第63話不動の樹海踏破

ダンジョン探索三日目。


思っていたよりも面倒なダンジョンに手こずりつつも、今日中には踏破出来るであろう試験。道中は巨大なモンスターや擬態したモンスターばかりであり最初は思うように進む事が難しかったが三日目ともなるとある程度は余裕が生まれる。


しかし余裕をこきすぎると足元をすくわれる事になる。


物理的・・・な意味で。



「へへっ、今日中にはヨユーだ…おわっ!」



余裕だと調子こいていたベルが足元を蔓形態のモンスターに襲われる。片足を掴んだ蔓型モンスターはまるで周りに知らせるかのようにベルを高い所につるしあげ鞭のようにしならせた蔓で攻撃している。


それに対し何とか反撃しようとするベルだったが、宙に釣られパニクってしまったのか、手足をバタバタさせるだけだ。それを見かねたキーラが風の魔法で蔓の切り裂いていく。


グぺッと変なうめき声をあげ落下。ベルの開放に一役買ったキーラはまだしも、セリムは受け止める素振りすら見せず自身にぶつからないように避けていた。



「いってぇ~。つーかセリム、受け止めてくれてもよかったじゃんよ」


「誰が好き好んで男なんか受け止めるかよ」



落下の衝撃で打ち付けた尻をさすりつつ「人でなし」とセリムへ文句を言うベル。


その時、突如葉のこすれる音が周囲へと響く。



「イヤな予感がするんだが…」


「そう、同感ね。私もよ」



セリムの発言にキーラも賛同の意を示す。ダンジョンに潜り既に三日目。さすがに三日目ともなるとある程度これから起こるであろう出来事の前触れがどういったものなのかが理解できる。


二人してため息を吐きベルを睨みつける。



「ったく、余計な事しやがってよ」



そうして葉の擦れ音を出していた者が姿を現す。


全長数十m規模の大樹型モンスター、トレント。特段硬いだとか体力が多いだとかそういったものはない。だが数とその巨大さゆえに中々厄介だ。加えて周りは全て植物。火魔法でも使おうものなら全焼して大惨事だ。


そうこうしている内に一匹のトレントの葉擦れ音に引き寄せられたのか、どんどん集まってくる。



「一先ず、迎撃するぞ。それからある程度倒したら、下層に移動するための道の確保だ」



セリムの言葉を合図に各々トレント共を倒していく。全て倒さないのは倒した所できりがないからだ。奴らは目立つために後から後から他のモンスター共も集まってきてしまうのだ。



トレントを呼んだであろう犯人のベルは、得意の土魔法で地面を隆起させたり陥没させてトレントの行く手を妨げる。ただ図体がデカく動きの鈍いトレントたちは、足元の変化に対応する事ができずそれ以上進軍することができない。


それでも何とか敵を仕留めようと人間の胴体程もある幹を使い攻撃を仕掛けてくる。



「いくらオラでもそうなんども喰らうかっ!」



ここ二日で嫌というほどトレントとは遭遇しており、対処法はすでに心得ていた。今度は自身が立っている地面を隆起させる。そうして攻撃を回避、地面から飛び出し腰のアイテムポーチからハンマーを取り出すとトレント目掛けて殴り掛かる。



キーラの方も既に心得たもので攻撃を難なく回避して魔法による一撃で枝を斬り落とし、トレントを文字通り丸裸にしていた。


さすがに炎系は使えないと言う事で風の魔法の主軸に戦闘を組み立てる。


周りが木などに囲まれた場所でも、風の魔法を足元にして発動すれば簡易的に飛翔できる。蔓型のモンスターが複数襲い掛かってきても雷極剣陣ライトニングスティングで纏めて消し飛ばす。



「そう何度も同じ手は通じないわよ」



簡易的にではあるが宙を飛びながら巨大な鎌鼬を作りだし、地上の敵目掛けて放つ。スパンッと音でもしそうなほど勢いよく斬られ半分に分かれるトレント達。



一方セリムは意外や意外。苦戦というレベルではないが二人に比べ明らかにモンスターを倒している速度が遅かった。


トレントの幹で殴りつける攻撃を防ごうと昨日訓練した術を試すが簡単に砕かれてしまう。



(クソッ! やっぱり魔力を離れた位置で操るのは無理かっ!?)



セリムが今やろうとしているのは自身から数十㎝以上もしくは数m離れた位置にて放出した魔力を操る作業だ。ただ魔力を放出するだけではなくイメージした形を作り、魔法を使い、攻撃にも防御にも使えるものを理想としているのだが…


現実はそう簡単にはいかない。


そもそも魔力を体から離れた位置で操るには体内で操るのとはまた違ったものがある。纏衣のように体内で使ったり体外数㎝程度ならば難しくはあれそこまで苦戦するような事はなかっただろう。


セリムの強さを都市アルス防衛戦にて実際に見たクロは、何してるんだにゃ?と疑問顔で見ていた。



幹による薙ぎ払い攻撃を縦横無尽に飛び回り回避するセリム。その間も何回か防御魔法を試してみる。が結果は同じく簡単に破壊されてしまう。


辺りを見渡すとベルとキーラの方は既に次の行動へと移ろうとしていた。時間かと思い仕方なくトレントを倒していく。自身の攻撃手段の中で最有力候補とでも呼べる振動魔法を使用する。大木に手を当て魔力を相手の内部へと送り込む。


