7話 『最強生物の防衛術』

 ビンセントとカミラを洞窟の中にを招いたミルは、盗賊からいつもこの時間帯に貰っていた食べ物の事を考えていた。


「ビンセントとカミラは何食べてるの? お魚? 熊? 人は食べないよね? 」

「俺達は魚だな。熊は食べたことがないよ。人は食べない」

「そうね。ミルは何を食べているの? 」

「私は何でも食べるよ! 」

「じゃあ魚を獲りに行こうか。この山の川に魚いたから」

「お魚を勝手に獲っていいの? フランクおじさんが……」


 ミルは親が亡くなった後は、フランク達により人の目から存在を隠された。それゆえに、ドラゴンでありながら人に最低の教育もされていた。


 一:フランクを守る。

 二:フランクの言うことを聞く。

 三:勝手にアジトから出てはいけない。

 四:食べ物を勝手に食べてはいけない。

 五:洞窟の奥にいること。


 上記はフランク曰くミルの身を守る為の知識とされている一部だが、本当の目的は見た通りのそのまま。つまりはフランクにとって都合良くミルを扱う為の決め事である。まず何故ミルがこんな決め事を受け入れたかというと、それは極度の寂しさの為だ。

 そもそも何故ミルがフランクという人間を受け入れていたかというと、これまた寂しさと不安が極限状態に達しているミルが、山周辺を散策している時に飢え死にを演じたフランクを見つけ、救出した事にある。それから助けてもらった礼にと、フランクは盗賊と犯罪組織のマフィア人員をミルを守る為にと巣穴に移らせて今に至っていたのだ。無論フランクはミルを守る為でなく、ドラゴンの力を利用するだけだ。


 ミルにとってフランク達は、不安ながらも感じるささやかな張りぼて状の温かさだった。しかしビンセントとカミラに会ってからはその張りぼても倒れて、ビンセントとカミラで心が温かくなっているのが感じられている。ミルは二人に対して心配の声をかけるが、フランクの事を思い出した。


「……そうだった、もういないんだった」

「もう自由だよミル。だから一緒に魚を捕りに行こう! 」

「行きましょミル」


 二人はミルに手を差し伸べると、ミルは笑顔で二人の手を握った。


「うん!! 」


 ビンセントは河原への境界を開いたが、この『境界』、ミルには最も大きいトラウマである。


「うぅ……、それいやぁ……」


 少し泣きそうな顔になったミルをみて、ビンセントは慌てて境界を閉じた。


「お、ごめんな……、歩いていこうか」

「それもいいわね」

「ごめんね、べつにビンセントは悪くないんだよ? だけどそれ、やっぱり、こわい……」

「いいよ、必要無い時は使わないから安心して」


 ビンセントはそう言ってミルの頭を撫でる、するとミルの怯えた顔も次第に元の笑顔に戻った。


「それじゃあ、行こうか」


 三人は夜の山道を下りはじめるが、川の場所がどこかをビンセントは覚えていない。だが川以前に、夜の月明りさえも届かぬ深い森は――。


「暗くて、何にも見えんな」


 山を下りていた時は月明りもあったのでそれなりに見えていたが、森に入るともう何も見えない。


「あら、そうでもないわよ? 」


 カミラは何も問題無い様に言うが、彼女はいつの間にかスキル『身体強化』で眼球の能力を向上させている為、山に入った時から樹の葉を透き通るわずかな光で暗順応しており、夜の森の暗闇に目が慣れている状態となっている。他のスキルで暗視も可能だが、それをしていない所を見ると彼女からすればこの程度何でもない暗さなのだろう。


「カミラは見えているのか。すまん、見えなさ過ぎて俺ぶっちゃけると今物凄い恐い」

「あ、ビンセントはあまり目が良くないんだね。大丈夫だよ! 」


 ビンセントは決して目が悪いわけではなく、街の人々からすればむしろかなり良い方なのだ。ビンセントを心配したミルは何かの魔法を使ったのか、三人の周辺が少し白く明るくなった。


