第50話お買い物

試験の説明が終わり、一階へと降りる為に階段を下っていく三人。すると「あっ!」と何かを思い出したような声を上げるキーラ。セリムとベルは揃って振り向きどうしたんだと言う視線をキーラへと向ける。



「すっかり忘れてたわ」


「何をだよ」


「昨日約束したでしょ。パーティーを組んでくれるって」



キーラのこの発言にセリムはそうだったなぁ~と棒読み感満載の声で返事をし、何で覚えてんだよ…とため息を吐く。



「何よ、私が組んであげるって言ってるのに」



セリムの言動に少しムッとなり高圧的な態度になってしまう。



「いや、それよりも登録するんだろ。さっさと行くぞ~」


「何だ、二人はパーティーを組む間柄だったんか?」



黙って二人のやり取りを見ていたベルがセリムとキーラの関係を問うてくる。



「何を考えてんのか知らんが、少なくとも俺は組まされたと思ってるから、間違えても組みたくて組んだとは考えんなよ」



セリムが純然たる事実を口にし、不本意の旨を告げるとベルは何や、あまりよろしくない何か悪意に満ちたニヤァ~とした顔で「ほーほー」と相槌を返すのだった。


一階に降り受付へと足を運ぶ。ベルは「オラは関係ないし、酒場にいるな」と一人離れて行った。受付嬢に声を掛けパーティーを組みたいとの旨を伝える。ちなみに受付嬢はフィーネではない。とは言え、別にそれで何かが変わったりはしないのだが…



「ではまず、パーティーに関しての説明をさせてもらいますね」



受付のお姉さんはそう言うとパーティーを組んだ時のメリットやデメリットなどを説明してくれた。


パーティーを組んだ場合のメリットは格上のモンスターに多数で挑むことが出来、自身の負担を減らせること、デメリットは一人当たりの報酬などが少なるなる事だそうだ。そしてここが一番大事なんだとか。パーティーとしてのランクは、組んだメンバーの中で一番低い者のランクになるんだそうだ。パーティーを組んでいても個人で依頼を受けるのは可とのこと。これが大体の事だそうだ。


説明を聞き終え、特に質問もなくパーティー登録へと移行する。



「では、お二人ともギルドカードを出してもらえますか?」



受付のお姉さんに言われセリムとキーラはギルドカードを手渡す。「では、少々お待ちください」と一言告げるとお姉さんは奥へと引っ込んで

行き、それから1分程で戻ってくる。



「登録完了しました。ご確認ください」



そう言って片手一枚ずつ乗せたギルドカードを手渡してくる。確認するとランクが書かれている欄のしたにパーティーを組んでいるパーティーとしてのランク、パーティーメンバーが追加で記述されていた。


一通り確認を終え「これで満足か?」とキーラに聞いてみると、とても嬉しそうに「えぇ、もちろんよ」と笑顔で言い返さる。その笑顔にセリムはそこまでのもんか?と疑問に思いながらも満足気なキーラの気分をわざわざ害する必要もないだろうと考え買い物へと促すのだった。




ギルドを出た三人は試験に必要な物を買うためにアイテムショップに来ていた。以前ポーション類を買いに来た店だ。ドアを開けるとカロンッと言う音がなり客が来たことを告げる。その音を聞いた店員のいらっしゃいませと言う声を聞きながら入店する。


各々必要そうな物を手に取り購入するか決めていく。その中でセリムは商品を手に取っては棚に戻し買おうとはしなかった。



「セリムは買わないの?」



その光景を見ていたのかキーラが声を掛けてくる。

手には瓶の中に入った乾パンのような物や同じく瓶の中に入った何だかよく分からない色とりどりの丸い物体がいくつも入っていた物を持っている。



「いや、何が必要なのかさっぱりでな…」



ポーション系統を使わないでもB級の闘技のダンジョンーーB級が多数出現すると言う事で一応のB級となっているーーをクリアすることが出来たのもあり、特に必要な物が思いつかなかったのだ。



「そんなのは適当でいいのよ。使えそうな物は買う、使えなさそうな物は買わない。至極単純なことよ」


「何いってんだ、ダンジョン舐めてんのか?」



セリム、キーラの話を聞いたいたのだろう。ベルが強い口調で話に入ってくる。



「ダンジョンってのは1つ1つ環境が違うんだよ。だから目的に合わせて持っていく物を選ぶもんなんだ。今回試験の場となる"不動の樹海"は、植物系のモンスターからの毒とかの攻撃があるらしいから解毒剤とかが必要なんだよ、分かったかおめーら?」


