第59話悪夢再びⅢ
仮面の男の突きを剣を当てる事で軌道をずらし回避する。剣に触れている槍を腕力で外へと押しのけ、袈裟切りへともっていく。だが、仮面の男は突き出していた右半身を奥に引っ込ませ左手一本で槍を持つと回避、それから槍を横なぎに振るいアーサーの顔を狙う。身をかがめ避けながらアーサーも突きを繰り出すが、仮面の男には後ろに飛ぶことで回避されてしまう。
「さすがは聖王って言ったところか」
「お前こそ、中々槍捌き上手いじゃねーか」
お互いに息もつかせぬ攻めぎ合い。一手繰り出せばその返しを直ぐに出され攻撃へと転じられる。敵ながらあっぱれと言ったものであった。とは言え、お互いに息は乱しておらずまだまだ余力を残しているようにうかがえる。
「あんまりチンタラしてていいのか? 俺はいつまでやっても構わないけどな」
分かり切っていることを言われ舌打ちをするアーサー。あまり戦いが長引けば救助の方に行けなくなりそれだけ被害が出てしまう。それを思うと時間は掛けていられなかった。だが、数撃打ち合いをし、そう簡単に通れる敵ではないことを実感していた。もう一度舌打ちをする。
「言われなくても分かってんだよっ!」
言い終えると同時に、剣を抜く体勢から居合切りの体勢へと移行、剣が黄金のオーラを帯び、斬撃が飛び出し仮面の男へと向かう。斬撃を放ち終えると自身も走りだす。追撃をしかけるのだ。
(この斬撃を囮にでも考えたのでろうが…)
自身に迫る斬撃を躱そうとせず、正面から対峙する仮面の男。槍に魔力が流され槍を黄金のオーラが覆う。それを走りこんでくるアーサーと斬撃がちょうど重なる位置で突き放った。
「!? ちっ」
突きから放たれた鋭い一撃は斬撃を貫きアーサーの元まで届く。ジャンプして上空へと逃げ、再び剣に魔力を流すと金色のオーラに覆われる。落下しながら男に叩きつける。
「お前、今の技はっ」
男は槍を上空に翳し両手で槍を持ち上げるようし、防御の姿勢で受け止める。激しい鍔ぜり合いにより火花が散り、ガキガキと音がなるがそんなことを気にする暇はなかった。
「まぁ、さすがに気付くよな」
「
信じられないといった表情で問いかけるアーサー。本来聖騎士とは国に仕え守護する存在のはずなのだ。それが悪事にそれも戦争でもないのに国への侵攻をしているという事実に驚きよりも、怒りが勝った。元聖騎士ではあるが、国に仕えた身として目の前の存在は不快そのものだ。
「クロントも一枚岩じゃないってことさ」
右手を引き並行に保っていた槍を傾け、剣の一撃を流す。それにより前のめりになったアーサーは右側に身体が流されてしまう。そこへ仮面の男の左脚から強烈な蹴りが繰り出される。右腕でガードしながら、マジックネックレスから粒子状になって左手にもう一本剣を出現させる。金色を基調とし所々に青色が入った剣、劣化聖剣だ。それを逆手に持ち、地面に倒れながら突き刺す。途端、地面にヒビが入り、剣を突き刺していない部分にもヒビ割れが起きる。そこから金色の鎖がまるで自由意思でも持っているかのように勢いよく飛び出してくる。
「
亀裂から飛び出してくきた鎖により動きを制限された仮面の男は追撃に失敗する。その隙に立ち上がり体勢を整える。
「お前にはいくつか聞きたいことがある」
「だから殺しはしない」そう言うと逆手に持っていた劣化聖剣を持ち直し、黄金のオーラを纏わせる。それを男の腕へと振り落とす。男はそんな状況の中でも焦りやまして命乞いすると言った行動はなかった。
「暗黒槍技」
そう言い放った瞬間、仮面の男が持つ槍を黒いオーラが覆い、聖天縛鎖にひびが入った。その光景を見たアーサーは一瞬にして後退し、直接斬るのではなくスキルを使い仕留める方向へと方針を変える。
「ったく、薄々予想はしてたが、よっ」
両手の剣を回転させどちらも逆手に持ち直し、それを地面に突き立てる。
「聖なる一撃をもって浄化せし…
突き立てた剣から仮面の男の元まで光が奔り、男の背中に十字架が現れる。十字がちょうど重なる部分には円が作られており、不規則に細かい波が打っている。仮面の男の足元を起点に半径2m位の魔方陣が浮き上がる。直後地面にひびが入り始め盛大な爆発を巻き起こすのだった。
四方からの攻撃に身をさらされたハルト。
「あぁ~マジで勘弁してくれ。頭に響くからさぁ」
頭を押さえ先程の攻撃がなんともなかったかのように言い放つ。事実攻撃に関しては上下左右前後に水の壁を即座に形成して防いでいた為、怪我などはまったくない。ただ、水の壁を攻撃されるたびに鳴る音に嫌気がさしていた。
「あのヤロォ、どっかで見て指示出してやがんのか?」
どこにいんだよと思っていると今度はモンスターが直接襲い掛かってくる。
「いい加減うぜぇんだよっ」
水の盾を解きながら左手にクナイのような透けている剣を数本造りだす。魔力で作った剣だ。それを襲い掛かってきたモンスター目掛けて投げつける。
「ったく、面倒だ。本当に」
短剣が突き刺さったモンスターの所まで歩を進め腹いせに「邪魔だよっ」と蹴りを入れるのだが、蹴り場所が悪かったのか、小指を痛め「おぉうぅ~」と情けない声をあげてしまう。そんな何とも締まらないこことをやっていると城の方から爆発音が響いた。
「城が本命だったか?」
失敗したかしれないと思いつつ、城の方へと向け走りだす。瓦礫や倒れた木が転がる中を平地を行くような速度で走り抜ける。道中モンスターを見かけては剣を創造し投擲していく。
