第60悪夢再びⅣ ~再会した元仲間~
聖剣のような光を纏った剣と切り結ぶアイリ。さすがはSランクを単独で撃破したというだけの実力はあり神敵者相手に対等に戦っているように見える。
お互いに広間を駆け回りながら剣をぶつけ合う。足元に風の魔法を起こし上空へと飛び、下にいるラグリア目掛けて魔法を放つ。内から外へと剣を振り巨大な風の刃が形成される。ラグリアも剣を振り黄金の斬撃を飛ばす。
風の刃と黄金の斬撃が二人の中央でぶつかり衝撃と爆風を生みだす。その中を何の躊躇も無しにまるで砲弾のような速度で突き進む。だが敵は二人。横合いからヴァインが現れ蹴りを加えてくる。
「くっ」
何とか腕でガードするものの盛大に吹き飛ばされ壁に激突してしまう。それにより壁には大きなひびが入り、一部は崩れて崩落する。その光景をまるで何事もなかったような冷静な顔で見ながら、ラグリアの下に着地した。
「手加減したらどうです? 死んでしまっては人質にもできませんよ」
「そうゆうお前は身体強化以外スキルを使っていないだろうが。それより、私は宝物庫の方へ行ってくる」
城の壁にぶつかり、ちょうど嵌ってしまう。どうにか身体を壁から抜きだすと吐血した後を手で拭きながら、壁に手を付き風の魔法を発動する。ゴウゴウという音と共に風が吹き荒れると、壁から飛び出し地面へと降りながら
「無駄な努力はやめたらどうです? 私には当たらないんですから」
当たらないであろう事はアイリ自身も分かってはいた。それでもこの先が目的地であると知っているのにやすやすと行かせるような真似は出来なかったのだ。
脚に力を籠めラグリアに向けて走りだす。かと思いきや、一気に後退する。ラグリアたちの足元を中心に大広間を覆うほどの魔方陣が形成される。全てを光で染め上げるかのような眩い輝きをしながら徐々に高まっていく魔力。そうして臨界点まで達した瞬間、爆ぜた。
「すまない、巻き込んでしまって」
操られていたエルフがいたのだが、その人物を構って戦っていられるほどの余裕は、今のアイリにはなかった。敵は神敵者に加えもう一人いるのだ。神敵者は格が違う。実際に戦った経験が無いためどれくらいの実力差があるのかはわからないが、いくら単独でSランクを倒せても勝つのはほぼ不可能に近いことくらいはわかっている。だからこその時間稼ぎだ。
(ったく、ハルトの奴は何をしてるんだ。早く来てくれ…)
いつもは動くのが面倒だ!と言ってアイリの近くにいることが多いハルトには、迷惑だなどと感じてしまったりするが、頼りにはなる存在なのだ。
本来神敵者の相手は神敵者でないと
広間全体に煙が立ち込め視界が閉ざされる中、せき込む声だけが響く。
(やはり生きてるか…)
「いきなりの極大魔法ですか。にしてもかなり早い構築でしたけど、、部屋に何か仕込んでいたのですかね」
どうでもいいこと口にしてくるラグリア。その声からはまったくダメージを負っていないピンピンした状態であることが分かる。あれだけの高威力の魔法を受けて尚、まったくダメージを与えられない強さ格が違うな、と知ってはいたが、改めてみせられた力に頬を汗が流れていくのだった。
煙を槍で別の方向に流すように斬り払い、姿を現したのは、黒いオーラを纏う槍を持つ仮面の男だった。服はボロボロになり仮面にもいくつかひびが入っているのが窺えたが、ダメージの方は軽いものだった。多少の火傷に数か所の裂傷と言った具合か。
「暗黒槍技まで会得してたとはな」
心底呆れたという感じで言い放つ。仮面の男はそれに「聖騎士なんだから当たり前だろ」と言い返す。
「その技は
「何なんだ」と誰何しようとすると槍から放たれるオーラの圧力が増す。かと思ったら、いきなり背中に現れ、よゐ○の濱口使うゴム付きの銛のような、瞬発的な力で槍を突きだされる。確実に殺す気で放たれた槍は、どうやれば片手でそんな速度と威力を出せるのかと疑問に思わせるほどの圧倒的な力で繰り出され、アーサーに迫った。
アーサーは、一瞬にして移動した男の突きを戦士の本能とでも呼べるべきもので屈んで回避するのだったが、そこへ追撃の蹴りが加えられ吹っ飛ばされてしまう。
「あんまりがっかりさせないでくれよ、
蹴り飛ばすと投擲ポーズへと持ち方を変える。槍からはさらに黒いオーラが吹き出し、これからとてつもない何かが起ころうとしているのを感じさせる。まるで巨大化でもしているんじゃないかと思うほど仮面の男の筋肉、特に上半身が膨れ上がり、力がみなぎり始める。そして槍使いが辿り着く最終にして最強の技の一つの名を口にする。
「
「それはっ!」
その言葉を最後にアーサーは槍の一撃に呑み込まれてしまう。凄まじいなどと言う言葉では足りないほどの威力を発揮した一撃。槍が放たれた射線上の地面は大きく抉れ、木も瓦礫も何もかも全てが目に見える範囲ではなくなっていた。
一直線に吹き飛んでいく槍と確実に回避も防御も出来ないであろう一撃に晒されたアーサーを仮面越しから見つめる。
「英雄とは言っても所詮は過去のものか…」
どこかがっかりしたように言う男は、その場を去るのだった。
極大魔法を使用し何とかダメージを与えようと思ったアイリだったが、何らかしらの防御をされてしまったのか、まったくと言っていいほどダメージを与えられなかった。
無傷なラグリアの姿を見た時、同胞を殺さないで済んだ嬉しさと、傷すら負わせられなかったという悔しさ、時間稼ぎが出来ない事への焦燥感が綯い交ぜになり、胸を締め上げる。それでも今やるべきことを成す為に剣を握り直すと、裂帛の気合とともに再び走り出す。
何としてでも食い止めなければ。これ以上同胞を故郷を好き勝手にさせないために!
