雨が降る前に。

七夜月玖憂

#01

いつからだっただろう。あなたが俺のことを忘れてしまうようになったのは。

あの雨の日。あんなことが起こらなければ。

ずっと一緒にいられたのだろうか。




「うわ。降ってきちゃったな」

駅の改札口。ふと聞こえたそんな呟き。急に降り出した雨だ。傘がないのだろうか。

「あの、傘使いますか?」

その青年はびっくりしたようにこちらを振り向く。

「え?」

「傘。僕、すぐそこなんで。これ使って下さい」

僕は青年に傘を差し出した。僕の行き先はすぐ目の前で、傘がなくても困らない。

「どうぞ」

青年は少しの間、迷っていたようだが、素直に受け取ってくれた。

「ありがとうございます。あの、連絡先教えていただいてもいいですか?」

お礼がしたいという青年に連絡先を教える。

「ん。これが僕の連絡先と名前ね。いつでもかけてくれていいから」

高坂春彦こうさかはるひこさん………」

「そう。君は?名前、教えて?」

僕は青年に問う。

「俺は皆本陸みなもとりく、です」




君は名前をいうのが少し恥ずかしかったと言っていた。それが僕と君の出会いだったのか。




僕はもう覚えていないけれど。


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