8話 『パッシィオーネの終焉 2』

 カミラとビンセントが、方法は違えどバルカスの視界から消え失せる。

 数十秒の中で数回衝撃波が走りると庭の組員は全て消え、屋敷の壁外からはどういう訳か、なぞる様に悲鳴が聞こえる。

 カミラを肉眼で確認できるようになり、ビンセントは境界から出てきて再びバルカスの目に映った。

「よし! ここのアジトは済んだな」

「そうね」


 ビンセントは境界から借りている地図を出すと、バルカスに向かって訪ねた。

「次はどこにする? 」

 バルカスは再び呆気に取られていた。


 確かにドラゴンであるミルは強力な存在だが、カミラは人の一人身であるのに軍団以上に戦闘力がある。

ビンセントはどこか別方向の能力の持ち主で、人やそこらのエルフでどうにかなるような存在ではない。

今の今も、一分足らずで残党を殲滅したのだ。

 庭にいたマフィアは、見ただけでも百人を超えていた。

敷地を囲む壁の外のマフィアと用心棒達の数も相当で、異常事態に対して庭に出動した者もいるが、この短時間で殲滅とは、明らかにおかしい。

 そんな風に考えていたら、ビンセントの問いへの反応が遅れてしまい、気が戻ると急ぎ答えた。


「あ、あぁ。だがまずは、壁外の死体片付けと、幹部の首をどこかに保管しないとな」

「あぁ、それなら大丈夫だ」

 ビンセントはそう言って境界を開くと、亜空間からボトボトと組員の死体が出てきた。

「壁外の奴らはこれで全部だよ。幹部の首も境界内に入れよう。この境界の空間内では腐敗もしないらしいしな」

「なるほど、それは便利だな……。それにしても、壁外の連中もやはり数多くいたんだな」


 境界から出てきた組員の死体で、山が築き上げられていた。


 まるで数やその事が何でもない様にビンセントはバルカスに同意した。

「そうだな、見張りも確かに厳重だった。数多いよな」

「ビンセント、さっそく首宜しくね」

「ん? あぁ。入れてくれ」

 カミラが三人の幹部の首を持ってくると、ビンセントの境界内に入れた。

「……ところで、二人がやった幹部のベリーとヒストは、どうだったんだ? 」


 幹部であるベリーとヒストも、自身の闘ったジェド同様実力者だった事を知っているせいか、

どんな風に戦ったのかが気になり、二人に聞いた。


「どうって? 」

「どんな風に戦って勝ったんだ? 私は幹部ジェド・ジェットと闘っていた時、カミラのオールガードが無ければ危なかった事が何度もあったんだ。ビンセントとカミラからすれば何でもない連中かもしれんが、どうにも気になってな」

「あら、バルカスが苦戦したの? 」

「あぁ。苦戦というより、カミラのオールガードが無ければ死んでた。改めて礼を言わせてくれ、ありがとう」


 戦闘は幸先よくバルカスが好戦していたが、覚悟を決めたジェドの純粋な力の前には圧されていた。

その事実が悔しく思い、自身の無力を痛感するのだ。


「そうなの? お礼なんかいいわよ」

 バルカスの身の安全が取れた事と、ミルが楽しめていたようで、カミラは満足している。

「そうねぇ、私達はね」

 そしてカミラはミルの方に寄っていき、頭を撫でながらその時の状況をバルカスに伝えた。


「ビンセントと二階に行った後は組員をさっきみたいにやっつけて、三階に上がったらその幹部、ベリーとヒストっていうのに会ったんだよ。私はベリーって奴と闘って、ビンセントはヒストって奴と闘ってたんだよ。ね、ビンセント」


 話を振られたビンセントは、地図から目を話して三人に近づいて話す。


「あぁそうだな。ベリーとヒストはどっちも魔法使いだったな、なんか色々魔法を使ってきたよ。

カミラがベリーに向かって歩いていくとそいつは防御魔法を張ったんだが、カミラがその防御魔法を無視して一撃拳を振ったら、魔法と一緒に体が跳んで仕留めてたな」


 ベリーとはバルカスもある事件が原因で戦いを交えた事がある。

バルカスはその事件でベリーを撃退して退かせたが、かなりの苦戦をしたのである。


「一撃か……」

「まぁでも、そうだね。私とベリーってやつは出合頭に決着がついたけど、ビンセントは『境界』を使わずに、剣で向かって行ったわね。ヒストってやつも防御魔法を張ったんだけど、ビンセントが二回剣を振ったら割れてたわね」