ビシビシと言う音が響き、内部の木に割れ目ができ始め、徐々に大きくなる。そうして内部から外へと一気に拡散、トレントを倒す。



(押し返される事はないか…)




トレントや蔓型のモンスターをある程度倒した事で下の階への向かう為の階段へと走る。



「はっ はっ ちょっと待ってくれぇ~」



息を切らし皆に抜かれ後ろから二番目になる。ちなみに一番最後尾にはクロがいる。走ったりと言った高速で動くことになるとベルはドワーフの特徴である短足であるが故に皆から遅れてしまうのだ。


とは言え、ダンジョンに入り数回あった出来事である為、それ程焦ることも無く行動へと移す。



「キーラ、気にせず走ってくれ」



前方を走るキーラへと声を掛け、ベルと並走できる速度までスピードを落とす。


毎度毎度面倒な…と思いながら「行くぞ」とベルへ声を掛ける。



「ちょ、待てって」


「このままだとお前だけ不合格になるがいいのか?」



そう言った直後返事も聞かずにベルの服の襟をつかむ。「うえっ!」とか変な声を上げている様だったがスルーだ。襟首をつかんだセリムは自身の肉体スペックに物言わせて強引に引っ張りながら突っ走るのだった。




「ゲッホ ゲホッ」



首を抑えせき込むベル。


あれから何とか切り抜け次の下層へと進む事が出来た一行。現在は二十六階層目、残り四層だ。



「相変わらず足が遅いのね」


「うるさいやいっ。種族柄しかたないんだよっ」



今回の様な事になった時、下層に着くといつもこんな風に喧嘩?のようなものをする二人。その光景を一人よくやるなと思いながら見つめるセリム。


理由は知らんが早くクリアしたいのだろう。その焦りからくるものかもしれないな…



「言い争ってないでさっさと行くぞ」



二人へと声を掛け、後ろを振り返りクロの様子を窺う。



「これでも私はAランクにゃよ。あの程度なんともないにゃん」


「さいで…」



えっへん!と言わんばかりに胸を張り自慢する。その光景を見ていたキーラが自身の胸を見てもう一度クロの胸をみる…凝視すると言ってもいいかもしれない。


そうしてがっくりと首を落としさっさと行くわよと歩き出すのだった。



二十六階層には蜂型のモンスターや〇ックンフ〇ワーのような花型のモンスターが多数生息していた。花型のモンスターに関しては動きも遅く、障害にはなりえなかったたのだが問題は蜂型のモンスターだった。


名をホーネットと言うものらしく、地球にいる蜂のように黄色の体に黒の縞模様のあるモンスターだ。


この階層にはほかにも数種類の蜂型モンスターがおり、体の色が違ったり大きさが違ったりとその程度の差しかない。しかしどの蜂も強靭な顎、そして尾の部分には毒針を持っており危険極まりない。


そして蜂と言えばあの羽音。背筋が震えるほどの嫌悪感を発する不快な音だ。二十六層を進む最中どこかしらからずっと羽音が聞こえていた。


案の定というべきか蜂に追いかけ回されるという嫌なイベントが発生し、この階層も走って行くことになったのだった。


そんな調子で二十七、二十八、二十九層とどんどん下っていく。


花粉を飛ばし麻痺などの異常を起こすモンスターや、蜘蛛型のモンスターなど中々に面倒なモンスターばかりだったが、なんとか目的の三十階に到着するのだった。



「はぁ はぁ」



大体の階層において追いかけ回され逃げる様に下へ行くという経験を経た三人。蜘蛛などに追いかけられた際はキーラがきゃあ~とらしくない悲鳴を上げたりと普段見れない一面が披露された。


そんなこんなでようやくたどり付いた最下層。



「大丈夫か?」


「大丈夫‥よ」


「オラも問題なく」


「だらしないにゃ、こんなんじゃAランクには上がれないのにゃ」



既に経験があるからか、いたって普通のクロ、さすがはAランク。経験豊富というわけだ。


にしても上から目線の物言いイラっとくるものがあるな。


実際、上の立場なのだが…



息を整えクリアへ向けて歩き出す。


30層目は今迄の所とは違い、下ったらすぐに次の層となっているわけではなかった。下ると地下洞窟のようなまっすぐに続く道があり、そこは一面茨が覆っていた。地味な嫌がらせだ。


10歩程進むと、茨が道を塞ぎ壁を形成している所へと当たる。



「行き止まりっぽいぞ」



ベルが振り返り皆に告げる。すると絡まっていた茨がザザザと音を立てながら引いて行き、道の続きがあらわれた。



「道も出来たみたいだし、止まってないで進んでくれ」



おう!と頷き進んでいくベル。その後をセリム、キーラ、クロの順で進んでいく。数m歩いたところで茨の道は終わりを告げ、今までの階層のような広い空間が現れる。一面花畑というメルヘンな感じのする場所にでた。


