第64話新魔法への手がかり
不動の樹海最下層に到達しボスを撃破、クリアしたセリム達だったがまだ三十層目に居た。
ボスを倒した後、ガスは花に吸収され消えたのだが、耐性値が低かったキ―ラとベルの二人は麻痺により身体を満足に動かす事が出来なかった。
取り合えず一か所に集まり、何があっても対処できるように備えている。
「あのガスは麻痺ガスとかか? いつごろ回復すんだ?」
「回復薬とか持ってないのにゃ?」
「薬? あー、ないな」
試験前に行った道具屋の事を思い出すも、自身は何も買っていない。
(このまま二人が動けるようになるまで待つのか…)
暇だこりゃ。
退屈から周囲をキョロキョロしているとキ―ラのリングが視界に入る。そこでそう言えば二人は買っていたっけ? 疑問符ながらも何かを買っていた記憶があった。
(つっても、人のは勝手に開けられないんだよな)
完全に手詰まりになってしまい気付くと溜息を洩らした。
――――――
獣王国ローア。
街の西、その最西部に位置する場所に王城が存在する。
王城の地下にはもちろん罪人などを拘置する為の施設が存在し、現在一人の女性が拘束されていた。
前方を鉄格子、まわりを石の壁に囲われた光の一切届かない地下牢で、両腕を宙から垂らされた鎖に足を鉄球が付いた鎖に繋がれている。
服は破れてボロボロであり、そこから肉感の薄い肌が露出され、日の差さない地下牢、元々ドレスであった事で防寒が出来ておらず、女性の身体、そして長耳が小刻みに震え
る。
震えが手首に繋がれた鎖に伝播するとカチャカチャと小さな音を鳴る。音に吸い寄せられるように視線を向ける。
鎖を外そうと引っ張るも耳障りな音が響くだけで外れる様子はない。
「やっぱりのぅ…」
端から外れるとは思っていない。ここに囚われてから何度も試し既に外れない事は分かっていた。それでも外したいと思うのは不自由だからという面が強い。
外したくても外れない鎖を睨みつけ、どうにか出来ないかと既に数十回はした思考を繰り返す。そうしていると遠くから誰かが歩く音が鳴り響いた。
地下の密閉された空間足音が余計に響き、徐々に大きくなってきていた。
足音は女性の牢の前に来た時に止まった。
「ご機嫌は如何だカトレア女王」
「こんな状況でご機嫌も何もないじゃろう、アホが」
「ッハ 案外元気そうでなによりだ」
牢屋の前に立つ人物を睨みつけるカトレアと呼ばれた女性。睨んだ先、そこに立っていたのは金色の目をした男――エグルだ。
歳は二十後半、肩のあたりで一つ結びされた青髪を垂らしている。服は青黒系。地下と言う空間の中では闇に溶け込んでいる。
「そんな怖い顔しても震えてたんじゃ威圧できないぞ… 特に敗者が何を言った所で負け惜しみしにか聞こえん。威圧したければ勝つしかないんだよ。幸いに世界は争いに塗れてる。機会があれば次こそ勝者になれるといいな、女王様?」
「あんな奴に勝てじゃと!? ふざけるのも大概にせい!」
「そんなんだからむざむざこんな所にいる羽目になってんだ。足掻け、もがけ、みっともなくとも生に縋りついて見せろ。それが出来ないならお前はそこら辺にいる虫にすら劣るゴミだ。 …戦って勝てないから諦めた。俺にはそう見えるな。どんなんだ、お前が命令したことで多くの命が散った気分は?」
「貴様…」
どんな攻撃も、どんだけの人数で囲んでも一切攻撃の通じない相手。実際にその目で見たからこそその異常なまでの強さが分かる。思いだすだけでも屈辱気な光景。
その全てをエグルにぶつけるように端正な顔立ちを悔しさと怒りに歪めて睨む。
「まぁ、色々言ったが所詮神を持たぬ国じゃ勝ち目なんざ最初からないがな」
「どういう意味じゃ…」
「ヒントをくれてやったのにわからねぇのか。お前はお飾りの女王か? まぁいい、お前の国を襲ったのは神敵者だ」
神敵者と聞かされた瞬間、カトレアは目を見開き驚きを露わにした。同時にあそこまでの強さにこれで納得がいった。
「ふざけおって… あれは貴様の差し金かっ!?」
「勘違いすんなよ、あいつとは取引をしただけだ。全てあいつが計画から実行までを担当した。まぁ、攫ったエルフ共をこっちに回すよう取引した訳だから何もしてない… 清廉潔白の身って訳でもないがな」
