まだ生きてたのに

 身内の話ばかりで申し訳ない。

 母の話だ。


 最近ではドラマなどでよく聞く『臓器移植』だが、昔はそんなメジャーでは無かった。

 母の小学生時代では臓器移植は珍しく、ほとんど聞いたこともなかったらしい。

 しかし、クラスに心臓を移植したという女の子がいたそうだ。


 その女の子にはとても仲のいい友達がいたらしい。

 遊ぶ時は日が暮れるまでずっと一緒にいるほど仲が良かった。

 親友と言っていいほどだったそうだ。

 しかし、その友達がある日交通事故に遭ってしまい、『脳死』の状態になってしまう。

 さらに、ドナーとして心臓をくれたのだと言う。

 彼女の心情は計り知れない。

 仲の良い友達は死に、移植した心臓はその友達のものなのだから。


 その後、彼女は友達の墓を訪れた。

 一緒に遊んでくれたこと、自分に心臓をくれたこと。

 心から感謝した。

 涙を流し、何度も何度も感謝した。

「……もう、帰るね。ごめんね」

そう言って墓から離れようとした時だ。


ズボッ!と地面から手が出てきた。


驚きのあまり腰を抜かし、見たくないのにその手を見つめた。

墓の下から、恨めしそうな声が彼女に向かって叫んだ。



『私まだ生きてたのに……‼』



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