周囲を見渡すも特に何もなく、どうゆう事だと思っていると、突如花の上に三m程の紫色の魔方陣が浮き上がり光りはじめる。



「これが最終試練にゃ。頑張って協力して倒すのにゃ」



クロから試験の終了が近いことが告げられる。



(協力ね…要は三人で力を合わせなきゃ合格はあげられないってことかね…)



面倒な事だなと思いながらも、しょうがないかと割り切り気持ちを切り替える。



魔法陣から放たれる光りが徐々に強くなっていき、地面に接している部分から少しずつモンスターの体が見え始める。そして数秒後には魔方陣は消えモンスターの全貌が明らかになった。



「は?」


「え?」


「ん?」



セリム、キーラ、ベルの順に各々疑問符の付いた声を上げると顔を見合わせ、出現した階層主と思われるモンスターについて何だあれ?と質問タイムに入る。


というのも目の間に現れたモンスターと言うのが全身真っ白の繭のようなものに包まれたものだったからだ。



「何をごにょごにょ話してるのにゃ! モンスターはもう現れてるのにゃ」



モンスターの正体について議論する三人に後ろからクロが集中しろと声を掛けてくる。


クロの言葉に対し、あれボスなのか?と確認しようと言葉にしようとした時、繭から糸のようなものが数本射出される。散開し攻撃を躱すが、躱した途端今度は全方位に向かい先程の糸攻撃が放たれた。


回避できるスペースを減らして攻撃を確実に当てるいやらしいものだ。


しかしそれもセリム、キーラにとっては然程脅威とはなりえない。問題はベルだった。



「どわっ! おっ! ふっ!」



奇怪な声を上げ腰を折ったり腹をへこませたり、イナバウアーみたいな体勢を取って何とか回避しているものの、かなり危なっかしい。


その光景を見て繭型のモンスターは、ベルが一番殺りやすいと思ったのか、全方位に出していた糸を引っ込めベルに集中的に射出、同時に縦横無尽に動かし殴打しようとする。


ベルへと集中したためにセリム、キーラの二人が空いてしまい、がら空きとなった繭に向け魔法を発動するキーラ。一条の雷槍がバチバチと音を立てながら繭へと直撃する。



「ヒャァァァァァ――――――」



聞いたことも甲高い声を上げる。例えるならばどこぞの世紀末覇者のヒャッハーか…


というか口なんてないんだが、どこから声を出してるんだか。


ダメージを負ったことにより動きがめちゃくちゃになる。それによりベルは回避がままならず、糸に殴打され壁に激突する。


直後、繭型のモンスターの体にひびが入り始める。それと同時にひびの入った部分から徐々にガスのようなものが出始める。あきらかに有毒そうな黄色のガスだ。


密閉された空間内に少しずつ広がり始める。花などにも当たってはいるが特にに変化は見受けられない。壁に激突した衝撃により逃げ遅れたベルが、ガスに包まれてしまう。



「ベル、平気か?」



今も尚ガスは広がり続け、繭型のモンスターはガスに飲まれて姿が見えなくなっててしまっていた。にベルへと声を変えたセリムだったが、うめき声のような声があがるだけだった。訝しみつつも今はガスへの対処を優先に動く。


ガスの正体を推測しつつ周囲を見渡す。



(安直だが色やベルの反応から考えて、神経毒か麻痺毒とかか。問題はどうやってガスを流すかだが…)



さて、どうするかと悩んだところで一つ考えが浮かぶ。ガスを爆発させて消す方法だ。だが、これには問題があった。



(護り切れるか…)



周囲に散った者たちを見渡し可能かどうか推考する。だが時間はあまり残されていなく、目前までガスは迫ってきていた。しかしベルの身を考えると実行に移すのにどうしてもためらいが生まれてしまう。



(これだからパーティーは面倒なんだよ)



文句を垂れていると遂に、タイムリミットが訪れてしまう。部屋全体が黄色のガスに包まれる。身体に何らかの異常が…と思ったセリムだったが。…



「あ? 何にもねーな…」



片眉を吊り上げどうしてだ?と手を閉じたり開いたりして確認をする。だが特に異常はなかった。



「キーラ、ベル無事か?」



声を掛けるも反応は帰ってこなかった。



舌打ちをし取り合えず発生源をどうにかするしかねーなと思い、スキルを使用しモンスターの位置、パーティーメンバーの位置を探る。


モンスターの位置を探り当てると腕全体に雷を纏わせ、一m位の雷槍を作り出す。


それをモンスター目掛けて投擲、直後バリバリバリと言う木が裂けるような音を響かせ、爆発が起こる。そして頭に無機質な声が響き渡りモンスターを倒したことを告げられた。



こうしてCランクダンジョン、不動の樹海をクリアしたのだった。



しかし、不動の樹海と言う名のダンジョン名なのに、不動の樹海の名前に合うようなモンスターがいない事を疑問に思いクロに聞いてみた所、繭から生まれるモンスターがそういうものらしいと教えてくれた。



「普通のトレントよりも一回り大きいトレントにゃ」



何で繭から木が生まれるんだよっ!とツッコミたいセリムだった。



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