って姿を見せた。
全くの無傷で、犬二匹の首を両の手で持っていた。
「あぁ、無傷なのは分っていたが、少し心配したぞ」
「あら、……ビンセントに心配されるのはまだ先だと思うけど、一応嬉しいわ」
「まぁ、それは良かった。それで、こいつがプラトってやつの召喚獣か」
カミラに握られた黒犬は、カミラのオーラの干渉を受けて唸ることもせずぐったりしている。
「向こうがそういう使い方するなら、お返ししてあげようかな」
カミラは犬の首を掴んだまま『力』で増幅させた無尽蔵の魔力を、犬型召喚獣の最大魔力貯蔵量を少し超える程に流し込むと、犬はもがき苦しむように体を震わせた。
「さっきの爆発の、十倍位の威力でね」
「!? 、いやそれ館壊れるんじゃ――」
バルカスの声も虚しく、カミラはヤル気満々だった。
「大丈夫よ。十倍って言ってもこんなのは威力が知れてるし、仮に壊れても廃墟スポットっていうと素敵じゃない? はい。じゃああなた達は元の主の元に帰るのよ」
カミラは犬の首を離して床に置くと、犬は走ることができず、苦しそうに体の重心が重く不安定になった様な足取りで帰って行った。
「……うん、大丈夫よね」
「え? 何がだカミラ」
犬を二匹帰らせた後も、四人はその場を動かず待機していた。
待機の理由は、爆発の衝撃があってから次の行動に出る事にしたからだが、今現在カミラの中では不安が生じ、色々考える為の待機となっていた。
「仮にボスが近くにいて、爆発で吹っ飛んで確認出来ない状態になったらどうしようかと思って……」
「それは、それは困るぞ」
「でも……幹部ってオールガード使えてたわよね。じゃあ大丈夫なんじゃない――」
カミラが言い終わる前のタイミングで三階から大きな爆発音が聴こえる。
二階通路まで崩れると、その瓦礫が四人の足元にまで転がってきた。
四人は暫くその方を見て沈黙をしていたが、無言でお互いの顔を見つめると、無言で頷いてその場を立った。
「――うん。見に行こうか」
そして崩れている三階へと進んだ。
瓦礫周囲から魔力が感じ取れる。
この魔力は恐らく、幹部のプラトが召喚獣を用いて待ち伏せをしていたのだろうが、爆発に巻き込まれて消滅し、その魔力が周囲に分散された為の物だろう。
暫く進むと呻き声が聴こえる。
三階の爆心地。最も酷く壊れて壁も無く、外が見える部屋に声の主はいた。
「ギィィイイィ、ケルベロスゥ、追え、嗅げ、喰らい付け、砕け! 欲するならくれてやる、心臓はそこだ! 喰ってモノとせよ! 召喚魔法、ケルベロス! 」
一人、満身創痍の女性がそう言い終わると、魔法陣が蠢いて召喚獣が一匹現れた。
その横には片腕と片足が吹き飛ばされた男がおり、その男の後ろにいる無傷の者は――、
「で、でかしたぞリスト! 」
そう言って自分の命が救われた事に歓喜した。
その場に現れた四人は女と召喚獣は無視して、無傷の男を見てこう言った、
「でかしたぞリスト! 」
戻ってきた黒犬二匹の異常を感じた召喚士プラトは、仲間とボスに防御魔法を使用するように叫んだ。
リストは警告を受けて後ろの男をオールガードを付与して守り、恐らく魔力が足りなかったのか、自身はプロテクトとバリアで覆い守っていた。
しかし、カミラが返した黒犬二匹の爆発の威力に耐えきれずに体が吹き跳んだのだ。
「よし。まさかリストに感謝する事になるとは思わなかったが、とりあえずは良かった」
バルカスは一息ついて安心すると、中年の男を指さして宣告した。
「パッシィオーネのボス『ドン・コルスト・ボルリオーネ』。貴様を死刑にする。組織も壊滅だ。
理由は、私と国の約束を破って奴隷商を行った事によるシザ国法違反である。