「下種が」
「褒め言葉だ」
蔑むも何の効果もなく、カトレアは眉間に深い皺を刻む。
「神を座す国はここまで落ちたか。見下げ果てたモノじゃな… 」
「見下げ果てたなんて言葉はな、あの瞬間神をこの地に引きずり降ろし、殺し、力を奪った時からこの世界に存在する生物全てがその対象なんだよ。今更神が座するからどうこうなんて低次元な話をしてんじゃねぇよ。そもそもお前自身も
「…そうじゃな。あの戦いが原因でこの世界は全てが変わってしもうた。今なら言える。あの戦いは無意味… 不幸をこの地上に振り撒くだけのものじゃった」
「ッハ その生まれた不幸――神敵者に国を滅ぼされたからって今更後悔ってか?」
「違う! 妾は…」
「今更お前が何かを悔いても意味なんかねぇ。既に賽は投げられた。あとはこの世界全てを巻き込み獣王国ローア、ひいては獣神が世界を、劣等種共を選別、支配する」
「随分と自信があるらしいのぅ、当代の"神格者"は」
煽るようにエグルに向かって言葉を投げかける。
自身が置かれている状況を理解出来ているのならば普通はそんな事はしないだろう。さすがは一国を治めていた者と言うべきか、中々肝が据わっている。
エグルは煽られているという自覚はあったが然程気にも留めず話しを続ける。
「神敵者など一対一では
「おかしなモノ言いじゃな。貴様が神敵者よりも強い、そう妾には聞こえたぞ」
地下と言う空間にて二人しかおらず、声を遮るものはなかい。だが、カトレアは聞き返さずにはいられなかった。
カトレアの問いに対し「そうか、知らないのか…」と言いながら何がおかしいのか口元を抑えてクツクツと笑い圧し殺す。
その光景を訝しむカトレア。何がおかしいのじゃ? と視線で訴える。
「自己紹介からしてやる。俺が当代の神格者、獣神エグル・フェーダーだ」
ズボンのポケットに手を入れながらだったが、そんな不作法な事など気にならない衝撃をカトレアは受けた。
妖しく光る瞳、そこに浮かぶ幾何学模様。まるで堕天使のような漆黒の翼を広げ座す様は、なるほど。神と言われるような存在感がある。
今まで感じられなかった圧力に襲い掛かられ、息がつまったかのように呼吸が苦しくなる。
「お前の歳は知らないが、あの戦いに参加していたとなれば下手すれば4桁の歳の筈だ。となれば、神格者も神敵者の事も当然知ってる訳だ。が、神格者のいない国が神格者しか知りえない情報はさすがに知らねぇ筈だ」
「…」
「神格を授かった者がどういう変化に見舞われるのか、俺を見てもさっきまで何の反応もなかったことから丸分かりだな。まぁ、神格者でもないかぎり見た目だけで判断なんぞつかねぇか…」
エグルは言葉同様、見下すような視線を向ける。どんな存在だろう、どんなに高齢で博識だろうと神の前では全ては下等種、そう言われているようだ。
「この城から出られる機会はないお前に、暇潰しとして話をしてやる。せいぜいその足りない頭で神… 神格者の存在について考えでも巡らせてろ」
そう言うとエグルはカトレアが知らないであろう情報について話し始めた。
「記憶の伝承と肉体の活性化…」
カトレアはそんなことがあり得るのかと何度も同じ言葉繰り返す。
この世界に肉体を強化する術は存在する。エルフのように見た目が変わらない種族もいる。だが、肉体が若返るなどは聞いたことが無い。
(じゃが、そう言えば…)
目の前にいる獣神エグルや最初の神格者達、知り得た神格者は、年齢の割にあり得ないほど若かった。
今にして思えば何故? そう思うが、当時はそこまで気にする余裕はなかった。神との戦いの直後と言う事もあり、復興が忙しく、忙殺された結果だ。
記憶の伝承に関しては何か証拠になるようなモノがない為、何とも言えないが、肉体の活性化の話の信憑性から信じることにした。
「まんま驚いたって顔だな。かくいう俺も最初は何を言われてんのかさっぱりだった。だが、こうして神格を継承してみて初めて自覚した。神の力ってのは不可能を可能にする程の力の塊だと。年老いた者ならば若返り、直せない様な傷をも癒す。俺がお前のことを知っていたのは初代の神格者の時代まで記憶を遡ったからだ」