「お、おう」


「え、えぇ」



会って間もないが、今まで見たことのないベルの態度にセリムとキーラは驚き返事にどもる。


今回、セリム達Dランク冒険者が受ける試験はC級のダンジョン"不動の樹海"というものである。植物園のように草木が生い茂り毒や麻痺と言った属性攻撃を仕掛けてくるモンスターが多数存在すると言うダンジョンだ。そのため耐性が低い者や魔力切れしたときの回復などを考え、解毒薬などは必需品と言える。



ベルからの叱責?注意?を受けた後もう一回商品を見るかと、各々ダンジョンで必要そうな物を吟味していく。そうして30秒くらい経った頃だろうか、客を告げるドアベルの音がなる。



「ポーション持ってきたよぉ~」



だらしないおっさんのような声をあげながら店に入ってきたのは一人の男だった。顎の部分だけに無精ひげを生やしウェーブのかかった青い長髪を一つ結びに博士の様な服装をしただらしないおっさんだ。言葉の通りおっさんの手には木箱に収められたポーションとみられる物がいくつも入っていた。



「おやっ、お嬢さんは防衛戦の時の…また会ったねぇ~」



入店するなりまるでナンパのような声かけをするのは2日前に行われた防衛戦で、キーラを助けたおっさんだ。その声かけにキーラも思い出したようで

「あんたはっ」と声をあげる。キーラとおっさんの関係を知らないセリムは「誰だ?」と疑問を口にする。その隣にいたベルは「あんたは…」と驚きを

隠そうともせず寧ろ露わにしていた。



「おぉ、そういえばまだ名前を言ってなかったねぇ。ボクはパラケルススって言うんだよ。一応冒険者やってるからヨロシクねぇ~」


「初めて聞く名だな…」


「何言ってんだセリム。この人はこの街でも最強と名高いAランク冒険者だぞ」



セリムにとっては初めて聞く名だったので特に何も考えず呟いたのだが、パラケルススと言うのは結構有名だったようでベルが知らないのかっ!と攻めるような視線を向けてつつ説明をしてくれる。



・パラケルスス・ホーエンハイム。

都市アルスAランク冒険者であり希少な錬金術師と言う職を持つ人物である。そしてここアルスにおいてAランク内でも最強と言われる一人だ。それと

同時に錬金術師としてポーションの生成や魔道具の作成および研究などを務める。自身の攻防を持っており年がら年中そこに籠って一人ぶつぶつと呟きながら研究をしている変人冒険者とのことらしい。



ざっとベルが説明を終えるとパラケルススことパラスは「そんな大した人間じゃないよぉ」と照れながら否定をしていた。がおっさんが照れながら否定するという誰得な現状にキーラが「キモッ」と辛辣な言葉を吐きつけパラスの心を傷つけていた。



「あはあはは…おじさんは用があるからここでね」



心を盛大に傷つけられたおっさんことパラスは逃げの選択をし、用があるからと撤退することにしたようだ。「じゃあねぇ~」と短く別れの言葉を口すると店員と二言三言話してから店の奥へと消えていった。その姿をベルは憧れを孕んだ目で名残惜しそうに見ていた。そしてセリムもパラスの後ろ姿を見ていた。その意味はベルとは全く異なるものだったが…



(ポーションって錬金術師が作ってたのか…)



以前、疑問に思っていたことを考えるセリム。なるほどと一人納得する。


それから数十分後、あらかた買い物を終えた三人は店を後にする。店を出た所でベルが話しかけてくる。



「買い物も済ませたしオラはここいらで…」



それだけ告げるとそそくさと歩いて行ってしまった。



アイテムショップ店を出た後ベルと別れたセリムは、キーラに今後の予定をを聞いていた。



「買い物も終わったし、俺はこれからバロックさんとこ行くけど、どうする?」


「特することもないしら私も行くわ」


「そか」




それから鍛冶屋へとおもむく二人。店までたどり付き店内を除くと、そこには今までに見たことの無い光景が広がっていた。客がたくさんいるのだ。


その事実に「お、おぅ…」と驚きの声をあげるセリム。今まで来た中でこれほどまでに客がいた光景など見たことがないのだ。店の外から覗いている為

正確な人数は分からないが、見た感じ5、6人はいるのだろうか…今まで見たことがあるのはせいぜいが1人か2人程度だったので繁盛している。驚きながらも店内へと入る。



「セリムっ!」



入店するなりバロックが声を張り上げセリムの名を呼ぶ。その所為で視線が一気集まってしまう。が、見られることを不快に思ったキーラがにらみを利かせ即座に視線は霧散した。それからカウンターまで歩いて行き、バロックにここへ来た目的を告げる。客が大勢いる理由は大方予想がついていたので気にせずスルーだ。