「ライトの魔法、やっぱりミルも魔法使えるのね。オールガードも使ってたし」

「うん使えるよ! ビンセントはこれで見えるかな? 」

「ありがとうミル。ありがとう、見える」


 後一歩で片足が樹の根に引っかかるところだったビンセントは、辺りを不安顔でキョロキョロ見ながらミルに礼を言った。


「これで山道も歩けるようになったが、河原か……。前クロイスに戻る時に野宿したところがいいかな。他は樹で覆われていたけど、あそこはひらけてたし」

「へー、じゃあそこ行こうか。クロイスの方向って、私達が伐採していった方よね。……川なんてなかったけど」

「どこだったかな、あの時は普通にクロイスの方歩いていっただけなんだけどな」

「ミルがこっそり水浴びするところいいよ! お魚いるよ! 」

「そういえばさ、ミルってドラゴンだよね」


 ビンセントはミルがドラゴンである事を忘れていた。ずっとその姿でいる幼女イメージが染み込んでいた為である。


「飛べるの? 」

「飛べるよ! 」


 ビンセントは元気な即答に安心した。カミラはミルに、空から山と森を見て川の位置を確認する事はできないか尋ねる。


「ミル、少し高いところから見て川の位置確認できる? 」

「できるよ! 見てみるね! 」


 するとミルは一瞬でドラゴンの姿に戻り、羽を広げて地を蹴り飛び立つが、カミラに脚を掴まれて止められた。


「うわッ! 」

「ちょっと待ってミル! 」

「痛いよカミラ―」

「その姿のままであまり人目に着けると危険よ」


 カミラはそう言いながらミルの頭に触れる。


「はい」


 するとミルの体が見えなくなった。


「え?! ミルどこに行った?! 」

「え? 私ここにいるよビンセント」


 魔法『ステルス』を実際に見るのがはじめてなビンセントは驚きを隠せないが、ミルの声を聞いて安心した。


「え? 何? 」


 ミル自身自分がどうなっているかわかっていない。


「ミル、ビンセント。それがステルスっていう魔法で、魔法をかけるモノと、かけられたモノにしか姿が見えなくなるんだ。って言うか、ミルもステルスは知らなかったんだね」

「ビンセントには私がみえてないの? 」

「み、みえん……ん? あ……」


 ミルの声が聞こえた方をよく見てみると、そこの空間が少し歪んでいる。


「……ただ、ビンセントも今多分気が付いたように、ミルみたいに魔力やオーラが強いと、どうしても見えちゃうんだよ。姿は見えなくても少し歪んでね」


 カミラはそう言ってビンセントとミルを触れさせ、何やら魔法をかけた。


「うおっミル! いた! 」

「さっきからいるよ! 」


 カミラはビンセントにもミルを認識できるようにして、話を続けた。


「ただ、ミル」

「なに? 」


 カミラはミルの手を握りながら目を見つめる。


「いくら私の『力』を使って強化したステルスでも、元勇者一行なら絶対に認識される。だからミルはそのオーラも制御できないと色々危ない目に合うかもしれない。だから、今夜は必要スキル教えてあげるね」


 勇者一行。その三人の事を耳にする時のミルの顔色は灰色で、目つきも変わっている。だが、二人に撫でられると、その顔も元に戻った。


「うぅ、あいつらぁ」

「ミル。もし遭遇したら、絶対に逃げるのよ。あの三人、いやあのなかの一人とも闘ったりしてはいけない。師匠にこういのもなんだけど、本物の化け物だから。今の私がたとえ本気で師匠達を殺そうとしても、私は一瞬で殺される。これは謙遜じゃないよ」


