第74話神喰VS悪魔Ⅲ

煙の隙間から姿を現したのはゆらゆら揺れる物体。真っ赤に燃える灼熱の炎の塊だ。


悪魔は、何とか突き刺さった炎の剣を抜こうと掴む。高熱によってジューという音と共に手のひらに痛みが襲いかかる。


本日何度目かも分からない呻き声を漏らす。強引に抜き去ろうとするが、セリムがそうはさせない。逆に突き立てられた。



「グアァッ!」



突き立てられた状態で空中へと持ち上げられる。煙の中から人間の骨のようなものを炎で包んだ腕が現れる。手には悪魔に突き立てた剣が握られていた。



「魔眼を使っていれば回避出来たかも知れないものを… 怒りで使い方を忘れたのか?」


「だ、まぁれえぇぇ!」



掌を突き出し魔法を連射する悪魔。爆風によって煙が吹き飛んだ。


現れたのは先の腕同様、人間の肋骨のような骨、それに炎を纏わせたものだった。中にはセリムが入っており、護られている。



「…何だ、それは…」



痛みに堪えながら見たこともないものを纏うセリムに、自然と疑問が口を吐いて出た。



「ある奴と戦った時に気づかされてな。防御が薄いのと決定打に欠けることにな」


「ぐがぁ… それがこれと言う訳か…」


「そうだ。俺は指摘された点を考慮して新たな力を求めた。それがこの炎の鎧…どうだ?触れるだけでも敵はダメージを負う気分は? もちろんこうして武器を作り出して突き刺したり殴ったりすることも出来る。こいつは攻防一体型の魔法…紅焔者の骨鎧クリムゾナル・フレイマー …それがこいつの名だ」



紅焔者の骨鎧クリムゾナル・フレイマー


傲慢の神敵者ネルファ・キルシュリア。以前彼女との戦闘時に露見した欠点を補う為に作った新魔法だ。


収束・範囲拡張・火魔法これら三つのものを軸に、他に幾つかのスキルを掛け合わせた。お陰で二重発動ダブルキャストが変化し多重発動マルチキャストへとなった。


ダンジョンにたどり着くまでにも練習を重ね続けていた。そして何とか形にすることができた攻防一体の鎧だ。


冥土の土産とばかりにわざわざ新魔法がどういったものかを手短に教えたセリム。


こんな態度を取るのだからさぞかし余裕があるのだろうと思うかもしれないが、そんなことはない。幾つもの魔法やスキルを併用しているせいで魔力消費は半端なく悪い。形を安定させるのにも時間がかかり、奥の手だった。



「さて、話しは終わりだ。お前はここで俺に喰われて死ね」



背中からさらに一本腕が形成される。肩、上腕、肘と徐々に形作られる骨格。指先まで形成されると炎に覆われた。


指先にまで炎が行くと、掌から炎の剣を作り出した。二mを超える炎のだ。


向けられた剣に死の予感を覚える悪魔。捕まれた手から脱出を抵抗を試みるが傷から靄が流失して思ったような威力が出ない。


無慈悲なる炎剣が悪魔の頭目掛けて振り下ろされる。触れただけでもダメージを負う紅焔者の骨鎧クリムゾナル・フレイマー


防ぐには武器で受け止めるか、セリムのように鎧を作るか、魔力で体を覆など対策しなければい。


悪魔はその内の一つ、魔力で体を覆う術を持っていた。



「魔装ぉぉぉぉぉぉ!」



両腕に魔力を回し鋭い爪の付いた闇色の鎧を作り出す。頭の上で腕をクロスさせ、死の一撃を防御した。


炎の剣と闇色の鎧がぶつかり合うシュウゥゥと言う音が響き渡ると、悪魔の鎧が溶断されていく。



「があぁぁぁぁぁ!」



裂帛の気合を上げる悪魔。もはや防げないと見て少しでも軌道を逸らそうと腕に角度を付ける。


力んだことで腹部の傷口を自ら抉ってしまい呻く。徐々に腕が押し込まれてクロスさせた腕が肩にピッタリとくっついた。



(こいつ… いい加減くたばれよ。ぐっ…)




内心悪態を付きながら顔を歪めるセリム。これ以上長引けばセリムとしても魔力、体力、気力が少々厳しい。


骨鎧こつがいに魔力を込め、威力を高める。悪魔は一層苦しそうに呻きを上げ始め、暗色の鎧にヒビが入った。


そこからは早かった。一ヶ所のヒビを起点に一気にヒビは広がった。そして鎧、腕が切り落とされた。軌道を逸らされていた剣は肩から入り、抵抗を感じさせず一気に股下まで切り裂いた。


勢いよく振り抜かれた剣だが、切り裂いた瞬間、爆発。紅焔者の骨鎧クリムゾナル・フレイマーが解除され盛大二人とも吹き飛ばされた。



(しく、じったっ!)