「割れたな。境界は色々試してみて特性みたいな物を少し発見したし、新しい使い方も思いついたよ。

それで十分だと思ったから、ここでは稽古して覚えた剣術で相手をしたんだよ」


 ビンセントはこの戦いの中で人体を使って境界を試していた。

試してみた結果は、人体に境界を開くことはできても、そのまま境界を消すことが出来ないことが分かったのだ。

 開いている状態から途中で消そうとすると、開いた境界が閉じてから消えるのだ。

つまりは人に対して、境界を使った肉体切断は出来ないという事だった。


 それを知るとビンセントは満足して境界の使用を止め、剣を持って真正面からヒストに立ち向かった。


 ヒストも防御魔法オールガードを使用したが、ビンセントの斬撃を二回喰らうと一回でヒビが入り、二回で砕け散った。

 ヒストは爆破魔法の詠唱を唱えてビンセントに放とうとするも、ビンセントの剣が喉に突き刺さり、詠唱最後の放つ言葉を発せずに魔法が暴走。

ビンセントの剣は喉を串刺して三階床にまで深く刺さる。


 魔法を放とうとしていたヒストの右手表面に魔法陣が発生し、爆発魔法が暴発。

最終的には自爆という形でヒストは最期を迎え、ビンセントと瓦礫と共に一階まで落ちてきたのだ。

 勿論ビンセントはカミラのオールガードにより無傷である。

それに比べてヒストは胸部より上を残して死んだ。


「……なるほどな」

「俺の手で仕留めたともいえんからな、まさか自爆するとは思わなかった。幹部――、やるな」

「いや、たぶんただの事故だろ」

「自分の能力以上の魔法を使うと、暴発しちゃうらしいしね」

「そうなのか、俺も魔法使いとして覚えておこうかな」


 バルカスはビンセントの発言に耳を疑った。

ビンセントが魔法使いとは思えないのだ。


「は?! え、ビンセントって魔法使いだったのか? あぁ、あの『境界』っていうのはやっぱりなんかの魔法なのか? 」

「いや、どうやら『境界』は魔法ではないらしい、カミラ曰くだが、単なる能力だそうだ」

「魔法じゃないわよ。能力よそれ」


 ビンセントは魔法使いだが、いまだに剣を使っているし、最近まで剣術の訓練をしていた。

魔法はと言うと、まだ一つも覚えていない。


「……なんで魔法使いなんだ」

「俺の憧れだったからだ。なってみたかっただけだが」

「……そうか」


 それ以上何も言えないバルカスであった。


「ビンセント! 私が魔法教えてあげるよ! 」

 カミラに撫でられながら、自信満々にミルが言った。

「教えてくれるの!? 教えてミル! 」

 好奇心と嬉しさ全快でミルに教授を請うビンセント。

「あ、でも先にパッシィオーネを片付けようか。今日戻ったら教えてくれないかな」

「いいよ! 私も詳しくは分からないけど! 」

 ミルのさらりと言う、少々不安をあおる台詞を素通りして、カミラも教えて欲しそうにミルを見つめている。

「私も、回復魔法教えて欲しいなミル」

「いいよカミラ! どういう風に伝えたらいいか分からないけど、教えるね! 」

 それでもミルは元気に自信を持ってそう返した。

「魔法か、私も全然使えないんだよね。マフィアが使ってるの見ると、なんか腹立ってくるわ」

「それは、あるかもしれない」

 真剣な顔でビンセントがそう言いながら地図を持ってバルカスに近づいた。

「じゃあ、魔法が使えるようになることを楽しみにして、次行こうか」

 再びバルカスに地図を見せると、他のアジトの場所を問うた。

「あぁ、そうだな。そうしてくれると助かる。次が、ここから少し離れる。――ここだ、ここにもこれくらいの規模の屋敷がある。ここは幹部の一人ケイもいる」


 ビンセントの持った地図に、バルカスが指で場所を指し示すと、ビンセントも境界を開いて上空から街を眺め、地図と眺め見える街の形を照らし合わせた。


「あの屋敷かな? 」

「そう、あれだな」

 ビンセントがバルカスに確認をすると、屋敷に境界を引いた。

「庭に境界を引いたけど、このまま直接行く? 」

 ビンセントがカミラにそう言うと、カミラは頷いて答えた。

「その方がいいかもね、普通に門を突破していくと、周りに被害が出ちゃうかもしれないからね。

先に幹部と中のマフィアを片付けましょう」

「そうだな。その方がいい」

 カミラの意見にビンセントとバルカスも同意し、ミルも早く次のところに行きたいと気持ちが躍っている。