「…理不尽な力じゃのぅ」
「それが神だ。神敵者なんつー神の残りカスみてぇな存在とは格がちげぇんだよ」
神の力。そんな言葉で表せるようなものじゃない。言葉にすれば簡単だが、想像もつかないほどに巨大だ。
長い間生きてきたカトレアだが、あまりにも理解の範疇を逸脱した話に消化不良気味だ。
取り敢えず深呼吸し気を落ち着かせていると「そういや」と何か思い出したように呟くエグル。
先程の話でも消化不良気味だと言うのにこれ以上何を話そうと言うのか。
「お前の国、廃国になったらしいな」
何でもないことのように告げるエグル。サラッと言われた言葉の通り、何とも思っていない様に顔は無表情。
カトレアは当初、何を言っているのか理解が追い付かず、ゆっくり吟味していた。
数秒吟味してようやく意味が浸透したように表情を険しくして鎖を引き千切らん勢いでエグルに詰め寄る。
だが、無情にも鎖は頑丈であり、引き千切るには至らない。かりに引き千切っても目の前には鉄格子だ。
「どういうことじゃっ!?」
「おいおい、そんな暴れたらせっかく大事な身体に傷が付くぞ」
「余計なお世話じゃ。さっさと説明せんか小僧!」
先程国の話が出た時よりも勢いのある言葉に、囚われの身ながらも国を心配する様はさすが女王か。
どこか感心を抱く。そして今現在、世界に拡散しつつある情報を開示した。
「生憎と俺はやってねぇぞ。いくら神格者について知らなくても俺ら神格者は国と言う枠に囚われて国外に出られねぇのは知ってるよな。だから俺はやってねぇ。そもそも二度も襲撃を掛ける程暇じゃねぇ。欲しいものは既に手に入ったからローアとしては手を出してねぇ」
「じゃあ一体誰がやったと言うんじゃ!」
「それを今から説明してやっから大人しく聞いとけ。数日前だ。何者かが襲撃、生き残った者がいたのかは知らねぇが、受けた報告によりゃあ街の残骸丸々一つ残して人だけがいなくなったんだと
「民はどこに行ったんじゃ!?」
「んな事俺が知るかよ。そもそも興味もねぇんだからよ」
与えられた情報はあまりにも大雑把過ぎて肝心な部分が聞けない。もどかしい気分だ。
「そんなに国が重要か? さすがは女王とでも言っといてやる。だがな、他のエルフがどこに行こうが、現在の所在が分かろうがお前はこっから出る事は出来ねぇぞ」
「どうゆう意味じゃ?」
「お前ら魔法が得意だったり、魔力の多い種族なんかは俺たちの事を見下す事は知ってるよな。つーか殆どの種族が見下しやがる訳だが、それが気にくわねぇ。獣風情が… そんな言葉と共にいつもいつも虐げられてきた。忘れたとは言わせねぇぞ。神を殺した時もそうだ! お前たちは俺ら獣人を捨て駒のような敵の本隊がいる所に投入しやがった。それも獣人だけな! お陰でこっちは大半が死んだ。その後『頑張ったな』『良くやった』なんて言葉を浴びせられ、情けを掛けられるように分けられた神格… これ程惨めなことはねぇ! 俺たちの犠牲を使い、テメェらは遠方からチマチマ魔法を撃つだけで被害を最小に留めた。ふざけるな!」
記憶を継承したからこそ分かる痛みや苦しみ、憎しみ。胸を焦がさんばかりの怒りを溢れさせ、カトレアを睨みつける。
「どいつもこいつも獣風情が、そう罵っておいていざ戦いになれば一番の危険地帯に投入だ。遠距離から魔法を放つ事で勝利しかできない低能共が、調子に乗るなよ!」
クソがっ! と吐き捨てると荒い呼吸を正すように一旦深呼吸し、落ち着きを取り戻す。
「そこでだ、魔法が使えない事が劣っている原因なら魔法を使えるようにすればいいだけの話しだ。数代前の獣神がそれを研究した。結果、他種族を取り込む事が良いと結論がでた訳だ。つーわけで、お前らには俺たちが強くなるための実験に付き合ってもらう。そうだな、まずはエルフと獣人の子供あたりでも作って実験するのがいいか? その後は薬浸けの肉体改造の日々だろうな」
獣人を蔑んだ報いを受ける世界を想像し一人ハハハと笑い声をあげる。
「エルフの次は人間どもだな。特に何に優れているわけでもないのに偉そうに。あの低能なザル共が」