魔法を織り交ぜながら剣を打ち合うも、その全てがまるで最初から狙いがズレていたかのように当たらない。掠りすらもしないのだ。
(こんなバケモノ相手に私では時間稼ぎすらできないのか…)
アイリは決して弱い訳ではない。だが神敵者とは例え、Sランクのモンスターを倒せる者が相手だろうと、子供を相手にするように片手間で片付けられる程度の存在なのだ。要は格が違いすぎて勝負にすらならない程の化物と言うことだ。
「どうしました? 私たちを止めるのでしょう?」
今は既に剣を打ち合うという事すらできなくなっていた。全てが空ぶってしまう。虚しく空を切る剣はまるで、貴女の剣など触れるまでもないです、と言われているようで実力の差を感じながら、苛立ちをも感じさせる。
剣が空を切り、体勢が崩れた所に的確な蹴りを叩きこまれる。普通なら体勢が崩れていても躱せる程度の蹴りだったのだが、目で見えているものと実際に起こる出来事のズレが、本物の攻撃を正しく認識出来ずモロに腹部へと入ってしまう。
「カッハ…」
いくら身体強化をしていてもそれは相手も同じことなので防御も出来ずモロに攻撃が入ればかなりのダメージとなってしまう。
吐血し、ラグリアから目が離れた刹那、さらに追撃を叩きこまれてしまう。
「ケホッ ケホッ」
ラグリアと対峙していたアイリは口元から血を流し、鎧にはひびが入り、全身には火傷を負っていた。頭はまるで靄がかかったかのような状態になり、自分で身体を操ることさえ難しい状態になっていた。
「これだけやれば、いくら貴女と言えど簡単に操れますね」
「まぁ、操ろうと思えば最初から操れたんですけどね」と先程までの戦いを非情にも無意味なものだったと告げる。何度も剣で斬ろうとしたり魔法を当てようとするのだが、その全てが外れてしまう。否、外されてしまうのだ。
(こ、れが…色欲の神敵スキル…)
実際に己が戦ってみて、初めて知りえるこの世界の頂点に君臨しうる力。息も絶え絶えになり、剣を地面に突き刺し身体を支えなければ立つことさえままならない状態になりながらも決して倒れない。
三人の戦闘の影響で大広間は半壊を通り越し全開に近い状態となっている。天井は崩れ上の階が見えてしまっている。側面の壁に関しては殆どなくなっており外が丸見えだ。そしてその部屋に既にヴァインはおらず、宝物庫へと操ったエルフを連れて向かってしまっていた。
「まだ死なないでくださいよ。貴女にはこれから使い道があるんですからね」
まるで死を告げる死神のようにゆっくりとアイリの元まで歩を進める。目の前まで来ると囁くように告げた。
「貴女を人質にしたらヴェルンハルトさんは
「そ、んなっことは…させ、ない」
ラグリアの言葉を聞くや否やアイリはフラフラな体ながらも剣を引き抜き斬りかかる。しかし簡単に剣で受け止められてしまう。もうこうなってはただ睨む事しかできなくなっていた。だが、その瞳には決して思い通りになるものかと言う強い意思が宿り、いざと言うときの覚悟が感じられる。
「そんな怖い顔で睨まないでくださいよ」と言うと左手に剣をもう一本出現させ、地面に突き立てる。地面から金色の鎖が出てきてアイリを縛り上げた。
「人質に‥なるくらいなら‥こ、こで死ぬのを…選ぶ」
「素晴らしい心がけですけど、だがそれは出来ませんね。ヴェルンハルトさんと戦う事になれば、いくら私でも無傷とはいかないものでしてね。最悪死ぬかもしれないので」
(ハルト…)
心の中でハルトに早く来てくれと願いながらも同時に来てほしくないとも願ってしまうアイリ。来てしまえば神敵者同士の殺しあい。それこそ常人では想像もつかないレベルのものが起こるだろう。
本気で戦わずとも、その気になれば城を半壊させるなど当たり前の力を持つハルトだが、この場ではかなり力を制限される。今現在城には避難してきたものが大勢いるのだ。巻き込まないように注意する必要がある。
その時、何かが飛んでくる音が聞こえはじめる。ついで強大な青い物体がラグリア目掛けて飛来する。それを見たラグリアは剣で切り捨てようとするのだが、飛んでくるものが何か分かると剣を引っ込め後退を選ぶのだった。
「遅い、ぞ…」
「悪いな。俺こうゆう事するキャラじゃないもんでね」
そう言うと簡単に鎖を斬り破壊する。破壊された側面の壁から青い物体を投げ込み登場したのは…
「お久しぶりですね。ヴェルンハルトさん」
「そうだな。
神敵スキル保持者が一人ヴェルンハルト・マスラム。この世界最強の一角の一人である。
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