(アイリがいるから大丈夫だとは思うけど…急がねぇとなぁ)
間に合わなかった時に怒られそうだなぁ~と、どうしようもない事を考えながら、城へと向かうハルトだった。
一方、爆発が起こった城では、二人の人物が他国の城の廊下を我が物顔で歩いていた。前後に長く横幅も大きい廊下は人が二人で歩くにはかなり広いものだ。
「さて、宝物庫はどこですかね? 人も見当たりませんしね」
「前回同様避難させているんだろう。この国には空間魔法の使い手がいたはずだからな」
周囲を見渡し話しながらラグリアとヴァインは進んでいく。そこに魔法兵団の男女の兵員が駆け付ける。
「貴様ら止まれ」
「これ以上進めると思うなよ」
背後から掛けられた声に立ち止まり振り返るラグリア。
「いやーちょうど良い所に来てくれましたね。助かりましたよ」
両手を広げて笑顔で応対する。まるで、会いたかった人物に会えたかのようなリアクションだ。後ろから見ているヴァインはラグリアに任せ、特に何をするでもなく傍観を決め込む。
「何を分けの分からない事を」
兵団の二人が手を前に掲げ魔法を発動させた。風の刃が二人目掛けて放たれる。目前まで迫ってもラグリアは避けようとしない。だが…
「!」
自身が得意とする魔法で敵を捉えきれずに終わってしまった事に驚愕の表情を浮かべそうになるが何とか堪える。兵として訓練を受けた身なればこの程度のことで取り乱していては、と思い直し直ぐに次の行動へと移る。
腰の剣を抜きながらラグリアに向けて一人走って行く兵団の男性。残りは弓をアイテムポーチから取り出し援護へと回る。走った事でローブが風に靡き金髪が風に流れる。その勢いのままラグリアへと斬りかかるが、徐々に走る速度が落ちていき残り十m位の距離になると完全に足が止まってしまった。
「自ら飛び込んでくれるとは有り難いことですね」
「何をした!?」
仲間がいきなり攻撃をやめた事に違和感を覚え、困惑しながらも問いかける。ラグリアは質問には応えず、斬りかかってきたエルフに「こっちへ来てください」と命令を下した。何をバカな事をと女性が思ったのも束の間、ゆっくりとした足取りでラグリアの元まで歩いていってしまった。
「彼は私たちに協力してくれるそうですが、あなたはどうです?」
嫌味ったらしい言い方で聞く。ラグリアち味方すると言うことは国を裏切ることだ。だか、断ったところで先のように怪しい術使われ、操られてしまえばいみがない。既に選択肢は無いも同然の問いだ。一人残された女性は睨むことで屈しないと言う意思を告げる。例え、死ぬとしても自国を裏切ることなどできはしなかったのだ。
「まぁ、いいでしょう。ヴァイン始末をお願いしますよ。私は目的地に向かいますので」
「私に仕事を投げるのはやめてもらいものだな」
文句を言うヴァインにでは、と軽く挨拶し、捕えたエルフの肩に手を置くと、宝物庫までの道程を尋ねる。道程を聞くと聞こえていないだろうがエルフの彼に行きますよと、まるで従者に言うが如くいい放ち、宝物庫へと歩を進め始めた。それを手に付いた血を払いながら
追随するヴァイン。
彼から聞き出した通りに進むと、横幅が二、三mはあろうかという廊下を抜け、大広間のような場所に出る。
「以前来た時はこんな所来ませんでしたね」
「それもそうだろう。前は誘拐が目的だったからな」
操ったエルフに案内させながら、来たことのない場所におのぼりさんの如くキョロキョロし進む二人だったが、奥の廊下から鎧を付けた人物が姿を現したことで立ち止まる。光をも吸い込みそうな漆黒の黒髪をエルフ特有の尖り耳にかけながら出てきたのはアイリだった。
「随分と好き放題やってくれたようだな、ラグリア・フォルネス」
「おや、これはこれは」
「お久しぶりですね、アイリさん」と立ち止まり軽く会釈をする。
「なぜ貴様がここにいるのかは知らないが、今起こっているのはお前が原因だろう」
「貴方がいると言う事はヴェルンハルトさんもここにいると言う事ですかね?」
アイリの疑問には一切取り合わず、逆に確認の問いを投げかける。
「少々面倒なことになりましたね。ヴァイン、貴方は先に行って下さい。場所に関してはエルフの方が教えて下さりますのでね」
「行かせると思っているのか?」
自身を無視し勝手に話しを進めるラグリアに苛立ちを覚えつつ、廊下の出口に立ちふさがり二人を行かせないように威嚇する。今いる広間の出口は大きいのだが一つしかなく、そこを通らなければ宝物庫へ行くことは出来ない。そこを塞がれてはアイリを倒すことでしか通れる方法がないのだ。
「アイリさん。確かに貴方は強いですが、それはあくまでも人間としてのレベルでしかないのですよ。それでももし、立ち塞がると言うのなら」
そう言うと右手の中指に嵌めた指輪から粒子状となって剣が出現する。それを見たアイリも腰から剣を抜き構える。
「殺りましょうか」
執事服のような格好で走りだす。手に持っている剣が黄金のオーラを纏いだし、聖剣のような輝きと光を発する。その光景を見たアイリは一瞬驚きの表情を浮かべるが、直ぐに切り替えラグリアと対峙するのに集中するのだった。
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