#02

プルルルッ。

「はい。高坂です」

『あっ、すみません。皆本です。今、お時間大丈夫ですか?』

皆本?誰だったけ。

『あの、先日は傘を貸していただいてありがとうございました』

ああ。あの子か。

『傘のお礼をしたくて。都合の良い日でいいので、会えませんか?』

彼は少し早口でいう。

「お礼なんていいのに」

『いえ。そういうわけには』

ふふっ。僕の言葉に被ってるし。彼は引く気がないらしい。

『今、笑いました?』

「いいやー。笑ってない。わかった。日曜の13時。駅前で待ち合わせしよう」

『日曜の13時。駅前ですね』

日曜、13時………彼は、僕の言ったことを繰り返す。

『よし。ちゃんとメモりました』

「じゃあ日曜に。楽しみにしてるよ」

『はい。では』

電話が切れる。

彼はいい子だ。そんな感じがする。日曜か。ふふふっ。楽しみだ。




この時がいちばん幸せだったのかもしれない。今、僕はそう思う。




君のことを知らなければ。

こんな気持ちにもならなかったのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨が降る前に。 七夜月玖憂 @nanayozuki_ku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る