「ライジングバングで何か装備って作れます?」


「そう言えばお前Aランクを倒したんだってな!」


「知ってるんですね」



お約束のような会話をした後本題へと話を移行する。



「ライジングバングで作るとなると毛皮を使ったコートとか、角を使った武器だろうな」


「その二つでちらも作れます? その他の部位は防衛戦でのお礼として全部上げますんで」



セリムのこの発言にバロックを含め周囲の者たちからマジかっ!という驚愕にそまった視線を向けられる。



「い、いいのか? Aランクだぞ? 売れば結構金になんぞ」



「特に使う予定もないんでいいですよ」と中々に太っ腹な発言をする。最近では金にも困らなくなってきていることもあり、然程気に留める事でも

なかった。話をいている横でキーラが紙袋に入った荷物を「よいしょっと」と持ち直しているのが目に入る。その紙袋を横から取る。



「重いなら言えよ。持つから」


「え、あ、あり…」



若干照れつつもお礼を言おうとするが中々に言葉が出てこずどもってしまう。キーラの荷物を持ったセリムはキーラの事を横目で見つつバロックに装備の作成を依頼するのだった。



「どのくらいまでに作ればいいんだ?」


「1週間後くらいまでには出来てればいいですよ」


「任せとけ!」



客が大勢来ているのにそんなに安請け合いして平気か?と頼んだ本人が気にするのはおかしな話だが、まぁいいかとそのまま店を出る。



「なぁ、キーラってアイテムポーチとか持ってないのか?」



思い出してみればキーラは荷物を殆ど自分で持っている姿を見たことがなかった。闘技のダンジョンの時はアーサーが森での調査の時は自分が持っていたなと

思い出す。



「今からもう一軒他の店行くけど時間平気か?」


「どこに行くの?」



「ついてくれば分かる」と一言だけ告げ、次なる目的地へと歩き出す。5分もしない内に目的の場所、魔道具屋へとたどり着く。以前セリムがアイテムリングを購入した店だ。主に魔道具などを取り扱っている店で、装備などを取り扱う鍛冶屋と扱っている物はほとんど変わらないだろう。


同じ装備を扱っているのになぜか店が違うという疑問があるが気にせず入店する。いらっしゃいませと言う店員の声を聞くや否や、カウンターまで一直線に進んでいき要件を伝える。



「アイテムポーチが欲しいんだが」


「はい、アイテムポーチですね。型はどれにしますか?」



アイテムポーチには名前の通りポーチの形をした物やイヤリング形態の物、ネックレス、そしてセリムが嵌めている指輪型の4種類がある。形が違うだけで機能は変わらない。ただポーチにも入れられる量の限界があり、それがあがるほど値段も上がっていく。一番人気なのはリングだそうだ。



「どれがいい?」



後ろを振り返りキーラにどの型の物がいいか尋ねる。だがキーラは何を言われているのか理解できていないのか、疑問符を頭の上に浮かべていた。



「アイテムポーチねぇと何かと不便だろ、やるからどれがいいか選べよ」



アイテムポーチがないと不便なのは確かだが、セリムとしては毎回、荷物をわざわざ出し入れし、渡すのが面倒だったのだ。他にも自身が荷物のほとんどを預かってしまい、戦闘中にキーラとはぐれたらキーラは回復する手段がなくなってしまう事も考慮

していた。



(そういや、防衛戦では回復はどうしたんだ?)



防衛戦での事を思い出すが過ぎた事はいいか、と割り切りキーラの返答を待つ。



「…それは、買ってくれるってこと?」


「結果的にはそうなんのか、な…」



キーラにしては珍しく申し訳ないという顔をしながらも「指輪でいいわ」とうつむき加減で言うのを聞き店員へと伝える。店員は注文を聞くとカウンターから離れ店の奥へと品をとりに向かう。収納量は一番低い奴だが無いと有るとではだいぶ違うだろうし

これで満足してもらいたいものだ。


直ぐに店員が戻ってきてアイテムリングを受け取り会計を済ます。先にリングを渡し、嵌め終わるのを確認すると荷物も渡し収納するように言う。



「そ、その、ありがとう」


照れながらも礼を言ってくる。先程の時とは違い今度はしっかりと言葉にし言う事に成功する。



「まあ、この分はしっかり働いて返してくれ」


「何よっ! タダじゃないのっ!?」



セリムの発言に驚きてっきりタダでくれるものと思っていたキーラは驚きを露わにして、何でよっ!と連呼する。その現場を見ていた魔道具屋の店員は、熱々ですね、とまるで中学生のような反応を見せる。そんな煽りを受けながらも買い物は終了し試験へと備えるのだった。




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