6. 暗雲
炊いていた火を消し、仮宿だった場所を見渡した。町の花売りの少女が教えてくれたこの場所は最近の隠れ家としてはなかなかであった。人が来ない、というのは異端の二人にとって大変重要なことだったからだ。
「来ねえな―――」
あれから日付が変わり、二人は旅立とうとしていた。反乱軍の足跡を探しに。しかし彼らがこの日会うことを約束した少女は頃合いになっても現れなかった。
「クウを渡すにしろ渡さないにしろここには来るって言ってたのにな。」
『何かあったんじゃないか?』
「何か?」
『いやな風が吹く日だ―――』
シグルスがそう言ってほら穴の外を見た。確かに、あまり天気は良くないし、じっとりとした風が吹いている。
「様子を見に行ってみるよ。」
『待て。面倒ごとだったらどうするんだ。』
「・・・・・・その時に考えるよ。」
ウィンはシグルスのため息が聞こえたが、そんなことはかまわなかった。それを見たシグルスは渋々ほら穴からウィンを送った。
フールリダーへとたどり着いたウィンが向かったのは、フロアの花屋だった。しかしどうやら様子がおかしかった。店の表には「OPEN」と書かれた看板があるのだが、店内には誰もいなかった。
「フロアー!いるか?」
もしかしたら奥にいるのかもしれないと思い、ウィンは呼びかけた。案の定、奥からフロアは顔を出したが、どうにも様子がおかしい。顔が真っ青だった。
「ウ、ウィンさん・・・・私・・どうしよう・・・・・・!!」
「どうした?」
「クウちゃんが!クウちゃんがどこにもいないんです!!」
ああ、シグルスの予想が的中してしまった、とウィンは思った。
「心当たりは?」
ウィンの問いに涙目になりながらフロアは首を横に振った。ウィンには何かが引っ掛かった。
「気になることがあるんだ。よく聞いて、考えてみてくれ。」
フロアはゆっくりと頷いた。
「7条に違反したのがばれたとしたら、普通は真っ先にお前が捕まる。でもいなくなったのはクウだけだ。クウの失踪ではないとしたら、誘拐の可能性が高い。7条の告発をすると結構な額の賞金が出る。それとは別の目的があるとしたら――――」
「別の―――」
反乱軍がドラゴンを見つけて勝手に引き取ってしまったのだろうか?それともクウちゃんは人間と暮らすのが嫌になったのだろうか?考えを巡らせるフロアだったが、突然、そこに訪問者が現れた。
「フロア・アルル様はご在宅でしょうか?」
「あ、お、お伺いします!」
「フロア―――」
店頭に出ようとしたフロアの肩を、ウィンは掴んだ。
「気を付けろ。客じゃなかったら大声で叫べ。」
「・・・わ、分かりました。」
ウィンの言葉を聞き、神妙な面持ちでフロアは店へ出た。
「いらっしゃいましたか。」
「な!何しに来たんですか!!?」
そこに立っていたのは、イース子爵に仕えている者だった。フロアが大声で叫んだので、ウィンは急いで店へ出た。
「どうした!?誰だお前は!!?」
「私はイース子爵の秘書をしている者です。あなたこそみすぼらしい・・・いや、よしましょう。子爵からお手紙が届いております。よく考えるように、とのことです。」
ムッとしたウィンは無視して、その秘書を名乗る男はフロアに封筒を渡し、「失礼します。」と一言だけ言って、さっさと出て行ってしまった。
「クウ絡みか?」
「よ、呼んでみます―――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます