第114話クロント王国三都市同時侵攻戦ⅩⅡ
突然横からの衝撃に空中で踏ん張ろうとしたエドガーだったがパラスからの反撃を考え吹き飛ばされた。
銀狼人となった身ならば並大抵の攻撃は効かない。現に先程の攻撃もそこまで効いていない。ただ単にパラスへの追撃を退かせたかった可能性もあるが。
攻撃者を見つけようと視線を巡らせた。建物の瓦礫の上に鼠色の外套を着ている人物が目に入った。
「まったくパラスともあろう人物が情けないにゃん!」
「にゃん? …クロちゃん!」
「そうにゃ。今さっき仕事から帰って来たにゃ!」
フードを外しながら胸を張ったクロは猫のように軽やかに(実際猫の獣人なのだが)瓦礫を降り立ちパラスの元へ。
パラスも希望の光が一つ来てくれたことに笑みを浮かべながら近寄っていく。
「いやぁ~来てくれて良かったよ。それにさっきのナイスアシスト~!」
先程まで必死な表情だったのに両手でサムズアップしておちゃらけ始める。相変わらずという冷めた視線を頂戴するが気にしない。しかし、剣に手が掛ったらさすがに手を引っ込めた。
微苦笑しながらポーションを取り出し回復していく。
「それでこれは何だにゃ? 何でこんなことになってるんだにゃん」
「それをボクに言われてもねぇ。原因を詳しくは知らないんだよね。ただいきなり攻めてこられてこうなったとしか」
「何にゃそれ」
使えね―という視線を隠せずに向けるクロ。何故かお礼を言うパラス。彼はM気質なのかもしれない。
「まぁいいにゃ。事情はあの狼に聞けば」
「いねぇと思えば外に出てたのか、クロック・シルバー」
刺突に特化した剣を抜きつつ視線を向けたクロに対しエドガーが声を掛けた。
「誰にゃ? 生憎私には狼の知り合いはいないのにゃ」
「黙れ猫野郎。テメェには獣人よしみで選択肢をくれてやる」
「選択肢にゃ?」
「ここで死ぬか、それも俺たちと一緒に来るか、選べ」
「来るってどこへにゃ?」
「付いてくるなら教えてやるよ」
付いていく前に知りたいのにゃ。
分からずやなエドガーにがっかりしつつパラスへ何か知っているか問いかけたのだが… 当のパラスは指で×字を作り、酸っぱ顔をしていた。彼的に知らないと言う意思表示なのだろう。大分ふざけてはいるが。
怒りマークを浮かべたクロが切っ先をパラスに向ける。
「良い度胸にゃ。まずはパラスから穴空きにしてやるにゃん!」
「ちょ、待って待ってよぉー」
走って逃げるパラスに追い掛けるクロ。
突然始まった追いかけっこにエドガーの額にも怒りマークが浮かぶ。何せ答えも聞かせてもらえずに遊んでいるのだ。怒らない方が少数だろう。
弾丸のようなスピードで二人に接近すると爪撃の一閃を見舞う。クロは鍛えた成果を遺憾なく発揮し剣を叩きつけることで受け止めた。だがそれも一瞬。物凄い速度で吹き飛ばされる。
そもそも狂獣と化したエドガーに対してクロは身体強化しかしていない。それでは太刀打ちは無理だ。精々一瞬止めるのが限界だ。
瓦礫の上を跳ねることで回避したクロは着地すると身体を紅いオーラに包ませた。
狂獣化だ。
爪や牙は鋭く、目は獣のそれに、毛は逆立ち迫力を増す。
「いくにゃ!」
「来いよ猫野郎」
銀と黒の獣が衝突した。
◇ ◇ ◇
銀狼人エドガー対黒猫人クロ、パラスの戦闘が本格的に始まった頃、商業都市でも激しい戦闘が幕を開けていた。
天から無数に降り注ぐ流星の雨群。大きさはおよそ五、六センチ程だが上空からの加速度を考えれば受けるわけにはいかない。
ヴァインは周囲に複数枚の血盾を作りながら回避、厳しいようなら盾で爆風を防ぐ方法を取っていた。そこへ死神の鎌が振り下ろされる。
「っ!」
自動操作ではなく手動操作により鎌がぶつかった血盾だが、その盾がガリガリと削られていく。相手が持つ鎌の刃の部分は風魔法を使用して作られたものであり、乱回転している所為で同じく風魔法をぶつけて相殺も難しい。
ガルドフ・ナックル。
商業都市ラトレイユを主な活動場所にする獣人のSランク冒険者だ。
ガルドフは獣人ながら魔術師系の職を選んだ変わり者だ。魔獣師という呼ばれ方をしている。蔑みからではなく、尊敬を込めてだ。
彼は獣人でありながら人族と遜色ないほど魔力が多かった。故に魔術師職を選びSランクの高みまで辿り着いた。そんな彼でも目の前の鬼人族――ヴァイン=シリウスは強敵だった。
ヴァインは鬼人族の中でも滅多に生まれない吸血鬼だ。ただの鬼人とは違い吸血鬼だけが使えるスキルに魔法がある。ガルドフはそれに苦戦していた。
代表的なものが今も展開されている血を操る魔法。
液体を扱う故にどんな物でも大きさでも作りだすことが可能であり、戦場となれば血はいくらでも流れている。非常に厄介であり面倒と謂わざる得ないものだった。
「七つの
鎌を持っていない手にリングから三、四㎝サイズの魔石を七つほど握ると上空に投げつけた。
投げられた魔石は上空で北斗七星を描くように形作るとその場で静止、ガルドフがヴァインから距離を取ると同時に降り注ぐ。
「
周囲に浮かぶ盾を新たに数枚作りだしながら両手に剣を作り出す。もちろん血だ。