 真剣な顔で話すカミラの言葉を聞いたミルは、悔しい表情をしながら気持ちを受け止める。


「カミラぁビンセントぉ死なないでぇ、勇者にもう会わないでよ! 」

「安心してよミル、私達三人は死なないわ」

「そうだよ、それに勇者一行にまた会ったとしても、またスキル教えてもらって、もしもの時の対抗手段増やしておかないとな! それにカミラもエリスさん超えないとな! ミルを絶対に守るって言ったし! 」


 カミラは思わず苦笑しながら返す。


「フフ……、それは確かに師匠達からもっと力分けてもらわないとね! 」

「そうだぞ! 」

「ビンセントもだよ? ノースさん超えないと。 あの人、意味わからないけどね」

「かかわったの本当に短い時間だったからな、ルディさんもつかみどころがない」

「うぅ……二人ともォ 」


 ビンセントはドラゴン姿のミルを抱きしめる


「ミルは心配しなくていいよ。ミルは守るし、ミルに自分を守れる防衛術をカミラから教わってさ、心配はいらないよ。それより早くご飯食べよう! お腹空いたよ! 」


 ビンセントに再びはげまされ、羽を仰ぐ。


「ごはん! お魚! 行こう! 」


 ミルは二人を手で掴んで、そのまま飛び立った。


「うわぁあぁ――――――――――!! 」


 ミルは絶叫するビンセントと冷静なカミラを掴みながら、あっという間にはるか上空へ飛びたち、こもった音が響くゆっくりな羽ばたきにより三人は滞空している。


「ミ、ミル。別に俺達を掴んでいかなくても」


(た、高い……)

 高いところが苦手なビンセントは目線を上げ、できるだけ下を見ない様にしていた。


「いいじゃない、すぐに確認できるし。それにしてもミル、流石はドラゴンね。一回の羽ばたきでここまで飛べるなんて」

「えへへ! 凄いでしょ! もっと高くまでいけるよ! 」

「いや、もう大丈夫だよミル! もう大丈夫」


 ビンセントは力が完全に抜けて、震える声でそう言った。


「さて、河原河原……」


 カミラは昼に開拓した方の森の中を確認する。


(川、クロイス方面の森にあるな。開拓したところから外れているが、ビンセントの言ってた開けたところはどこかな)