「よし行こう。幹部の首とったらすぐ掃除して次だな。今日で全滅出来るかもしれないな」

「そ、そうしてくれるとありがたい」

「それじゃあ行きましょうか」

「うん! 」


【パッシィオーネアジト、ケイ邸】

 境界に脚を踏み入れ、出る先はケイ邸の庭。

ケイ邸では今、本部に出かけんとし、馬車に乗るケイの姿があった。

それを逃さないのはバルカスだ。


「ビンセント、幹部のケイが屋敷を出るぞ」

「お、あいつがそうなのか」

 ビンセントは境界を使ってケイの馬車の隣に移動した。

「パッシィオーネの幹部、ケイだな? 」

「なんだお前は! 何処から入ってきた!? 」


 突如現れたビンセント達四人に驚き、応戦を開始する組員だが、馬車に乗ったケイは襲撃者の強大さを知って馬車から出てくる。

「お前等よせ」

 ケイが組員を制すると動きは止まり、ケイはビンセントの問いに答える。

「そうだ。私がケイだ。お前のいうとおりパッシィオーネの幹部についている。お前は誰だ? 」

「俺はビンセント・ウォーだ。シザ国女王、バルカスを手伝い、パッシィオーネを潰しに来た。宜しく」


 周りのマフィアは、ビンセントがあまりに現実離れしたおかしな事を言う物だから笑いを堪え、ついには吹き出してしまう者もいたが、ケイは笑えない。

 ビンセントの雰囲気を知り、後ろにはそのバルカス本人がいるからである。

その横にはありえないような力を持つ赤い者が一人。

それとどうしたことか、白い無能力な小娘一人がいるのだ。

 笑える要素等どこにもない。


 前の男、ビンセント・ウォーという男の言っている事は本当の事であり、今まさに、今からそれが行われるという事だ。

「なるほど、そうか。だが、パッシィオーネを潰されるわけにはいかない。私が相手をする。ビンセント・ウォー」


 ケイは馬車から剣を持ってくると鞘から抜き、刃を露わにしてビンセントに向けた。

「カミラとミル、バルカスは周りを頼むよ」

 ビンセントの声掛けに三人は頷いて戦闘を開始する。

声掛けと共に始まった猛攻に対処できず、組員は次々と死体に成り変わる。


「バルカスのオーダーは曖昧だったが、恐らくはこうだろう。幹部の殲滅とボスのコルスト討伐、後は目に見えた敵の殲滅だな」

 ビンセントはそう言って境界を開いて剣を出す。

 謎の亜空間とありえないオールガードを見たケイは、ビンセントを気味悪がったが気を落ち着かせて万全の体勢を整える。


「なんだ今のは、魔法か? 気味の悪い」

「心配するな。戦いは剣しか使わん」

 ビンセントは剣を振りながら正面に踏み出した。

重く硬い音が響き、ケイの顔は歪む。

「なんて、重い剣だ、――だがっ! 」

 ケイはビンセントの剣を反し、カウンターを狙い突きの構えをとる。


(やっぱり遅く見える……。俺はカミラ達に慣れ過ぎたか、それともおかしくなったのか? )

 ビンセントはケイの突きが遅く感じた。

否、ビンセントが速くなったのだ。

 その時、既にビンセントの剣はケイの肩にまで届いていた。

ケイは対する斬撃速度について行けず、腕を動かしてビンセントを突こうとしたが、その時既に腕の感覚は泣く、また動かせないでいた。

 ケイの左腕は肩から切断されていた。


「ぐぅッ――」

 ビンセントの次撃を片手で持った剣で何とか防ぎ、魔力を集中させてオールガードを張って特攻した。

「――通れ! 」


 ケイの剣は通らなかった、ビンセントを守るカミラのオールガードにも届かない。

ビンセントはケイのオールガードを一閃の斬撃を以て破り、その延長線上で剣を折り胸を斬り裂いた。


「終わりだケイ」

 返事は泣く、胸部からは血液が空気交じりに泡立っていた。それでも視線は今もビンセントを見つめていた。

ビンセントは剣を振ると、ケイの首を獲った。


「おーい! 幹部の首獲ったぞーッ」

 ビンセントがそう言って周りを見て三人に呼びかけるも、庭にはマフィアの死体が散らばっているばかりで誰もいない。

しかし建物からは人の声や破壊音が聞こえており、どうやら三人はまだ戦闘中であった。


「おー速いねビンセント、こっちももうすぐ終わる! 」

 三階の窓からカミラがそう答えると、ビンセントは手を振って答えた。

バルカス達は今後の事も考えており、建物を出来る限り壊さずに組員達を葬っていたのだ。


(じゃあ俺はまた外の掃除だな)

