次は絶対………!!!

なぁぁぁーーーー!

逃したぁああ!

イケメンは私を完全に通り過ぎていった。

…あれ?

わ、私、もしかして…

イケメンの名前、知らないいいいぃ?!

ま…まずはそこからだあ!

私は、近くを歩いていた同級生に声をかけた。


「あ、あの〜…」


うわー、あらかさまに変な顔された…

学年2位なめんな?!そんくらい分かるんだ!心の中でガチギレしながら笑顔を作る。


「あの、そこにいる、イ…男の人の名前、教えてくれませんか…?」


そっと、イケメンを指差す。

同級生は、首を傾げて、小さく口元で笑った。


「あー、もしかして、成田君のこと好きなの?」


ずい、と顔を寄せられる。化粧臭い顔面…。

あ、それと、私の演技力も、なめんな?

私は作りたての笑顔で首を振った。


「違いますよー。名前、教えてくれてありがとうございます!」


ぺこり、とお辞儀。床に微笑みかける。


「え…うん。…じゃあ。」


同級生は、そそくさと立ち去っていった。

私は生き生きと顔を上げ、乱れた前髪と眼鏡を直した。


ふふっ、ありがとう、同級生!

…さあ、次こそは…!


『「永田ー黒板当番ー」黒板の前に立つクラスメイトがあたしに呼び掛けた。「あ、うん!ごめんごめんー」手を合わせながらあたしは黒板の所にかけていった。黒板消しを持ち、チョークの文字を消していると、背後で池上君の声が聞こえた。「永田さん、ハンカチ、落としたよー」振り返ると、あたしのハンカチを持ってそれを掲げている池上君がいた。「えっ?あっ、ありがとう、。い、池上君。」今朝のことがあったので、あたしは顔を赤らめた。池上君はあたしに歩み寄ると、ハンカチを渡してくれた。手と手が触れ合い、あたしはますます顔を赤くした。』


…よおし、次はこれ!

私は成田君が座る席の横でハンカチを落とす…それを成田君が拾い、私に渡す…手が触れ合い、………ラブ♡ファンタジーの始まり♡…ふふふ♪これなら…!!


私は、休み時間、成田君がいる時を見計らって、ハンカチを後ろ手に持ってスタンバイした。まるで水泳の選手が泳ぐ前に深呼吸するみたいに、小さく深呼吸。


…よし、勇気を出せ私!いっくよー!

ゆっくりと一歩を踏み出す。成田君の席の横を通り過ぎる直前にさっとハンカチを落とした。そして、素知らぬふりをして…………

っておい!落として結構経ったぞ!…え?

成田君は席に座っていなかった。慌ててキョロキョロあたりを見回すと、もうすでに席を立って友達と話している成田君が私の視界に映った。


………また、失敗した…



…ええい、もう一回!

…もう一回!

もう…

あ…


「つ…疲れた…。」


誰もいない女子トイレの個室の便座に座り、俯く。


『ドアを開けてもらう作戦』、『ボールを拾ってもらう作戦』、『調理実習で作ったクッキーを食べてもらう作戦』などなど、全部失敗。もう学校は放課後ムードで、トイレにいても廊下の騒がしさが分かる。


…もう、諦めるしかないのかな。私は恋にふさわしくないのかなぁ………


ため息をついて、トイレを出た。

とぼとぼと学校を出て、帰り道を歩く。視界の端に成田君が映るけど、気にする気力もない。


「ねえ、あいつ。」

「ああ、学年2位の人?」

「そーそー。なんか今日やたら成田君にアタックしてたけど、全部失敗してたよね〜!」

「あはは、ウケるぅ!自分のカッコとか分かってるのかなぁ?」

「やめてあげなってえ!聞こえてるよ〜〜」


私は振り返らずにただただ歩き続けた。


……そうだ。私は、避けられてるんだ。いじめられてるんだ。ラブコメに習ってること、ばれてるんだ。

ぼんやりと考える。


…私は、恋することを許されない女子なんだ。








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