 カミラの想像していたその場所は、平原から森へのびる川の線上であったが、それらしきものが見つかったのは、90度違うところだ。


「ビンセント……、もしかして方向音痴? ……だったね。うん、思い出した」


 カミラが渋い目でビンセントを見ると、ビンセントはカミラに対して無言で微笑んだ。


「結構方向違うじゃない……」

「いや、まっすぐ歩いていたつもりなんだがな」

「結構森の内部なんだね、それに意外と川が入り組んでいる」


 カミラが河原の方を指をさしていると、ビンセントはその指さしの先を必死に見るが、あるのは樹だけで、川なんて見えない。


「え、何にも見えないよ、森だよあそこ」

「私は身体強化して視力を上げてるからこれくらいの距離なら見れるけど、ビンセントは身体強化も使えないんだね」

「使ったこと無い――」

「私も見えるよ! 」


 元から身体能力の高いドラゴンは、能力を高めなくとも元から見えていた。ビンセントだけがみえていない。


「ミルも見えるのか……、なんか置いていかれている気分だ」

「でもビンセントにもまた色々教えるから、身体強化も使えるようになるよ」

「やった、おねがいします」


 ミルはカミラの言っていた方向をもう一度みた


「あ、あそこ。私の秘密の水浴び場所だ!! 行こう! 」


 ミルは体を下に傾け、そこに向けて滑空しだした。カミラは念のためにビンセントにプロテクトをかけておいた。ミルは河原の地面すれすれで一度羽ばたき、着地をした。


「着いたよー! 私の水浴び場 !!」


 ミルはまた幼い人型に戻った。


「か、滑空コワイ」


 ミルの元気な姿とは違い、ビンセントは少し顔を青くしていた。高所からの急降下の恐怖が響いているが、かけられたプロテクトも気になった。


「地面に一気に降りるのは初体験だよ。それにこのプロテクトなんだよ」

「いや何でもないよ。ただ身体強化の代わりにさ……。それよりご飯! 」


 カミラはビンセントに触れるとプロテクトを解いた。まだ少し顔の青いビンセントは、川ではなく樹に歩み寄る。


「よーし! 俺がいっぱい魚獲ってきてやるからな! 」


 ビンセントの言葉にミルも嬉しくなる。


「わーい! お魚だー! 食べたい! 」

「フフ……、ちょっと待っていなさい!――」

 ミルは目をキラキラ輝かせて待っている。しかしカミラはビンセントに近づき、ミルに聞こえない様に念を押す。


「ビンセント、境界は使わないでね」

「わかってるよ。別に川に境界開けて魚を獲るなんて考えてないさ。ただミルの見えないところで三人分の串作る時だけ一瞬使うよ」

「それならいいわね。私も必要な時以外は『力』は使わないようにするわ」

「そのほうがいいな」


 二人お互いに、ミルへの配慮を了承した。


(そういえば、境界の空間の中に、森の道分の樹が入ってたな)

 ビンセントは開拓の際に採取した樹の事を完全に忘れていた。その事を思い出してズボンに手を突っ込むと、境界で木を削って木製の串三本作ってとり出した。


「そういえばビンセントの空間内に樹いっぱいあったね」

「うん、忘れてた完全に」


 長めの串を三本携えて、ビンセントは川へ向かう。


「よーし見てろよミルにカミラ! すぐに魚獲るからな! 」

「魚捕まえるところ私見るー! 」

「私も見る」


 二人はビンセントについていく。ビンセントは服を脱ぎ、上裸になり水に入る準備を整える。川の流れる音がただ淡々と流れるこの間、三人は川を見つめている。一人は真剣な顔で。二人目は目を輝かせ、わくわくしながら。三人目はニヤニヤしながら。

 ビンセントは肩の力を抜き、足に力を入れ、魚群めがけて跳び、魚めがけて串を刺す。捕らえた魚は、一本目に一匹、二本目に一匹、三本目は何も刺さっていない。ビンセントは腰まで水につかりながら、両手の串を頭の上に上げ、二人に見せる。


「よっしゃ! 獲ったぞ―――!! 」

「うぉ――――!! 魚だー!! 」


 ミルは大喜びだが、カミラは――。


「……フフ、ビンセント。魚獲りっていうのはね……」


 カミラは服を脱ぎ始める。


「うぉっ! カミラ! いきなり何脱いでるんだ!? 」

「それはさっきのビンセントにも言ってよかったのかい? 」


 カミラは下着姿になると、川に歩み寄る。


「魚獲りっていうのは、こうやるのよ! 」


 カミラはビンセントと比べ物にならない跳躍をするとそのままの勢いで川に入り、ビンセントから何も刺さっていない串を奪い取る。水中に潜ったと思えば、すぐさま串を持った手をどや顔で高々と上げる。串には三匹の魚が刺さっていた。


「フフ……、どうだいビンセント。これが魚獲りだ! 」

「そ、そうなのか……。カミラのことだから、隠密とか使って素手で獲るのかと思った」


 カミラはニヤニヤしながら首を横に振る。


「甘いなビンセント」


 カミラが左腕を水面に上げると、そこに持っていた物は――。


「魚……、だと……」


 満面のどや顔を決めたカミラに対して謎の悔しさがあるが、ビンセントは現段階での勝ち目がないことを悟った。それをじーっと見ていたミルも、川に向かって走る。


「わぁーい! お魚獲りと水浴びだ! 」


 ミルは二人めがけて跳んだ。


「私もまぜて! 」


 バシャンという音と共にミルも水中に入ると、また同じ勢いで水上に出て両手を上げた。ミルの手には、片手に一匹づつ捕まえていた。


「ビンセントと同じ数つかまえたー! 」

「お! ほんとだな、それにしても素手でか……、ミルも凄いな」

「褒められた! 」

「魚これくらいでいいかな」

「そうだね、丁度いいくらいだな」

「食べよう! いただきます! 」


 ミルは手に持った魚にそのままかぶりついた。


「あ! ミル。あらー、そのまま食べちゃった。ちゃんと調理してから食べましょ」

「え? 何かするの?」


(フランクのやつ、そのままの状態で渡してたんだな)

 ミルをドラゴンと思えば問題は無いが、今目に映る幼い女の子が、活きの良い川魚にそのままかぶりつくところを見ると、ビンセントとしては自分の幼い頃を思い出すようで、『人』として扱われていないようで悲しく感じてみていた。


「魚を火で焼くと、また違うおいしさになるんだよ、食べてみようかミル」


 ビンセントはそんなミルに、食材は『調理』をする事ができるのを教えた。何をどう食べても美味しいと食べた者が思えたらそれで最上だ。しかし、ミルにはもっと広く知ってもらいたかった。


「魚を焼くの? 食べてみたい! 」

「じゃあ私のとビンセントのとったやつ、ミルのとったやつを合わせて八匹ね、これを焼きましょう」

「じゃあ俺、魚を焼く準備するよ」


 ビンセントはカミラとミルの魚を受け取り、川からあがった。


「ミル、もう少し水浴びしてたいだろ? カミラと一緒に遊んでおいで」

「わーい! カミラ遊ぼ! 」

「よーし遊ぶか! じゃあビンセント魚お願ね! 」


 はたから見れば、幼女二人が夜に少し大きな川で遊んでいる危険な行為に見えるが、この二人にはその心配が全く無用なほど、水流を無視して無邪気に遊んでいる。しかしビンセントは思い返すが、ミルにはステルスがかかっているので人眼から見れば危険な行為というか、何か恐ろしいモノに見えるだろう。

 そんな二人の為に、ビンセントは段取りを考える。


(さて、この木は異常によく燃える。何か別の串に変えないとな。……しょうがない、少し境界使うか)

 ビンセントは河原の石の地面に境界を作り、石の串八本と、薄い石の板を切り取った。


「よし、これでいいな」


 ビンセントは魚を一匹ずつ石の串を刺して、石の隙間に串を一定距離を置いて刺して並べる。一枚円盤状の薄い石を、焼きあがった魚や空間の中にあるパンをのせる為の皿とした。


