3話 『バルカスの解放』

「まずは私の今の現状について話すとするよ」

 追加の料理に皆が手を出して食べ始めると、バルカスは話し始めた。

「ダボから聞いたと思うが、私はこの国の裏側を支えている。魔物でなくとも、善からぬ者も多くてね、調整してやらないといけないんだ。そこで今の現状だが、西のマフィア『パッシィオーネ』の規模がでかすぎてな、私でもさばき切れずに違法行為が行われ続けている」


 パッシィオーネとは西の地のマフィアの総称で、規模は大きく範囲も広い。

西の地の裏側の世界と言っても過言ではないのが現状で、表の世界でも知られてはいないが、

パッシィオーネが介入している商売は多い。


「それにシザの財政の三割はパッシィオーネだ。この事実に付け加えて、奴らが介入している表の商売を閉じさせれば国としての損害は大きいだろう」


 バルカスはそう言って視線をダボに向けるが、ダボは笑って返す。

「安心しろ。表側のシザは俺の仕事だ。何とかするから任せろ」

 当然そう返ってくるだろうと思ったバルカスは話を続ける。

「ダボがそう言うので、私はシザの財政面は全く考えないていで話していくよ」

「いいぞ。違法が減ればお前の過剰な成敗も減るからな」

「まぁ、そこはできるだけ頑張るよ。酒は飲むがな」

「……程々にな」


 苦笑するバルカスは顔を戻してビンセント達三人に向けて話す。

「こんな感じで、シザとパッシィオーネは繋がっていてな、さっきの話でその規模の大きさと関係を分かってもらえたと思う」


 コクコクと頷く三人を見てバルカスは話を続ける。

「ここで本題なのだが、私等の力ではパッシィオーネを辛うじて抑えることはできても、排除することはできない。だから、ビンセントとカミラ、そしてミルの力を貸してもらいたい。その上で西の地からパッシィオーネを消そうと思う。三人の力ならば、おそらくは可能だろう」

「消すって……どうすればいいんだ? セシリオみたいに殲滅して壊滅させればいいのか? 」


 パッシィオーネを消すと言ったが、具体的にどうすればそれが成功となるのかが分からず、ビンセントがバルカスに質問をする。


「いや、いくら力がある三人でも、団員の殲滅には時間が掛かるだろう。戦力面での話では無いが、さっきも言ったように範囲が広すぎる。国外にもいるからな」

「じゃあどうすれば? 」

「パッシィオーネの頭と幹部を捕まえてくれ。勿論殺してもいい。どのみちあいつ等は既にギルドの手配書にも載っているからな」

 バルカスはカミラの方を向いて問う。

「カミラは知ってるんじゃないか? 元々ギルドに入ってたんだろ? 」

「えぇ、知ってるわよ。ボスはドン・コルスト・ボルリオーネ。幹部も十人位いたかしら、ただ今の幹部は元軍人やギルドのはぐれ者もいるそうだけどね」


 カミラの知る情報は二年前の物と少し古いが、ボスや幹部達は今でもギルドで手配されている者達だ。

カミラの情報は、入れ替えのあった幹部の数人の情報を除いて全て合っている。


「流石だなカミラ、その通りだ。何人かの幹部はここ数年で賞金首を何者かに獲られていたらしくてな、五人の入れ替えがあった」


 カミラが苦笑しているのをビンセントは見逃さない。

「……その賞金首を獲ったのって、もしかして」

「うん。今思い出した、私だわ」

 それを聞いて唖然とするバルカスだが、気を持ち直して話を進める。

「……カミラだったのか、できればそのままボスを倒してほしかったんだがな」

「そう言われてもね、私は人捜してる最中で、賞金稼ぎはついでだったんだよ」


 カミラがビンセントの方をちらっと見たが、ビンセントはあえてその視線に目を合わせなかった。


「ん? そうか、だが今回はやってもらいたい。三人もセシリオでやったと思うが、武力行使で事を進めていく。私達も何度かやってはみたが、私でも幹部に手傷は負わせることはできても、殺すことはできなかった。それからというもの、その幹部の傘下共が私のアジト付近の街で暴れるんでな、私も仕方なく裁きに行くのだ。しかし、三人に戦力不足ということは恐らく無いだろう。だからこそ、今回は普通はありえないし、できない武力行使をするのだ」


 ダボはバルカスの事を十分に理解しており、彼女の言う事には頷くばかりである。

又彼の中には確信があった。

だからこそ時が進めば進む程にダボを知るバルカスも、またその逆も、救われているのだ。


「武力行使、分かりやすくていいと思うわ。確かにパッシィオーネ相手なら、私達に戦力不足はないしね」

「なんだか、パッシィオーネが可哀想になってきたな……カミラが相手で」

 戦力に不足はない事は事実だが、それをさらっと言い放つカミラの敵となるパッシィオーネに、ビンセントは少なからず同情した。


「あら、なんだろうその言い方……。ビンセントこそ、ピーク過ぎてるとはいえサリバンさんを能力も使わずに斬ったんだから、十分人外だと思うけど」

「人外って、俺はそこまで言ってないぞ」


 少しムッとなるカミラを、ビンセントが苦笑しながら宥めていると、バルカスは目を細めて話を続けた。


「ビンセント、パッシィオーネ相手に同情はしなくていい。特に幹部は魔物が人になったようなものだからな、人を人と思ってない連中だ」


 パッシィオーネの主な商業活動は盗賊行為と密輸だが、コレはバルカスも知っているし、彼女が調整をして和らげている犯罪行為だ。

 しかしパッシィオーネはバルカスに対して、無断でシザの密輸ルートを開発していた商業がある。


「奴隷商、人身売買だ」


 バルカスはパッシィオーネが奴隷商をしていたことを知ったのはつい最近の事だ。

 薬と穀物を運んでいた密輸船が、シザの西側、バルカスの統制する地の港に停泊する。

密輸品を運ぶ為、陸には数台の貨物馬車が港に止まっていた。

 バルカスはそんな港にいつものように部下を使って、パッシィオーネから受けた報告書通りの物が運ばれていたかを確認させている。

 しかしバルカスは、その時たまたま港の様子を自ら足を運び抜き打ちで確認しに来た。

船員と部下の様子がいつもと違う様子だったので、バルカスが船に駆け寄って入船しようとするも、船員に激しく抵抗され、部下からもやんわりと宥められた。

 船員を強行突破して船に入り、船倉の中へ荷の確認をしに入る。

船倉の上段は固められたブロック状の薬が包装されて積まれてあり、中段には麻袋に詰められた穀物が納められている。

この二つはパッシィオーネの密輸報告書通りでいつもと同じだったが、一点だけ明らかに違うところがあった。


 船底から呻き声が聴こえる。


 バルカスは始め、その声が家畜のものだと思ったが違った。

船底に見えるのはありえない密度で詰められた奴隷達が、鎖でつながれている光景だった。

 バルカスは怒り叫ぶが、船員の反応は、懐からナイフを取り出して押し黙っていた。

バルカスの怒りは有頂天となり、その場で大剣を抜くと片っ端から船員を斬り殺した。

船倉と貨物は血で染まり、奴隷のいる船底は生暖かい血が貯まり、奴隷は叫び出した。

 船員を皆殺しにした後、今回の密輸船の管理者である部下に問いただしたところ、密輸が始まっていた時から、バルカスに無断で奴隷商をしていたという事だ。


 パッシィオーネとの関係を強く持っていた部下は、今回の管理者含めて二十八名。

二十八名の部下が、バルカスの目を盗みながら奴隷商に協力していたというのだ。

 バルカスは部下を捕縛すると、奴隷をつないでいる鎖の鍵の場所を吐かせ、鍵を捕ってくると船底の金網を斬り破り、梯子をかけて奴隷を開放した。

奴隷は血まみれのままぞろぞろ繋がれたまま梯子をのよじのぼって甲板上に上がると、バルカスは奴隷たちに鍵を渡してやった。

 奴隷の間で鍵は回され、甲板に頭をこすりつけてバルカスに感謝をすると、バルカスの散れとい声で船から降りて行った。

 