 ケイの首を境界内にしまいこんだビンセントが屋敷の門を見ると、また数人が青い顔をして入ってきた。

ビンセントは境界を開いて組員の横から出ると、剣で首を刎ねた。

続いて境界を壁外と上空に開くと、上空からの景色で組員の位置を確認しながら、もう一つの境界で移動して斬りながら死体を回収していくと、あっという間に壁外の見張り組員は全滅した。

庭に戻ると、屋敷から出る三人の姿があった。


「ビンセント! 終わったよ! 」

「俺も今終わった、壁外の連中も片付いたよ」

 境界を開くと、ベリー邸程の数は無いが、壁外の組員の死体が落ちてきた。

境界からケイの首を出すと、改めてバルカスに確認をさせた。


「コレがケイで合ってるんだよな? 」

「あぁ間違いない、助かる。後幹部は六人だな。さっき賊員から手に入った情報があるが、もう済んだベリー邸のパーティーの話と、ここから少し離れた村で何やら作戦をすると言っていたな。

幹部を二人連れての大規模な事をやるらしい」

「じゃあそこに行くか。場所は分かる? 」


 ビンセントが地図をもってバルカスに見せて説明を請う。

「あぁ、シザ国の西側に位置する村だからな、えっと、ここだ」

 バラカスが地図上で指示した場所を実際に境界を開いて確認をする。

地中海から離れた所に、マフィアの作戦地である村は大きくはないがあった。

「バルカスあの村か? 」

「あぁ、そうだあれだ。って、あの馬車がパッシィオーネみたいだな」


 村とシザの直線状にワゴン付きの軍事仕様馬車四台は平原を連なって疾走している。


「固まっていて手間が省けるね。早速行こう」

「よし行こう! 」

 カミラとミルが答え、ビンセントは境界を平原に開いて四人は渡った。


【イリル平原】

 境界から出た四人の眼にはこちらに走ってくる軍事仕様馬車が見える。

「その馬車とまってくれ! 」

 ビンセントが手を振って馬車に呼びかけると、その声に答える代わりに馬車の前面から弓を持った女が出て来て、ビンセントに矢を放った。


「うぉ!? 」

 返事ではなく矢を放たれたビンセントは、境界から剣を出して矢を斬り防いだ。

正確な狙撃を認めたバルカスは、それをした弓士に確信を持った。

「間違いなくパッシィオーネだな、あの弓女は幹部のヨグラスだ。マフィアは幹部の誰が出ているかまではしゃべらなかったが、ヨグラスと二人で出る奴といえば、盾野郎だな」


 ヨグラスという幹部は引っ切り無しにビンセント目掛けて矢を放つ。

「俺に場所確認されて、遠距離攻撃をするのは止めた方がいいんだけどな」


 ビンセントは二か所に境界を引いて、ソレを盾とした。


 ヨグラスが大きく弓を引き絞って矢を放つと矢は空を斬り、ビンセントに向かって薄い弧を描きながら飛んでいく。

 ビンセントは引いた境界を開いて構えると、矢は境界超え、もう一方の出口から勢いそのまま飛び出してきた。


「――げぇっ!? 」


 悲痛な叫びが、四人に向かい走行する軍事馬車から響き渡った。

先頭馬車の御者は驚いて馬車を止め、続く馬車は急には止まれずに左右にずれて止まった。


「……ヨグラスを、もうやったのか? 」

 ヨグラスといわれる女性幹部は、喉に矢が突き刺さる時、矢が深く刺さり過ぎて馬車のワゴンにはりつけにされていた。

「あ、もう終わったのか……。じゃあ後もう一人だな」


 馬車からは騒々しい声が響き、ぞろぞろとマフィアが降りてきた。


「とりあえずヨグラスを回収するぞ」

ビンセントがヨグラスを境界で呑み込み、手元から顔を出させた。

「パッシィオーネ幹部、ヨグラスだな」

 ビンセントの問いに答えられず、紫の長い髪を後ろで一つにまとめている女性は、首を矢が貫通したまま目は虚ろであった。

「間違いない、そいつがヨグラスだ」

 眼は虚ろながら、体が痙攣を起こしている。

「ビンセント、早く止めを刺してあげた方がいいわよ」

 幹部ヨグラスの姿を見たカミラは、ビンセントに止めを刺すことを促す。

「そうだな」


 どういう女とも知らなビンセントは、女性という事で一瞬哀れんだが、カミラの一言で我に返った。

ヨグラスの痙攣は激しく、失禁しだしている。

そんなヨグラスの首を獲って止めをさし、彼女を楽にさせた。


「大丈夫だビンセント。躊躇する必要はないぞ。その女は拷問狂でな、まぁ酷い奴だった」


 バルカスが言う『拷問狂』という言葉を聞いて、このヨグラスという女を薄く察したビンセントは、境界内に切り取った首を入れると、パッシィオーネに視線を戻した。


「――よし次やるか、って、向こうもやる気満々だな」


 軍事馬車の方から矢と魔法による炎弾氷弾が発せられている。

ビンセントは手段同じく二か所に大きく境界を開くと、それを盾にした――。

すると、馬車の方から悲鳴と破壊音が響き、境界を閉じた。


「うわぁ、ビンセント。それは手も足も出ないな……、なかなかに」


 ビンセントが遠距離攻撃に対して使う『境界』に対し、若干引き気味のバルカスがそう言う。

ビンセントは少し困った顔をしており、明るい期待顔のミルは変わらないが、カミラは苦笑している。

 ビンセントとしては、境界の活用を模索して考えた防御手段であったが、どうもコレを見た者達の最初の評判が悪い。

 カミラも初め見た時は反応を濁していた。

今では慣れて、ビンセントが考えて増やした境界の一つの使い方だと思い、ビンセントの成長に今のカミラは喜んでいる。


 目の前の軍事馬車は燃え上がり、マフィアの組織組員達は自分達が放った矢により地に伏している。

ただ一人の盾を持った男は、煙に咳をして火を払いながらも、部下達の無惨な姿を見回し、

最終的に四人に目を向けた。


「……何が起こったのかは分からんが、そこにおられる方はバルカス様ですね」

「そうだ。西の地の秩序の為、パッシィオーネを潰している」

 バルカスの答えを聞いて覚悟を決めた盾男は、正面から歩いて四人に近づいた。

「そうですか、では」

 男は手に持つ盾を持ち直した。

その盾は特殊で、まるでガントレットの様に手を通し、盾は腕の一部の様になっていた。


「私はパッシィオーネ幹部のライト・サーク。任務の途中だが、仕方ないな」


 ライト・サークという人物は走り出し、盾と一体となった拳を振るって襲い掛かってきた。

しかしその特攻はカミラの一撃により消えることとなる。


 ライトの左手に持つ盾を、その腕ごとカミラの左拳が貫き、ライトの体を衝撃波で貫いた。

何が起きたのか理解できぬまま、ライトは血に伏して呆気なく首を獲られた。


「終わったわね」

「カミラ速い! 」

「――お、終わった、な? 」

 バルカスも理解できぬまま事が終わった。

このままいけば、本当に今日中にパッシィオーネを潰せる。

それも壊滅が出来るのではないかと思い出したが、バルカスの心の中では既にそれが確実に出来ると、三人を見ている中に想い宿っていた。


 ビンセントの境界の中にライトの首を入れて、ミルを抱いて近寄るカミラ。

 次はどうするというビンセントの問い掛けに、整理がつかないでいたバルカスは、呆気に取られている自分に一喝を入れて気を持ち直した。

「そうだなこれで六人、後四人だ。もうボスのコルスト邸に行くか、いるかは分からんが」

「まぁ、いなくても情報が手に入ればそれでいいさ」

「そうね、行きましょうか。場所はどこなのかな。コルスト邸って言っても、いっぱいあるでしょ」


 別荘を含めると十以上もある、パッシィオーネのボスの館コルスト邸だが、主要としてビジネスで使っている所となれば大体絞れてくる。


「メインで使ってる館に行こう。いなくても人がいるから、場所を聞きだせるだろう。場所は、ビンセント、地図を見せてくれ。説明しよう」


 バルカスの意見に三人は同意し、ビンセントはバルカスに地図を見せる。

「シザ国の北西に位置している。ここから結構近いぞ……ここだ」

 ビンセントが境界を開き確認し、バルカスの確認も貰った。

「だいぶ古風な建物だな」

「シザ国圏でも、使われている建物の中ではおそらく最古なものだろうな。できるだけ傷つけずにやってくれると助かる。事が終わればこっちで使えるからな」

 ビンセントとカミラはバルカスの言葉に笑い同意する。

「じゃあ行こう」

 ビンセントは境界を開いた。

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