「よし、後は木を組んで火をつけよう」


 ビンセントは川に背を向けて空間の中から木材を取り出すと、そのまま魚を刺して並べてある調理場の真ん中に置いて空間から火打ちを取り出した。


「よし、準備完了」


 焚火の準備が完了し、川で遊んでいる二人に声をかける。


「おーい! カミラー! ミルー! 焚火おこすぞー! 」


 水をバシャバシャかけあっていたカミラがそれに気がつく。


「おー!頼むよー! 」


 ビンセントは火打ちで火花を散らせると、木材が火花に触れた瞬間に引火して、以前ここで野宿した時と同じ勢いの火柱を上げて燃えだした。


「うぉ……。ビンセントが言ったとおりだ、あんな少量の木材であんなに燃えるものなのか……」

「おー! 火だー! 私も負けないぞー! 」


 ミルは大きく口を開けると、カミラがその口を閉じさせた。


「駄目よミル。森が全部燃えちゃうわ、私達もそろそろ川からあがろうか」

「ムゥムゥウ……」

「あ、ごめん」


 カミラはミルの口を解いた。


「うん! あがろう! 」


 二人はビンセントと焚火に歩む。


「おー、想像以上に勢いよく燃えてるね」

「あったかい! 」

「おかえり。相変わらず凄いなこの木材は」


 びしょびしょに濡れている幼女二人をみて、ビンセントは自分の上着をカミラとミルに渡した。


「風邪ひかないようにちゃんと体は乾かすんだぞ」

「ありがとう、ビンセント」

「ビンセントありがとう! 」


 炎は高く燃え続け、樹の油が弾けている。カミラはビンセントに礼を言って微笑み、ミルの隣に付いた。


「ミル? あなたスキルってわかる? 」

「スキルってなに? 」

「スキルはわからないんだね。じゃあステータスっていうのは? ほらこれ」


 名前:カミラ・シュリンゲル 種族:人 称号:紅蓮の少女 職業:賞金稼ぎ

 レベル:69 スキル:8071

 :筋力 1000/923 :歩術 1000/823 :拳 1000/1000 :体力 1000/263  

 :料理 1000/27 :強化 1000/1000 :俊敏 1000/875 :掃除 1000/625 

 :美容 1000/34 :制御 1000/813 :隠密 1000/78:魔力 1000/249

 :水泳 1000/625

 :創造(力) 1000/700


 カミラはステータスを表示させ、ミルに見せて説明を始めた。


「洞窟で見せたやつなんだけど、自分の情報が全て載ってる物なんだよ」

「すごいね! 羽も無いのに浮いてる! 」


 ミルは再び見たステータスに興味津々でジーっと見つめていると、カミラが続けた。


「これに書いてある『筋力』『歩術』とかがスキルっていうやつで、ミルには『制御』と『隠密』と、もう十分過ぎる程あると思うけど、『魔力』が必要なんだよね。あ、そういえば、ミル『文字』って読める? 」


 ミルは相変わらずステータス表示を凝視して、今度は臭いをかいでいる。


「ミル? 」

「ふぇっ? あ! 読めるよ! 『キンリョク』って書いてある! 」

「文字は読めるんだね、よかった。ミル、私のステータスに触れてみて」


 半透明で宙に浮いている謎の表示を触るのに警戒をしていたミルだったが、カミラにそう言われたので触ってみた、すると――。


 名前:ミル・キース 種族:ドラゴン 称号:第二次創造物

 レベル:163 スキル:54820


 ミルのステータスが表示された。


「おー、出たね、ステータス。私達のとちょっと違うけど」

「なにこれ! 私の名前が書いてある! 私のステータス? 二人とおそろいだ! 」

「スキル値、流石は最強の生物。こりゃ『力』でもないとまともに肉弾戦できないよ……」

「私のステータス! ステータス! 」

「こんなにスキル値があったらさっきのスキルも育ってそうだし、魔法『ステルス』と制御術式を覚えてもらうね」


 そういうとカミラは自身のステータス表示を触って表示を変え、修得済みのスキル魔法欄をミルに見せた。


「ミル、この『制御』っていうのと『ステルス』っていうのに触ってみて」

「うん! 」


 ミルはカミラに言われた通りにステータスに触れた。


「触ったよ! 」


 これでミルは制御スキルの概念と、魔法『ステルス』を覚えたことになる。スキルや魔法を覚える方法はいくつもあるが、一番早い方法は今やったようなスキル魔法修得者の同意の元、修得済みに載っている物に触れるという物だ。これで身に着くのだから、これ以上楽な方法は無い。

 しかし、無論そのスキルや魔法を使うには相応の能力が求められる為、能力以下の者は覚えても使えないし、余りにも能力が低い場合は覚える事も出来ない。基本的にこの方法で覚えられるスキルや魔法はわずかな物で、殆どは修行をして身に着けるか、書物を読破して身に着けるか、アイテムを使うかで修得できる物である。