力み過ぎて制御を誤ったことを悔やみながら悪魔を探す。木に打ち付けられた悪魔を見つける。


幸い五体満足だった為、すぐに動けた。



「あんだけ偉そうだったのに、ザマないな…」



声にならないかすれ声をあげる悪魔。右半身を失い、全身を焼かれている。いつ死んでもおかしくない状態だ。



ーーまだ死ねない。我はまだ…人間を殺すまだ…



脳内でひたすらに人間への怨みを浮かべる。復讐の念にかられた言葉を繰り返すも、どんなに強い思いも身体を動かせなければ何も成せない。


そこへ歩みよるは命を刈り取る響き。死神の足音だ。



「…まだ生きてんのか」



目だけ動かしセリムを見る悪魔。



「…わ… ゆ… ん…」



何かを喋る悪魔だったが何を言ったのかは理解できない。



「俺に喰われろ」



リングから帯電効果のある大剣を取り出すと大上段に構えた。



そして振り下ろす――



虚ろで目でセリムを睨む。


そして次の瞬間には悪魔の意識は闇の中へと消えていった。





「んあぁ~」



悪魔が動かない事を確認し終えると地面にどっかりと腰を下ろす。さすがに連戦で疲弊しきっていた。


頭を動かし、悪魔の死体へと目を向ける。



(結局、こいつの魔眼の能力は分からなかったな…)



そこへ本当の意味で悪魔が死んだことを告げるメッセージが流れた。



全身をナイフで刺さればまくられるような壮絶な痛みがセリムを襲う。



「グッ…ガァァァァァァァァァァァァ」



今までで一番の痛みが身体を駆け巡り、絶叫する。手足をジタバタさせ、地面を転がる。


傷を負った身体で感じる痛みは一瞬にも永遠にも感じられるほどの感覚を与え意識を明滅させた。




「随分と苦しそうですね」



セリムのその姿を木の上に立ちながら見下ろす一つの人影。


軽やかに木から降りると気配を消しながらセリムへと歩みを進める。顔には薄ら寒い笑みが浮かんでいた。





どれくらい痛みに耐えたのか。長かったような短かったようなーー感覚が狂ってしまったように感じていた。


荒い息を吐きながら起き上がる。筋肉痛のように未だ完璧に痛みは取れず、顔をしかめたーー



「! 誰だ!」



痛みに気を取られて今まで気付つのが遅れた。数十m程後ろに見知らぬ人物が近づいてきていた。


執事服のような黒い服に身を包んだ黒髪の青年だ。



「おや、これは失礼。まさかそこまで警戒すると… 君に話があるのです」


「…」


「セリムくん、復讐者私たちの仲間になりませんか?」



白い手袋を嵌めた手を差し出し、笑顔を向けてくる青年。


口調は丁寧だが、態度や纏う雰囲気から何を考えているか分からない不気味さを覚えた。


見た目、言葉遣いなど、ぱっと見完璧に見えるのだが、一般人なら気付かないかもしれないがまったくもって目が笑っていなかったのだ。



「勧誘すんなら名前位名乗ったらどうだ?」


「それもそうでしたね。これは失礼。私は――」



言いかけて止める青年。


覗き混むように目を見つめてくる青年。



「…そんなに警戒すると言うことはどうやら私の事を知っているようですね」



セリムは警戒しすぎたかと舌打ちした。


事実、セリムはこの青年の事を知っている。初対面ではあったが情報だけは得ていた。傲慢の神敵者ネルファ・キルシュリアから。



(こいつはネルファが言っていた危険人物の内の一人だ…名を…)



゛色欲の神敵者 ラグリア・フォルネス゛




ーーーーーー




時は遡りセリムが洞穴の針山へと出発した日。つまり二週間と少し前――


場所は第二のエルフの国。屋敷の廊下を何が楽しいのか笑顔で歩く少女。つき従うように追従するのは毛皮のベストを着た巨漢の男だ。


二人は現在エルフの国の魔法兵団が首領、ステイツの願いを聞き、協力を要請するためにある人物の部屋へと向かっていた。


目的の部屋の前まで来るとそこには侵入を拒むようにドア脇に老人が立っていた。


白髪、鼻下に白髭を蓄えている。燕尾服を着た姿からいい歳した爺さんのようにも見えるが、背筋はピンと伸ばされ侵入者を監視するその目には老体とは思えぬ眼力がある。ただ者ではないのは明らかだ。だがそんな人物に特に臆した様子もなく近づく二人。



「ネルネルに会いに来たんだけど通してコプコプー」



見た目年齢差五十は上であろうヤーコプに向けて気軽な口調で話しかける十代前半の少女。


付き従っている男は「年上にその口調はダメだろ…」とツッコミを入れる。しかしそんなこと気にした様子のないヤーコプは少女に向けて一礼。



「お帰りなさいませ、ミルフィー様。ネルファ様がお探しでしたよ」



コテンと可愛く首を傾げながらどして?と問い返す少女ーーミルフィー。



「お仕事を終え、ご帰還なさったのに勝手にどこかにいってしまって、迷子になっていないだろうかと心配なさっておりました」



二回り以上は年下であろうミルフィーに丁寧な態度で接するヤーコプ。


二人の関係を知らない者がこの光景を見ればミルフィーの事をどこかの貴族の娘で、ヤーコプを執事と勘違いするだろう。


だが、関係を知っているものにとっては当たり前かはさて置き、ごく普通な光景だった。



「あはは、すいません。ヤーコプさん」



巨漢の男ディーンが愛想笑いを浮かべながら謝る。


事実ミルフィーたち二人は迷子になっていたのだから。より正確に言うならミルフィーが勝手に突っ走った所為でディーンは巻き込まれ迷子になったのだが…


運よくハルトとアイリの姿を見つけ何とか付いて行ったから良かった。だが、ステイツの話しを聞くや否や飛び出したミルフィー。


どこに何があるのかもろくに知らないのにまたしても勝手に飛び出す姿にディーンは溜め息を吐いた。


当然のごとく迷子になり、道を聞きながら――もちろんすべてディーンが――何とかこの屋敷までたどり着いたのだ。


好奇心旺盛なのはいいことだが毎回は勘弁願いたいと毎回のこと思うディーン。


巨漢の見た目には似合わぬ面倒見の良い性格だが、ディーンの願いは聞き届けられるのだろうか…ミルフィーが大人になればその苦労からも解放させるだろうが、まだまだ先だ。



「そーなんだ。ネルネルにはあとで謝らないとだね」



えへへ~と本当に謝る気があるのか疑わしい態度で笑う。つられてヤーコプも笑みを浮かべる。



「それでミルフィー様。ネルファ様にお会いしたいという事でしたが、どのような要件でしょう。差し支えなければこのヤーコプに教えていただけますでしょうか?」


「ん~とね、ネルネルにお願いがあってきたのー」



具体的なことは言わないためどんな用事なのか見当が付かない。だが、向けられる笑顔に和まされ「分かりました」と一礼する。


相変わらず子供には甘いなとそんなんで見張り大丈夫なのか?と疑問を抱くディーン。


そんなことを思っている間にヤーコプは扉を二度ノック、訪ねてきた人物の名と用件告げる。中から入室を許可する言葉が返ってくるとドアノブに手をかけ開いた。



「どうぞ」


「ありがとうー」



元気いっぱいにお礼を言うとミルフィー。続いてディーンも会釈をし入室する。二人が入るのを確認すると自身も中へと入り、飲み物の準備を始める。


ボフッと音がしそうなほど勢いよく座るミルフィー。それとは反対に静かに腰を下すディーン。


対面にはネルファが座り、全員に飲み物がいきわたるとヤーコプがネルファの後ろで控えた。



「勝手にいなくなって…どこに行ってたんだ?」



勝手にどこかに行ってしまい大層ご立腹かと思いきや表情にも声音にも怒りは見受けられない。ただ心配していたのだ。


ミルフィーがハルトを追跡していたことを告げる。ディーンに向かって「すまないな」と労いの言葉をかけるネルファ。



「これも仕事ですから。あはは」


「そうだとしても毎度毎度悪いな…」



帰ってきてからの事を話し終えると、緩みきっていた雰囲気を消し、仕事の報告へと移った。



「はーい。今回も・・・ハズレだったよ!」


「そうか…わかってはいたがこう何も成果がないとなんとも…」


「それなんですが、村へ向かう途中に会った行商人の男から聞いた話なんですが、帝国領より西にある火山、ラトル火山の近くにある国、ゲーテ皇国にてその名を聞いたという話を聞きました」