また、シザ国外での対処の為、ギルド発令討伐依頼を国で受注した。よって貴様を死刑に処し、死体を我々が確保する。
伴って組織員、幹部各個人、ボスであるボルリオーネ氏個人と組織に対する私とシザ国の弁護も解消する。最後に付け加え、私の個人的な恨みを買った事を罪であると心得よ」
バルカスの淡々と語る宣告を聞いたコルストは、状況が自身の理解を超えて焦りが来ない。
ただの、最近多い襲撃と思っているのだ。
バルカスの言葉を鼻で笑い、掴んでいた箱の中から金の首飾りを取り出して自分の首に着けた。
カミラはその身に覚えのある首飾りを見て考えるが、右側から唸り声が聞こえるので、振り返るとビンセントが三つ頭の黒犬、ケルベロスと交戦中であった。
「おぉ、結構力強いなこの犬。――いや犬か?! デカくないかこれ! 」
「バカな……ケルベロスの爪を受け耐えるなど……」
「プラトの最強召喚獣ケルベロス。流石だなビンセント、しかし驚きどころはデカさじゃないぞ、頭が三つあるだろ! 」
「いやしかしな、意外とこれくらいなら、魔物にもいたからな。力は強いが、俺でも何とかなるぞコレ」
「それクラスなら、今のビンセントなら余裕よ。それより、早く幹部二人の首獲ってこいつやりましょ」
言葉を交わしている間にもケルベロスの二つの首を刎ね飛ばし、最後の頭を下部から剣で貫き、ひねって首を折るとそのまま切断した。
「おう、今やった。終わりだ……えっと、プラトだな。終わりだプラト」
ビンセントは容易くケルベロスを倒して見せたが、その光景を見ているプラトはどうにもならなくなっているようで、万策尽きて言葉を荒げる子供の様だった。
「クソが!クソがくそがクソがくそがァっ!! テメェらふざけんなァァ! 」
焦げ崩れた満身創痍の体でケルベロスの死体に近づくと、残っている魔力を吸収してビンセントまで這って行った。
体を痙攣させ、失禁をして床を濡らし、爆ぜた顔面からは眼球一つで笑みを浮かばせてビンセントの脚を掴む。
「イィヒィッヒヒヒ――道連れだァ!! 魔法ォッ!『マジックエクスプロ―ジョン』!! 」
プラトの体内に魔力が凝縮して高まっていく。
次第に彼女の体にある魔力貯蔵庫いっぱいに広がり、その耐久力は限界を迎える。
この魔法『マジックエクスプロージョン』の通常の使い方は、召喚獣の活動限界時に最後の攻撃として全魔力をエネルギーに変換させ、召喚獣を自爆させる技として使うのだが、召喚士自身がこの魔法を使う場合、その威力は召喚獣の比ではない。
技と言え自爆であるから、召喚士は自身の体内の魔力を解放すると内側から爆発して死ぬ事になる。
魔力の一部分でしかない一般召喚獣とは違い、一般召喚獣の元となる召喚士の魔力はその何十倍も大きい。
魔力貯蔵量においては個人差や召喚獣の個体差により大きく違うが、魔物との戦争時にもこの魔法を使う召喚士は軍やギルドからも結構いたのだ。
そしてプラトから最期の魔力が体から放出される瞬間。
「――よし。『境界』」
ビンセントはプラトの首を切断すると同時に、プラトの体を丸々境界で呑み込むと、亜空間内で大爆発を起こした。
ビンセントはもちろん、三人に対しても全くの無傷である。
(自爆か、敵ながら凄い覚悟だよプラト――)
プラトを想って境界を開くと、灰のような物が少し境界から漂い出てきた。
(――まぁいいか。これで更に二人だ)
「終わったぞカミラ」
ビンセントはカミラからリストの首を受け取り、プラトの首と一緒に境界にしまった。
「お疲れ様ビンセント。どうやらこいつは面白そうだよ」
「え? 」
コルストは気が狂ったように首飾りに魔力を込めて、謎の言葉を呟き続けている。
「なんだ、あの首飾りは。カミラ知ってるのか? 」