普通の剣よりも厚みを持たせ、代わりに剣身を短くすることで強度を上げる。それを上空から振ってくる魔石目掛けて振る。振る。振る。
ザン ザン ザンと魔石と血の剣がぶつかる音が響く。魔石は砕け、刃も砕ける。だが、剣は血で出来ている。周囲から血を吸い上げ即座に補強。決して武器はなくならない。
残すところ二個になった時、ガルドフは持っていた鎌を円を描くように両手で回転させた。
回転する鎌の柄、その部分に魔法陣が現れる。
彼が使う鎌は柄で二m刃、刃は一mも長大な武器だ。現れた魔法陣は柄の大きさ沿ってる為二m程になる。
「
秩序なき風の刃が襲い来る。
残る隕石は一つ。だが、風の刃が思ったよりも強く盾の方がもたない。
右手の剣を槍へと形状変化さて投擲、直ぐ様左手の剣を鎧に変化させ手に纏う。それから自身に引っかき傷を作ると流れた血から大盾を作り出す。
上空で爆発音が響く。
どっしりと構えたヴァインに風の刃が到達する。
甲高い音を鳴らしながら通り過ぎたのを確認すると大盾を霧状にして周囲に散布した。
右腕に新たに鎧を装備させ、剣を作りだすとガルドフ目掛けて突撃。二本の剣と長大な鎌が連続で激しく火花を散らす。
「これほどの力がありながらやることと言えば犯罪か… 理解し難い愚行だ」
「貴公に理解など求めてはいない。そもそも人に真に人を理解することなど出来はしない」
「何を根拠に宣う」
「人を真に理解したいならばその者と同じ境遇で同じ思考で同じ時間を過ごす以外にない。それで経てまだ理解出来ないと言うのなら納得も出来よう。だが、何かもが違う者からの肯定など不快なだけだだ」
「道理だ。だが、だからと言って
「ならばどうする」
「
両者共に武器を構えなおし衝突した。
同都市の一角、そこでは砂嵐が吹き荒れていた。
建物瓦礫を削り取るその中心に二人の女性が立っている。
Sランク冒険者ミリエル・ハ―フェン。魔道具の一つである武器、
周囲を覆う砂嵐は彼女の武器である
それに相対すのは鬼人族であるフォルカ・モルーガ。
ただ、そんな変態でも実力は高い。だからこそSランクと言う人類の頂点に近い者とも殺りあえる。
「キヒャー!」
奇声を上げながらミリエルに飛び掛かるフォルカ。砂嵐が壁となりて進行を阻むが構わず拳を叩きつける。
――"拳技"巨人の鉄槌
腕に膨大な魔力を蓄積させそれを一気に放出することで一撃の威力を増大させる技だ。
削がれた場所から異常な速度で回復しているのだ。
フォルカは再生スキルは持ち合わせていないが、似たスキルを持っている。
第二次職業である狂戦士が持つ専用スキル"代償治癒"だ。
かなりデメリットがあるがスキルの発動させている間は再生と同じ効力がある。故にフォルカは無茶な戦い方をしても死にはしない。少なくとも戦闘中は。
「冗談だろ…」
「キシシシシ… キシャー」
砂塵の壁を突破したフォルカに呆れつつ腰に佩いていた新たな剣を抜いて薙いだ。ガリガリガリと肉体と接触したとは思えない音を奏でながら両者共に背を向ける形になる。
最初に動いたのはフォルカだ。
腕に溜めた魔力を砲として打ち出す、"拳技"
ミリエルは"剣技"
何度も斬りつけるが相変わらず傷は出来ず、硬質な音が響く。
「ったく、硬ってぇなぁ」
「お前の剣が弱いから私を切れないんだよ!」
「余計な、お世話だっ!」
距離を取ろうとした牽制の一撃を掴むフォルカ。剣を手繰り寄せると膝蹴りがミリエルを襲った。
「がはっ!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね キヒャァァァァァー」
子供が駄々をこねるように腕を振り回す。普通ならそこまで脅威にもなりはしないが、フォルかという変態がやると変わってくる。
ただでさえ鬼人族のとしての膂力に身体強化しているのだ。一撃一撃が地面を放射線状に砕きミリエルの意識を削りにかかる。
「アァァン… 気持いぃぃぃぃ~ キシシシ」
絶頂に達しなかのように恍惚とした表情を浮かべる。口からは涎をだらだらと垂らし、今にも食いつかんばかりだ(物理的に)。
興奮しすぎているのか僅かに震える手でミリエルの両肩を掴んで持ち上げると顔を見つめた。ニヤッと嫌らしい笑みを浮かべると―――キスをした。
「ちゅっ、ちゅむっ、んちゅっ♥ ちゅぷ、ちゅぱちゅ~♥」
舌を侵入させるのは勿論、口の周りを犬のように舐めていく。するとようやく気がついたのか、カッと目を見開いたミリエルが暴れて距離をとった。
「っ!… おま、一体何してくれんだ!?」
「何って… 味見?」
「意味わかんねぇーよ。このアホ」
コテンと首を傾げながら言うフォルカを見ながら口を拭うが、取れた気がしないのか何度も何度も拭う。
「クソ野郎。折角将来の旦那様の為にとっといた大切な私のキスが… この恨み、忘れんぞ!」
「キシシシ 今度はもっと気持ちよくさせてあげる! キシッ」
「いらねーわ、そんなもん!」
背中にゾワゾワとした気配を感じて仕方がない。
何もかも役目を放り捨てて今すぐ逃げ出したい気分だった。
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