 残された部下を連れ、奴隷商と関係を持った部下二十八名を牢獄に入れた。

バルカスはずっとパッシィオーネの違法行為を和らげ、最悪のことにならぬように尽くしてきたが、

自分の知らぬところで、それも初めから奴隷商が行われていたことをその日初めて知ったのだ。

 それからというもの、バルカスは今一度パッシィオーネとの関係を考え直していた。


 自分が知る限りの奴隷商の話を五人に聞かせているうちに、バルカスは悔しくて涙が出そうになる。

しかし彼女は涙を流さない、流せないのだ。

 一連の話を聞いた五人は黙ってバルカスを見て耳を傾けていた。

ダボはバルカスに何かを言ってやりたかったのか、何度も口を開こうとするも、何度も何も発さず口を閉じた。


 ミルには、バルカスの表情が寂しそうに見えたのか、席を立ってバルカスの頭を撫でようと近づく。

しかし身長が足りないのか頭に手が届いていないので、よじ登って頭を撫でた。

 カミラはバルカスに対して少し親近感を覚えた。

奴隷の話はカミラが嫌うものだが、静かに聞いていた。

ビンセントがカミラを案じて彼女の手を握るも、カミラは微笑んで大丈夫と答えた。


 バルカスは椅子をよじ登っていたミルを抱いて下におろすと、頭を撫で返した。

「む、すまないなミル。ありがとう」

 ミルは微笑んで自分の席に戻った。

「私は個人的にだが、人身売買、奴隷商を好かないし嫌いで、憎くてたまらない。昔から行われていることだが、それは今でも変わらない……、いやむしろ昔より陰湿で酷いものだ。つくづく反吐が出る」

 バルカスはそう言ってダボを見る。

「……すまない、奴隷に関しては俺も数件見覚えがある。取り締まったが、どうやら奴隷商も規模が大きいらしい」


 シザ国では奴隷商を法で禁止している為、行った者は死刑としてある。

介入した者はその状況によって刑罰が下されていた。

 ダボも数件奴隷商を確認していたが、彼が知れる実態はほんのわずかなものだ。

見つけたものは罰せるが、見つからない者の方が圧倒的に多い為、奴隷商を罰するのはかなりの難易度なのだ。


「いや、何もお前を避難しようとしているわけではないよダボ。少ない情報でよくやってると思う。この際、三人にも言っておこうか、私も秘密っていうのが好きじゃないんでね」


 三人がバルカスの方を見ると、バルカスは自分の服をめくって引き締まった腹を見せた。

三人は特に驚く様子もなく、ただ、そこに在る物を見ていた。


 バルカスの大きな胸の下に大きな円形の焼印が深く押されていたのだ。

「分かるかな」


 焼印は元の形から大きく歪んでおり、ぐちゃぐちゃに再生箇所が盛り上がっている。

バルカスの腹に在る物は焼印を押された部分を再度焼いたことで生まれる傷跡だが、印を消したいという思いが強く出ている傷跡でもある。


「やっぱりあなた……」

「そうだよカミラ、私は元々奴隷だよ。初めは無理やり男共の相手をさせられて、使い物にならなくなったら後はもう道具さ。でも、奴隷戦力として戦場に出られてから大きく運命変わったな。

戦闘技術を身に着けて、戦友っていう仲間もできたから、奴隷からずいぶんと力を付けたものだよ。

私の飼い主が別荘で過ごすことを知ってから、仲間を連れて皆殺しにして自由を得たし、

ここだけの話、サンス王国っていうのは国を乗っ取って建国したんだよな」


 小さい声だが確実に繰り広げられるバルカス・バルバロッサという女の半生。

だが、コレを聞く五人の中で驚く、者は誰もいない。


 ダボとケニーはそれを知った時こそ驚いてはいたが、ダボのその明るい性格と、ケニーの落ち着きようですぐに慣れていった。

 ビンセントとカミラは元々同じようなものなので、大して驚くことでもなかった。

ミルは奴隷という物を知らなかったが、三人が、皆が笑っていられればそれでいいのだ。

皆驚かず普通に聞いて、普通に接する。

コレが、バルカスの中では安息で、居心地が良かった。


「……なんだよ三人共驚けよ、ダボとケニーだって最初聞いた時は驚いてたぞ」

「まぁ、俺もカミラも元々同じようなもんだからな。ミルは違うけど。今更驚く事でもないだろ。なぁカミラ? 」

「そうね。私も奴隷商は嫌いだし、あなたとは気が合いそうね」


 カミラはミルに手招きして、バルカスの傷を指した。

「それに――」

 ミルが席を立ってバルカスの傷跡に手を触れると白く淡い光が一瞬漏れ、傷跡は完全に無くなった。

「女性が妄りに体を見せるものではありません」


 バラカスに対するカミラの叱咤に、ビンセントは色々と思うところがあり、声に出さないが心の中で突っ込みを入れる。

(……じゃあカミラも、シャワー上がりはすぐ服着ような? )