「主は戦争でも起こす気なのか?」
「戦争? そうだなこれは復讐と言う名の先祖の仇討ちだ。教えてやるよ、もっとも優れている種族はどこかをな!」
何て言えばいいのかわからず言葉を詰まらせるカトレア。
エグルがこうして戦争に乗り出すのは神を殺した時の出来事が切っ掛けだと判明した。
その時カトレア自身も自分の種族が負う被害が少ないのなら… そんな思いで獣人の扱いを容認したツケが回ってきたのかもしれない。
(因果応報というやつかのぅ)
一人過去の行動を悔やみながらも何も出来ないことでまた悔やむ。そうしながら遠ざかっていく足音がいつまでも耳に残った。
――――――
四日後ー。
行きは馬車でダンジョンへと向かったが、帰りは馬車が捕まらず歩きで都市アルスへと帰還の途を辿ることとなったセリム一行。
森を抜け、見晴らしの良い平原を進む。周囲はくるぶしくらいまでの草が生えており、その中を街道が通っている。
風が吹くと障害物が無いお陰で心地よく日向ぼっこなどが出来そうなくらいに長閑だ。
「もう直ぐ街だにゃ、頑張るにゃん」
クロの声に適当に相槌を打ち黙々と歩いていく。その道中、セリムは何度目か分からないステータスの確認を行っていた。
―――――――――――――――――
名前:セリム・ヴェルグ
年齢:7歳≪見た目精神年齢ともに15歳≫
種族:人族
ランク:D
1次職:異端者
2次職:異端児
レベル:50→52
体力:10000→15000
魔力:8800→9900
筋力:11400→16500
敏捷:9200→14000
耐性:8700→9600
スキル
【
剣技 LV8
【拳技 LV9→10】 max
【斧技 Lv4】
【短剣術 Lv4】
【筋力強化 LV10 】 max →【筋力狂化 Lv1】へと変化
【体力強化 Lv10】 max →【体力狂化 Lv1】へと変化
【敏捷強化 Lv10】 max →【敏捷狂化 Lv1】へと変化
【耐性強化 Lv6→8】 up
【魔力強化 Lv6→8】 up
【反射速度強化 Lv6→7】 up
【気配遮断 Lv4】
【気配感知 Lv7→8】 up
【気配欺罔 Lv5】 new
【大咆哮 Lv5】
【嗅覚上昇 Lv6→8】 up
【命中率上昇 Lv7】
【跳躍力上昇 Lv4】
【重量装備時重量軽減 Lv4】
【火魔法 Lv6→7】 up
【水魔法 Lv5→6】 up
【風魔法 Lv4→6】 up
【雷魔法 Lv6→8】 up
【土魔法 Lv3】 new
【光魔法 Lv3】
【白魔法 Lv5→7】 up
【暗黒魔法 Lv1】
【振動魔法 Lv7→8】 up
【
【魔力操作 Lv9→10】 max
【受け流し Lv7→8】 up
【範囲拡張 Lv2】 new
【衝撃緩和 Lv4】 new
【見切り Lv6→8】 up
【収束 Lv2】 new
【硬化 Lv8→10】 max
【鑑定 Lv8→9】 up
【夜目 Lv3→5】 up
【闘魂 Lv4】
【毒液 Lv4→6】 up
【統率 Lv5→7】 up
【罠師 Lv3】
状態変化系スキル
【雷獣変化 Lv5】
職業専用スキル
【
【
【強奪 Lv4】
【瞬滅 Lv4→5】 up
【鉄壁硬化 Lv3→4】 up
【重撃破 Lv5】
【乱魔の一撃 Lv2】
【空拳 Lv4→5】 up
魔道具効果
隠蔽 Lv10 max
【】の中身は隠蔽スキルにより視えません。
―――――――――――――――――
最初ステータスを見た時、思わず変な声をあげてしまうほど衝撃を受けた。ただ、何度も見ている内に間違いじゃない事を確認すると驚きは静まった。
(強化から狂化… 狂うって狂戦士になるのか? 常時発動してるスキルだし身体に変化が無い異常は理性が吹っ飛ぶとかはないんだろうが… もうちっと名前何とかなんなかったのかよ)
変化したスキルを眺めつつ思わず愚痴を零す。
強くなるのはいいのだが、明らかにちょっと危険な感じをするのだ。
(まぁ、そんなことより…)
数あるスキルの中である二つのスキルに意識を向ける。
