5. 旅の目的

「ウィンさん!シグルスさん!フロアです!」


高くそびえる岩の前でフロアは叫んだ。少しすると、足元に大きな影が現れた。シグルスのものだ。


『ウィンに話は聞いた。乗れ。』


そういうと真黒で巨大なドラゴンは頭を低くした。そこから乗れということであろう。フロアは思い切って飛び乗った。


「ひゃっ!」シグルスが翼を羽ばたかせた。町から見つかるといけないのでそれほど高くは飛べなかったが、それでもフロアにとっては大冒険であった。


「すごい・・・!ありがとうシグルスさん。」

『すぐにつく。落ちないようにな。』


見た目とは裏腹に優しいドラゴンなのだとフロアは思った。


『ついたぞ。降りれるか?』

「大丈夫です。わざわざありがとうございます。」

『・・・・・・変わった娘だ。』

「ん?」


『いや、なんでもない。』そう、シグルスは話をそらした。ウィン以外でこのような対応をされたのはずいぶんと久しぶりだった。いや、ウィンもこれほどは礼儀正しくも優しくもない、と彼は思ったのだった。


ほら穴へ入ると、そこではウィンが待っていた。


「よう。この隠れ場所、なかなか悪くないぜ。ありがとな。」

「いえ・・・。案外、汚れていないのですね―――」


ほら穴の中をぐるっと見てフロアは思った。


「虫はいるけどな。それでも寝れるし、人はいないしで最高だ。ところで、シグルスに話を聞きに来たんだろう?」

「え、ええ。ドラゴンの育て方なんてことは本でも見つけられないから―――」

『まあ、そこに掛けるといい。』


シグルスに促され、フロアはウィンの隣に腰を下ろし、カバンからクウちゃんを出させた。


『クウ』

『生まれて10年もたっていないな。しかし小さな町の一軒家で暮らせるのはせいぜいあと3年だな。それ以上は隠しきれないだろう。』


シグルスの言葉にフロアは落胆した。なにも予想していなかったわけではない。それでも、現実を実際に知るのはつらかった。


「昨日も言ったが、俺たちは反乱軍の本拠地へ行こうとしている。そこでなら、シグルスも隠れて過ごす必要はない。そこで、俺たち話し合ったんだが、クウを預けてくれないか?」

「え・・・!?」


それはウィンとシグルスができる最大限のことだった。反乱軍のもとへ行けば、クウちゃんものんびり育てることができるであろう。それでもフロアはためらった。


「か、考えさせえください。」

『・・・フロア、ウィンに聞いて大体のことは分かった。親父さんが残していったドラゴンだ。情も愛着もあるだろう。しかし、7条に違反したことが知られたらただじゃあ済まない。俺達にはこの生き方しかないが、お前なら引き返せる。人間だけで過ごした方が利口だ。』


『わかるだろう?』と、優しくシグルスは言った。


「俺たちは明日、ここを発とうと思う。だからそれまでに決めてくれ。ただ言っておくけどな、この小さな町じゃ、すぐに見つかるぞ。見つかったら最後、フロアもクウも処刑される。」

「・・・・・・わかってる。少しだけ、時間が欲しいんです。明日、またここに来ます。」


『送っていく。』そう言ってシグルスはフロアを背に乗せ、隠れ場所を後にした。





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