「金ぴかだ! 」
「あれは、勇者が見つけた伝説級のアイテムの一つ。『アンデッドの首飾り』一種の変身系アイテムよ」
金の首飾りの中央には白いくすんだ物が埋め込まれており、そこから魔力が噴き出てコルストを包む。
「アンデットの首飾りは死者に変身できる力を持つらしいよ。死者であれば、魔物でも例外じゃないらしい。でもエリスさんに聞いた話では、使用者に力が無いと何になるかも決められないみたいだけどね」
「そ、そうなのか」
「力を持っていない者が変身するモノと言えば、大抵はアンデッド種の魔物ね。
スケルトンやゾンビ、リッチか、運が良かったらナイトウォーカーかイビルナイト。最悪の場合、呑み込まれちゃったらデスナイトね」
「く、詳しいな……」
「色々聞かせてもらったからね」
コルストは首飾りの魔力を受け、薄い黒いオーラを纏うと黒い鎧姿に変化した。
「あぁ、デスナイトね。呑まれちゃってるわ」
「あれ、首獲れるのか」
「首刎ねれば死ぬし、その辺は大丈夫よ」
「見た目だいぶ強そうだがな」
大きな黒い鎧に身を包んだコルストの手には、大鎌が握られていた。
長過ぎる柄に大きく湾曲した刃は、少なくとも瓦礫があって狭くなっている部屋では扱いにくいだろう。
振るにしてもピンポイントでしか攻撃ができず、横薙ぎに振っても制限されて調整が困難だ。
引き斬る事が一番攻撃が当たる可能性が高いだろう。
だがそれはこの大鎌に対して常人がその重量を扱うという考えであり、デスナイトは魔法生物でありながら、腕力が凄まじい事で知られている。
ギルド発令の勧めにはこうある。
『デスナイトを討伐する際は、パラディン等上級防御法を持つ者と、魔力供給の出来る魔法使いを入れたパーティーで挑む事。デスナイトの討伐クエストを受注する際には、ギルドの適正審査がある場合がございますのでご了承ください』
とあるのだ。
しかし現在そんなメンバーはいない為、四人は真正面で構えるしかない。
カミラが昔聞いたギルドの案内では、適正メンバーが揃っていない状況下でデスナイトと遭遇した場合は迷わず退却とされていた。
無論今そんな事を考える者は誰一人いない。
「大鎌、初めて見るな」
「バルカスやってみる? 結構トリッキーだよデスナイト。 魔法も使ってくるしね」
「遊びではないがな、やらせてもらえるなら私がやる」
「えぇ、あの大鎌、……。俺もやってみたいな」
ビンセントが羨ましそうにバルカスを見ていると、カミラは苦笑して制した。
バルカスは大剣を一度振り払うと、デスナイトに切先を向ける。
シザ国女王とマフィア『パッシィオーネ』のボスコルストの戦いは、バルカスが先制を取って大剣を振り下ろすところから戦闘は始まった。
互いが大得物を操っての打ち合い、ビンセント達が見ている限り激しい戦いではなく、衝撃の重量こそは感じられるが、試し合わせの様なゆらりとした戦闘であった。
「――今のビンセントは、能力使わなくても剣ですぐ倒しちゃうから」
バルカスの戦闘を見ながら、カミラはビンセントに止めた理由を伝えた。
「お、それは成長したと受け取っていいのかな? しかしおかしいな、俺は魔法使いなんだがな」
ビンセントとしては嬉し反面、本人はそんなことを思っているつもりは無いが、『では次だ』というような焦りを、感じ得ぬ深いところで思い始めていた。
「いいじゃない。魔法は後でミルに教えてもらうんだから。ね、ミル」
「そうだよ! 」
「そうだった! 早く教えてもらいたいな。バルカスがんばれ! 昼食が待ってるぞ! 」
闇属性のオーラを纏うデスナイトは雰囲気こそ禍々しく見えるが、実際の力と恐ろしさで言えばカミラのオーラを借りているバルカスの方が遥かに上だ。
ビンセント達の声援を受け、自身が纏っているオーラが誰の物なのかを再度改めて考える。
まさしく最強に部類される能力の片鱗を借りているというのに、バルカスはデスナイトに圧されつつあったのだ。
それが、バルカス自身の中で許せなかった。
「分かってはいるが、何とも厳つい鎧だな。しかも、速い――! 」
鎧の重圧感と、大鎌の連撃を大剣で受け続けるバルカスは苦戦していた。
大鎌を頭上斜めに回してバルカスを削り襲うが、バルカスは懐に踏み込んで大剣で斬り上げて斬撃を弾き流した。
デスナイトは後ろに跳び抜いて後退すると、大鎌のリーチを活かし、刃をピンポイントにバルカス目掛けて横薙ぎに振る。
バルカスは大剣の腹を斜めにして刃を後方に滑り避けると、またもデスナイトの懐に飛び込み大剣を振るう。がら空きだと、好機だと、そう思った。
――しかし、コレが『鎌を引く』という攻撃に変わるのだ。
バルカスの前にはデスナイトが、背後には引き迫る大鎌の刃が静かにあった。
「バルカス! 後ろだ! 」
ビンセントの声掛けに
(ぐっ、私としたことが、注意が欠けていた――)
振り返りざまに大剣を大きく戻し振り、迫る大鎌を下から強く叩いた。
バルカスは打った衝撃と軌道に身を任せて下に避け逃げ、追撃の大鎌をかわして後方に回ると、
デスナイトの右膝裏の装甲隙間に大剣を突き刺した。
デスナイトの右膝装甲は大きく歪み、バルカスの大剣にはコルストの血が付いていた。
(手ごたえありだ。だが、これ以上油断をするな。これ以上死んでたまるか)
デスナイトは詠唱無しで召喚魔法を行った。
魔法陣から黒犬が三匹出たが、デスナイトが黒犬を大鎌で刈り取ると右足が回復した。
『リベインガルー』命を喰って自分に取り込む吸収系回復魔法であり、戦争時はギルドでもよく使用されていた回復魔法だ。
更にデスナイトはバルカスに死霊系魔法をかけようとするも、状態異常効果は全てカミラのオールガードの前に無効化された。
効果が無い事を理解したデスナイトはバルカスへの魔法を止め、自身へ魔法を使い始める。
身体強化を始めとした能力向上スキルや魔法、防御系や属性付与、特殊効果魔法を重ねたのだ。
バルカスは術中のデスナイトの首を狙い、出来る限りの力で横薙ぎに大剣を振りあてる。
しかし、その斬撃の衝撃はデスナイトに与えられるはずの物が、バルカスのオールガードに衝撃が入り、バルカスは弾き飛ばされた。
『リフレクトペイン』物理攻撃を受けた際に、攻撃者に攻撃を
つまりデスナイトにはバルカスの斬撃は入らず、攻撃を行った側のバルカスがその斬撃を受けた。
「リフレクトペインか、バルカス大丈夫? それすぐ消えるから安心してー! デスナイトなら三秒位しかもたないしね」
オールガードの為に無傷だが、バルカスは壁を突き抜けて廊下に出ていた。
「なるほどな、しかしそんな魔法もあるのか、厄介だな」
バルカスは大剣を持ちながら部屋に戻ってこようとするが、デスナイトが壁を壊して追撃を始める。
「能力『リミットブレイク』――Lv10」
バルカスがそう呟くと、彼女の能力値が跳ね上がる。
襲い掛かるデスナイトを大剣で弾き飛ばした。
弾き飛ばされて状況を理解したのか、デスナイトは瞬時にオールガードを使用した。
バルカスがデスナイトまで跳躍して大剣を振り下ろすと、オールガードにヒビが入る。
「オラァ――! 全力だァッ!! 」
バルカスは横薙ぎに大剣を振るうと、さっきとはまるで違う攻防が始まった。
デスナイトは敵の斬撃速度に必死に追い付こうと大鎌を操って盾にする。
衝撃が互いの武器に走るが、バルカスの大剣が大鎌を通り抜けてデスナイトのオールガードを破壊、