「今回こそあたりだといいんだが…まあ高確率でハズレだろうなぁ」


「まぁそれは仕方ないと思いますよ。自分で神敵者・・・・・・と名乗る・・・・なんて大抵はただのバカですから。本当に追われる恐怖を知らないんですよ」


「自分で神敵者なんぞと名乗るのはただの馬鹿、か。何ににせよ確かめなければるまい」


「では準備を…」



ディーンが自分たちが行こうと立ち上がりかけた時、ネルファが遮った。



「いや、お前たち二人は先程帰ってきた身だ。今回は他の者に任せて休んでくれ。ただ、何かあれば出てもらう必要があるからそれだけは念頭に置いといてくれ」


「わかりました」


「むぅ~。二人で難しい話ばっかりでつまんない~」



足をバタバタさせて子供らしく抗議の声をあげるミルフィー。ディーンが宥めようと手をかざすがそれよりも早くネルファが動いた。


傲慢の神敵スキルにより飴を作りだし渡したのだ。神敵スキルの無駄使いだが、この程度よくあることだ。誰一人何も言わない。ミルフィーの喜ぶの声が響いた。



「で、ミルフィー。私に何か話しがあったのだろう?」


「うん。えーとね~」



飴をペロペロとなめながら考えこむ仕草を見せるが、飴を舐めることに意識のほとんどが割かれているようだった。


それを見て取ったネルファは微笑ましいものでもみるような視線を向けつつ、ディーンへと視線を向けた。視線を向けられたディーンは「ですよねー」と渇いた声を上げた。





「民を救ってほしい、か… それはエルフ全員の総意なのか?」


「それは分かりません。たまたまステイツと言うエルフの話を聞いただけですので」


「仮に取り返すにしても私たちだけでは人手が足りないな。エルフの民にも働いてもらわなければならなくなるだろう。もちろん危険なことも出てくる… それでもやるのかどうか、まずはそのあたりの事を皆で話し合わなければだろうな。故に今この場で結論を出すことはできない」


「分かりました。そのように伝えます。態々時間を割いていただきありがとうございました」



ディーンは立ち上がると軽く会釈する。それからミルフィーに立つように促し背中を押しながら出ていった。


二人が部屋を出ていくのを見届けるとヤーコプが口を開く。



「あのような約束をしてよろしかったのですか?」


「良いもなにもあれが最良だと思ったが…違ったか?」



間違っただろうか? と上目遣いで問いかけられ、思わず言葉に詰まるヤーコプ。



「…そのようなことは…ただ本当に救う気があるのかと…」



「正直な話、現状では救う気はないな。ただ、この場で切って捨てた場合余計な反感を買ってしまうと思ってな… 神を僭称する害虫どもと戦う上で情報を集めたり色々と人手は必要だ。反感を買って内乱でも起こされたら面倒事が増える。だからこそ他の日に話し合いの場を設け、そこで否定すればここで否定するより幾分かは納得できると思っただけなんだが…ダメか?」


「さすがはネルファ様です」


「ん、そうか?」



それから話し合いの場を一週間後に設けるようにヤーコプに伝えた。





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悪魔公爵デーモンプリンス

レベル:?

体力:20000

魔力:48000

筋力:22000

敏捷:31000

耐性:13000



スキル

筋力狂化  LV1

体力強化  Lv9

敏捷狂化  Lv4

魔力狂化  Lv6

耐性強化  Lv4

火魔法  Lv7

風魔法  Lv5

闇魔法  Lv8

暗黒魔法  Lv8

魔力操作  Lv9

魔の加護  Lv6


魔眼

流天眼ツァイトール


状態変化系スキル

魔装  Lv10 max



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