 そんなふうに突っ込まれているとも知らないカミラは、バルカスの反応を窺っている。

バルカスは、ミルが急に傷跡に触ってきたので少し驚いたが、一瞬で傷跡が無くなっているのを見ると、傷跡からミルへ、ミルからカミラへ、カミラからビンセントへと視線をグルグル回した。


「な、傷跡が無い! 消えた! なんだこれ!? 」

 今日一番驚いているのはバルカスだった。

「私の魔法だよ! 」

 ミルが両手を腰に当ててどや顔でいると、バラカスは何かから解放されたのか、いつのころからか溜まっていた涙を解放させた。

「うぅ――ッ……」

 涙を見せぬように目を床に背け、ミルに抱き着く。

抱き着かれたミルは思い出す。

(なんだか、懐かしく感じるな、私も、そうだったんだね。カミラ、ビンセント……)

 ミルは、自分がカミラとビンセントにしてもらったように、優しくバルカスの体に手を回し、抱きしめた。

 大きな胸で圧迫され、たとえ苦しくとも、バラカスの頭を撫でてやった。

そんなミルの健気な姿を見ているビンセントとカミラは和んでいる。


(ずいぶんと、成長したなミル。本当に優しくていい子だ。俺なんかよりずっと強くて優しいな)

 ビンセントはしみじみそう思ている。カミラもそうは思うが、少し暴走しつつもあった。

(本当にいい子。流石私達の子供! ビンセントの様に優しくておっちょこちょいでドジなところもあるけど、私の様に強くて賢くてたくましいわ! そうだね、ちゃんと優しく撫でているね、あーん可愛い!! ミル大好き! ただちょっと、バルカスの大きな胸が苦しそうね、……それもいいのかもしれない。……、ビンセントにお願いしてみようかな。胸大きくしてって)


 我が子ではないが、我が子同様にミルを愛しているビンセントとカミラは、精神的な成長を心から喜んでいた。


 バルカスが落ち着いて、涙を拭いてミルから離れると、ミルの頭を撫で返した。

まさか、今日がこんな日になるなんて思わなかっただろう。

 人前で泣き、普段隠している中身を、それも今日初めて会った者達に見せているのだ。

バルカスはこの状況が嘘ではないという事に幸せを感じた。

本当にその通りだったのだから。


「すまない、ミル。ありがとう」

 バルカスは服の上から傷跡があった場所をさする。

さっきまであった凹凸は無く、薄く盛り上がる綺麗な腹筋のラインを手で感じ、再び泣きそうになるが、彼女の表情には涙より笑顔が出てきた。


「まさか、本当にこんなことまでできるとはな。三人を素直に尊敬するよ。本当にありがとう」

「これから一緒に一仕事するんだ。それに、コレも何かの縁だろう? 」

「そうね、私達はもう仲間だもんね」

「仲間だよー! 」


 三人にそう言われたバルカスは破顔する。

ダボやケニーにも見せたことの無いような明るい笑みが輝いていた。

「よーし! 明日から早速戦いだからな! 今日は食うぞ! 」


 ダボは思った。

良かったと。


 この場で一番涙腺を守っていたのはダボだろう。

あくまで彼は、いつも通りでいなければいけない。いつも通りでいることが、そしてこのまま時が流れればそれでよかった。

 リスクは払った、全て分かっている。

ダボが後務めることは、この幸せに決まった流れに身を任せ、流れる事である。


 第一に、昔の負の感情と肉体的コンプレックスが晴れた今、バルカスが酒で無理に暴れることも無いだろう。

 バルカスはこの日から酒を飲む時、ダボから一回だけ『大丈夫か』と問われたが、それには大丈夫と答えて酒を飲んだ。

 酔って気は大きくなるものの、無理に暴れたくなるような破壊衝動は二度と起こさなかったという。

バルカスの明るい笑顔と、暴走が無くなってさわやかで気持ちのいい酔いが国民に映り、国民の恐怖が消え、共に笑い合うようになるのはまだ少し先の話だ。


 バルカスは追加の注文をした。

「貝のパエリアと、トマトとエビのスパゲティ、ローストビーフと赤ワイン」

 店員はバルカスの笑顔に驚きながらお辞儀をすると、急いでオーダーをキッチンへ回した。

「よく食うな、それに、酒か……」

「今日はお前のおごりだろダボ? 酒は、まぁ……な」

「まぁいいさ。今日は三人と出会った記念日だ。それに、お前が呪縛から解放された記念日だ。大いに楽しんでくれ! 」

 バルカスは少し黙った後に呟く。


「お前は、いい奴だよダボ」

「……あぁ知ってる! 」


「やっぱやな奴だな。そうだろ? ケニー」

「どうでしょうか……、ただ国家経費の事をもう少し考えてほしいですね」

「ハハッだってよダボ! 」

「おいおいおいおいおいおいおいおい!! ケニーまでそういうのかよ!? 」

 初めは感じえなかった明るい会話が広がる。


「最初はどうなっちゃうのかと思ったけど、いい人達に巡り合えたわねビンセント」

「そうだな、これだけ明るいと気持ちがいいな」

「私も凄い楽しいよ! 」

 出会った時は見下されて疑われ、ミルもバルカスの事を嫌っていたが、今はこんなにも楽しく過ごせる仲間となっていた。


「なぁビンセント聞いてくれよ。ケニーはこう言うがな、昔は大事な国書を間違って燃やし――」

「あぁ――ダボ! この前の造船の経費は二十番では下ろせないよ!! 」

「なぁ!? なんで!? 」

「え、ケニー。国書を、燃やしたのか!? 」

「あぁ――! ビンセントさん! あれはただの事故ですって! 」

「後始末大変だったんだけどなぁ」

「バルカスさん。申し訳ございませんでした」


 ケニーが煽られて叫ぶ中、ケニーを含んだ皆は笑顔絶えず話していた。

追加の料理が来てバルカスは更に盛り上がった。

「お、来た来た」

 バルカスは赤ワインを手に持って香りを楽しむ。

肉を切って口に運び、口にワイングラスを付ける。


 その時ダボから一言問われた。

「大丈夫か? 」

 バルカスは微笑んで答えた。

「大丈夫! 」


 グラスを傾けると、ワインはバルカスの口から体内に流れる。

体は火照るが、最初の様にはならなかった。


「なぁダボ、皆で食う飯は美味いな」

「あぁ、間違いなくそうだな! 」


 バルカスは暴走することなく肉と酒を楽しみ、喋りながら食事をしていると時間も忘れる。

店の中にいる客は少なく、ビンセント体を含めても三グループだ。

「あぁ食った! 」

 皆満足して席にもたれている。

会計を済ませようと、ダボはケニーにあふれるような金を渡すと、ケニーはカウンターで代金を支払った。

戻ってきたケニーは減ってるように見えない程に余ったお金をダボに返した。


「すっかり遅くなったな!! 三人は止まる宿とか決まっているのか? 」

 バルカスの問いにビンセント達三人は決まってないと答えるが、普通に酔っているバルカスはダボの背中を叩いている。

これでも暴走はしていないのだ。


 暴走した彼女は、背負っている大剣を振り回して悪人を見つけると殺めるのだから、叩かれているダボは、むしろどこか爽やかな表情でいる。


「決まってないのか!! じゃあ私のアジトに行こう! 皆でだ。カミラとミルとビンセントと、ダボとケニーもだ! 」

 やれやれと苦笑いしているダボは、送迎用の馬車を既に用意させていた。

「よし、じゃあ早速行こうか。馬車は下に止めてあるからな」

「よっしゃ行こーう! 」

「バルカスお酒臭い……」

「お? ミルちゃんはもう寝る時間だぞ~? 」

 ビンセントとカミラで、眠そうなミルの手を引いて階段を下りる。


「それで、ミルちゃんが寝た後は、二人で……一体どうしちゃうのかな!? 」

「バルカス止めないか。ほら、馬車だ。皆乗ってくれ」


 馬車のワゴンにカミラが乗って、ミルの手を引いてビンセントが後ろから押して乗る。

二人に挟まれたミルは夢の中に落ちた。

「あら、寝ちゃったわね」

「階段のところで既に半分寝てたがな。それとバルカス、すまないな泊めさせてもらう事になって」

「いやぁ全然いいぞ! 皆でいる方が楽しいしな! それに、私のとこのベッドはふかふかだぞ! 二人も存分に楽しんでくれ! 」

「止めないかバルカス」


 ケニーは御者に場所を案内する為に先頭に座る。

 馬車はシザ国西部へと進みだした。

西部の中でも、バルカスのアジト付近は大変治安が悪いと、シザ国民の中では有名である。

明るく賑やかなシザだが、そこだけは静まり返っている程だ。

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