厚い装甲の鎧を斬り裂くと中身のコルストの血が噴き出した。
振り切られた大剣は逆方向に進み、切先は弧を描いて今度はデスナイトの首に斬撃が走る。
「おぉっ」
刎ね跳ぶ頭は天井に当たって床に落ちた。
アンデッドの首飾りにより生まれた巨大な鎧と兜は、懐かしい魔物の滅びの時の様に崩れ去り、中からは首無しのパッシィオーネのボス、ドン・コルスト・ボルリオーネの体と、転がる頭が現れた。
バルカスはコルストの頭を掴み取ると、観戦している三人の元へと戻った。
「やったぞ、コルストの首だ! 」
「よっしゃ! おめでとうバルカス! 」
「おめでとう! 」
オールガードの為に返り血も浴びないバルカスだったが、自身の能力を使いデスナイト基パッシィオーネのボスコルストを討ったバルカスは、非常に嬉しく意気揚々としている。
「バルカスはリミットブレイクを使えるんだね。しかもレベル10、最大値だね」
『リミットブレイク』とは、魔法でなくスキルでもなく、カミラの持つ『クリムゾンオーラ』の様な、個人が生まれて持つ能力の一つである。
リミットブレイクの能力効果はステータス値の制限を解除し、更に解除した能力者のステータスの最大にまで数値が上がるという能力だ。
能力のレベルがLv1からLv10まであり、レベルの違いによって能力の上昇値が大きく違ってくる。
効果時間は大よそ五秒前後で、長く持続できる者で十秒程度が限界だ。
リミットブレイクという能力自体は、戦争時代で使われていた能力者の中では比較的に多く見られた能力ではあるが、殆どの者がレベル1から3程度で、それ以上の物となると希少な能力だった。
特にレベルが10の能力者は殆ど存在しない。
「フフ、でも二十秒位しかもたないんだけどね……」
「それだけ持てば十分じゃない。リミットブレイクLv.10使ったら、たぶんビンセントも負けちゃうね」
「うん。反論はしないよ、そんな気がする」
「ハハハ、まぁ、何はともあれボスを獲った。後は残りの片付けだな」
「はいよバルカス」
ビンセントはバルカスに向けて境界を開いた。
「おぉ、悪いな」
バルカスは境界の中にコルストの首を入れた。
「今何時くらいだ? ちょっと腹が減ってきたな」
「私もお腹すいた! 」
ビンセントとミルが空腹の腹をさすると、バルカスの腹からは音が鳴った。
「バルカスもお腹すいてるんだね」
「なっ、ち、違うぞ! 私じゃない! 」
恥じるように顔真っ赤にしてカミラに反するが、皆が笑っている。
「ていうか、よく食べるわね。朝割といっぱい食べたんだけどね」
そう言うカミラがこの四人の中で一番多く食べる者だろう。
「ちょっと街で飯食おう。 その後片づけってことで」
「そうね……。ん? 」
カミラが床に落ちる者に反応して拾いに行く。
「あ、『アンデッドの首飾り』だ。いただいちゃいましょうか」
金に光る首飾りはギラ付きが強く、上品とは離れたような下品な首飾りだった。
しかしこれでもコルストをデスナイトに変身させた伝説級のアイテムである。
「持ってくの? 大丈夫か? 」
「大丈夫よ、私達位の能力があれば、首飾りに呑まれることは無いわ」
「そうなのか、少し怖いがな」
「使う機会はそうないでしょうけど、一応ね。はいビンセント」
カミラはそう言って首飾りを投げると、ビンセントは境界で呑み込んだ。
四人の目に映るは瓦礫と死体。
「まぁ、館は割と壊れたが、まだ使えるだろう。街に戻ろう」
バルカスがビンセントに向くと、ビンセントはシザ国の街中に境界を開いた。
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