第51話ルヴァンシュ~復讐者~

時刻は夕刻。太陽は既に沈みかけ夜の帳が降り始める頃の時間帯。


とある森の中にある一戸建ての洋館。周りは木々に囲まれており、とても人住むのに適している場所ではないと言える。洋館は2階建ての茶色を基調としたレンガで組み立てられている。所々レンガは欠けたり変色をしたりと中々に年季の入った建物であることが窺える。そんな洋館の中を歩く人物がいた。


カツカツと地面に触れるブーツの音を響かせながら廊下を進む一人の男。その名はヴァイン・シリウス。数日前都市アルス侵攻を企てたメンバーの一人である。薄い赤色の髪に赤い瞳、上半身は黒い七分丈のシャツを着ている。下半身はこれまた黒の長ズボンを履いている。腰にはパレオのような布を2、3種類巻きつけ、手首、耳、首などには金属製の装飾品をこれでもか、と言うほど付けている。


銀色の取っ手を握り扉を開く。扉を開くときの独特な音がなり、部屋にいた人物の視線を集めるが、特にたじろぐ様子もなく部屋に入っていく。



「随分と遅い…いえ貴方の場合はお早いと言った方がいいのですかね?」



丁寧な口調な起床時間の事を言ってくる男は先日の侵攻を企てた主犯格の人物。白いシャツの上に黒のスーツのようなピシッとした服を着ている。服装はきっちりしているので真面目かと思いきや、全体的に髪が長く後ろは肩までの長さがある。そんな風貌だが纏う雰囲気は紳士のような物腰の柔らかいものである。名をラグリア・フォルネス。



「まったくぜ、寝てねーで、ちったあぁ仕事しろ」



粗野な感じの言葉遣いをするのはエドガー・ライネル。ぼさぼさの銀髪で野獣のような鋭い目をしている男だ。胸元が開いたシャツ着ており、そこから覗く筋肉は鍛えられているのが一目で分かるほどに立派だった。



「他はどうした?」


「他の人たちには情報収集を任せてます。仲間を増やさないとですからね」



今現在この洋館にはラグリア、ヴァイン、エドガーの3人しかいない。ヴァインは一言「そうか」と呟き1人掛けのソファへと腰を下ろした。するとエドガーから紙束を投げ渡される。



「これは?」


「それはリストですよ。今後、仲間にするのに良さそうな人を探そうと思いましてね。それから一昨日、目撃したあの少年がこのリストに載ってないかと思いまして」



エドガーへと質問したのだが答えたのはラグリアであった。ヴァインは納得を示し、自身も紙束へと目を通していく。1枚目の紙を見ているとある疑問を抱く。それを確かめる為に次のぺージ、さらに次とめくっていく。



「見た所、この紙束に載っているいるのはAランク以上の冒険者のようだが、あんな子供がAランクなのか?」


「さて、それは分かりません。ただAランクを倒すだけの実力を持っているのは確かなので、情報を集めていればいずれは集まると思います。それに、まずは一通り探してみないとわかりませんよ」


「聞きてーんだが、そんなに強かったのか、そのガキは?」



生憎と侵攻戦の現場にいなかったために、セリムの事を知らないエドガーが質問をしてくる。エドガー自身信じられる話ではなかった。というのもあったが、単純に興味があったのだ。



「それは、強かったですよ。10代…しかもまだ15、16程度でしょうか。それであの強さ、将来的にはSないしSSも夢じゃないかもしれませんね。是非とも仲間に引き入れたいものですよ」



ラグリアが一人語りエドガーが「すげーな」と納得を示す傍らでヴァインはあることを思い出していた。



「おい、ラグリア。そう言えばお前、ローアに荷物は届けたのか?そろそろ届けないと 獣王に何を言われるか…」


「あ! …そう言えば行ってませんでしたね」


「あ!じゃねーよ。ラグリア、手前」



あららとまったく悪びれもせずに正直に言うラグリア。それにエドガーがツッコミを入れる。組織のリーダーを一応ではあるが務める人物なので、下の者としてはしっかりしてくれと言いたくなるだろう。



「しょうがないですね、今から行きますか。ヴァイン、行きましょうか」



「分かった」と一言だけ告げると出掛けるべく準備に取り掛かるヴァイン。ヴァインが部屋から出ていくとラグリアはエドガーへと話かける。



「あなたは…行かないでしょう? 自身が生まれた国とは言えあそこには、君を苦しめた輩がいるでしょうからね」



眉間にしわを寄せ、怒りを隠そうともせずエドガーは答える。



「一々言わなくても分かってんだろーが。ラグリア手前、分かってんだろうな?」


「えぇ、もちろんあなたの望みは必ず叶えてあげますよ。この組織、"ルヴァンシュ"に属する限り "復讐"に身を置く同志なのですから」



エドガーのドスの聞いた声に一切怯まず、それどころか逆にエドガーを怯ませるような表情と声音で言い放つ。顔は凍えるような冷笑を、言葉には激しく燃える炎のように熱をもった過激なものだった。


準備を終えた二人は報告をすべく獣の国、ローア王国へと移動する。空間に亀裂を作り出し、その中を潜り抜け直接ローア王国へと足を運ぶ二人を見送るエドガー。その顔は二人がこれから向かう場所へと繋がる異次元への空間を睨んでいた。その先にある、家族を奪ったローア王国に、必ず復讐してやると思いながら…


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