階段からのぞく女

 母の体験談だ。


 夜中に仕事から帰ってきた時だった。もうじき日付が変わるという時間に帰ってくるから音を立てないように玄関を開ける。

 疲れで体は鉛のように重い。

 その上、同僚のミスを何故か自分が叱咤されやや苛立っている。

 シャワー浴びるのがめんどくさいとか考えながら居間のドアに手を伸ばす。

 ふと、階段に目がいった。


 我が家には居間の真ん前に階段がある。

 そこから変な感じがしたという。

 じっと目を凝らして見てみると、女の首があった。

 ハニワのような顔の長い髪の女の首が。

 手すりに置かれたように乗っていて、こちらをじっと見ていた。

(ああ、脅かしたいだけだな……)

 そう思ったらしいが、「疲れて帰ってきているというのにこのタイミングか」と腹が立った。


「……………………なに」


 キレ気味に言ったそうだ。

 ハニワのような女はフッ、と消えた。

 冷静な母に感嘆したが、驚いて欲しかった彼女につい、同情してしまった。

 そのあと母はソファーに座り、水を飲み、タバコを吸って一息ついた。

 突然、台所と廊下をつなぐドアがひとりでに閉まった。

 そっと閉まるんじゃない、

 バンッ!と大きな音を立てて。

 家の窓やドアは全部閉まっているから勝手に閉まるはずがない。

 きっとハニワの女だ。

 彼女はつまらなかったのか、怒ったのか。

 それとも別の手で脅かそうとしたのか。

 だが、母には通じなかったようで。


「出てけよ!」


 母曰く、「大体の霊は『出ていけ』と言うと出ていく」そうだ。

 その後からハニワのような女は見ていないと言っていた。

 ならきっと出ていったのだろう。

 階段が電球が切れていても明るく感じるからもういないのだろう。


 少し話がそれるが、ハニワの女が目撃されるまで私の布団の枕元から顔を覗いてくる奴がいた。

 直感で女だとは思っていたがちゃんとした姿が見えなかった。

 母とハニワの女のやりとりがあってからそれも無くなった。

 ならば彼女は標的を変えたのだろうか。

 ……少し悪いことをしてしまったように思えた。

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