 ミルに一刻も早く勇者一行からの自衛技を覚えてほしかったカミラからすれば、『制御と』『ステルス』をミルが覚えたところで、ようやく一安心しただろう。


「ミル。私がさっきミルにかけたステルスを一旦解くね。そしたら今度は、自分でステルスをやってみて」

「ステルス? 」

「さっき私がかけた姿が見えなくなる魔法よ。ステルスって言うか思ってみて」

「ステルス! 」


 ミルの姿が今度は二人の目から消えた。ただオーラを残して。


「うまくできてるよミル、ちゃんと姿が見えなくなってる」

「ほんと! ステルスできた! 」

「でもまだオーラが見えてるよ。そこで制御を使うの。自分の力を抑えるか、隠すイメージをしてみて」


 ミルの姿が消えたところの空間の歪みが、ゆっくりと消えていく。


「いい感じだよミル。ごめん少しの間『力』使うね」

「う、うん。大丈夫だよ! 」


 ミルの了承にカミラは微笑んで能力『力』を解放すると、カミラのスキル値が上昇していく。


「十秒くらい待ってね」

「わかったよ! 」

「うわ、凄いな。ステータスの数値ってそんなに上がっていくものなのか、ていうかどこまで上がるんだ」

「『力』は、元々のスキル値が0.1でもあれば、それを無限に上げられるからね。私はまだ時間かかるけど」


 カミラのスキル値が、ミルのスキル値を超える。するとカミラはミルを確認する。


「姿は見えない、でも――」


 カミラにはミルの姿は見えないが、オーラでくっきり存在を確認できた。


「ミル、もうちょっと隠してみて。ミルならできるよ」

「頑張れミル! 」


 ミルは存在感を更に消した。


 カミラはミルの存在感、空間の歪みはおろか、オーラも何も感じなくなった。


「今どう? 見えない? 」

「いいね。全くわからないよミル。全く見えない。スキル値も、私がミルの倍以上、これで見えないなら大丈夫そうだね」

「俺はもう全くわからん」

「そりゃ、仕方ないよビンセント」


 ビンセントは二人の方をみながら焼き魚の世話をしている。


「ミル、私達に触れてみて」

「はい! 」


 ミルはカミラの後ろから抱き着いた。


「うおぉ!? そこにいたの、本当にわからなかった」

「えへへ」

「それじゃあ、私達に見えるようにしてほしいんだけど、私達の事を触りながら存在を見せるイメージをしてみて」

「うーん、カミラ、カミラ……。見えてる? 」


 するとカミラは自分の頬に頬すりをしているミルの姿が見えた。


「よし、ビンセント! 」

「ん? 」

「ミル見える? 」


 じっくりとカミラとミルを見るビンセントだが、カミラの状態を確認をすると、ミルはカミラに抱き着いているという事が察せられる。


「いや、見えないが……」


(たぶん後ろにおおいかぶさってんな)

「よし、じゃあミル。次はビンセントにも同じ事をしてみて。……あ、抱き着かなくていいから触れるだけでいいからね」

「別に俺はなんもせん」


 ミルはカミラにした事と同じく、ビンセントにも自分を認識できるようにした。しかし、案の定背中をぎゅっとしてきた。


「うぉっ、そこにいたのかいミル。……お、後ろにかぶさってて顔は見れないけど、手が見える」

「ビンセント! 私見える? 」


 顔をひょっこりビンセントの目の前に出す。


「しっかり見えるよミル、もうステルスも完璧だな! 」

「やったぁ! 」

「一度触れて見せたら、後は見せる事を考えるだけで姿を見せれるようになるよ。ステータス表示はステルス同様に、『ステータスを確認』する。という感じに思えば勝手に出てくるよ。消したいときは、ステータス表示を消すって思えば消えるよ」

「へーそうなんだ! ありがとうカミラ! 」


 スキル修得に喜ぶ声を背中で受けるビンセントは、ミルが隠れ身術を教わり終わった事を確認すると、二人を夕食に呼んだ。


「二人とも、そろそろ魚が焼けるぞー! 食べよう!」

「そうだね、食べよう! 」

「食べる食べる! 」


 三人一緒に、話をしながら焚火の前で食事をはじめる。

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