"範囲拡張"と"収束"。
範囲拡張で魔力を操れる範囲を広げ、収束で魔力操作だけでは難しかった魔力を束ね強度、生成速度をあげる。
そこに魔法を合わせて攻防一帯の新技を造る。これがセリムの考えている防御魔法の構図だ。
思ったよりも早く悩みが解決しそうな展開にご都合主義感がある… そう思ってしまうのも仕方がなかった。取り敢えずは偶然だろう、と思う事で納得した。
「アルスが見えてきたにゃ」
そこへ街が見えてきたぞと言う声がかかり、自ずと視線が前を向く。どこか懐かしさを覚え、自然と目が細められる。
(行きの道中であの二人組にいきなり絡まれたからな)
街を経ってから十日も経っていないが、試験へと向かう道中に起こった事――ネルファとの戦闘を思えば、実力差からあの場で死んでもおかしくはなかった。ヤーコプと戦った三人にしてもそうだ。
無事に帰って来られた事に安堵していると、隣からキ―ラの「やっと帰ってこれたわね」と疲れを滲ませた言葉が聞こえてくる。続いて「疲れたぞ」とまんまな言葉を話すベルの声も聞こえてきた。
それに同意するようにセリムもそうだなと口にし、一行は城郭都市アルスへと向かって行く。
そうして門が見える所までやってきたが、門の前には人だかりが出来ており、直ぐに入れなさそうな状況が広がっていた。
「にゃ?」
「結構並んでいるわね」
「何かの祭りとか?」
門の前にはニ、三十人だろうか長蛇の列ができている。
四人とも何が起こっているのか分かっておらず、一様に疑問符を頭の上に浮かべながらも進み、門へとたどり着くと最後尾に位置どった。
「あ、お帰り!」
並ぶ事数分。列の整理でもしていたのか、近くに来ていた兵士に声を掛けられた。
誰かしらん? と声を掛けてきた人物へと視線を向ける一行。
そこに居たのはメルク・ニルヴァーナ、警備兵のおっさんだ。セリムがアルスへと入都する際にお世話になった
人物だ。
それぞれただいまと声を上げ、この列は何だと質問する。
「あぁ、この列は行商人や野次馬さ」
「野次馬にゃ?」
「ん? 君たち知らないのかい?」
意外そうな表情をするメルク。
(今帰ってきたばかりの人間に何を期待してんだよ。俺たちは超能力者か何かだろうか… 悟りますとか言えばいいのか)
「エルフの国は知ってるよね? どうやらそこが二度目の襲撃を…」
そこまで言ったところでキーラの存在に気付きしまった! と手で口を押えた。今さらやめても時既に遅しだ。
「どうゆう事よっ! 襲撃って」
掴みかからんばかりの勢いでメルクへと詰め寄るキーラ。
上げた声が結構大きかったこともあり、並んでいた者達がこちらを窺い始める。加えてエルフの国の事情を知らない三人もメルクへと視線を向けた。
「落ち着いて! 落ち着いて!」
「良いから早く教えなさいよ!」
「分かったから今から話すからちょっと待って」
ガクガク揺すられたメルクは渋々といった感じで話始めた。
ただ、先程余計な事を言ってしまった経緯から、言葉に詰まったり、誤魔化すよう愛想笑いを浮かべながらだった為にかなりゆっくりとだった。
メルクから齎された情報を黙って聞いていた面々。しかし廃国となったと言う情報が出たあたりでキーラは聞きたくないとでも言わんばかりに顔を背けてしまった。
「これがここ数日で世界中に伝えられたアルフレイムの事だよ。自分もアーサーに教えてもらったから詳しい話を聞きたいならそっちで聞くと良いよ」
それだけ言うと仕事に戻るねと言い残してメルクは立ち去った。
そこに残されたのは何とも後味の悪い雰囲気と俯き表情の窺えないキーラ、それからどう声を掛けていいのか困り果てた三人。
(まぁそりゃそうなるよな。自分の大切なものが奪われれば…)
キーラの方を向きながら同情の眼差しを向けるセリム。しかしその目には同情よりも恐怖が宿っていた。
――もし、俺も同じ目に遭ったならば、絶対に復讐の道に走るだろう。確実に殺っった奴は殺す。何が何でも…
自身の事と重ね失いたくないと思うセリムだった。
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