第49話試験説明

ランクアップ試験の挑戦権を得た8名はギルドの職員に案内され、現在ギルドの二階の部屋にいた。木造りの椅子が数脚に長テーブルが長方形の形に組まれてある会議室のような部屋だ。各々適当に椅子に腰かけ職員から説明がされるのを待つ。


職員の男は皆の視線が自分に集まっているのを確認すると、軽く咳払いをしてから話し始める。



「えー、初めましての人もいる様なので自己紹介からしようと思います。私は都市アルスの職員のサンドといいます」


よろしくと自己紹介をし説明を始める。



「これからランクアップ試験に関しての説明をさせて頂きます。まず、今回の試験は防衛戦の後の試験だと言う事で普通のランクアップ試験とは違います」



違うと説明がなされるが特に質問などが出ることも無く説明が続けられる。キーラは疑問を持った顔をしていたが皆に合わせてか質問などはせず話を聞いていた。



「普通なら1つ上のランクのモンスターを狩るなどのものですが、防衛戦の後はランクも違う者同士が多数存在する為ダンジョンに挑んでその結果で試験の合否を判断します」



防衛戦の後のランクアップ試験は多数のランクと人数が入り混じると言う事で毎回ダンジョンで合否の判定をしているらしい。普通の試験のようにモンスターを狩るのでは一匹に多人数がかかりすぎて

あまり実力を見ることが出来ないとの事らしい。



(つーても、今回人数少ないし普通のでも問題ないんじゃねーかね)



そうは思うセリムであったがダンジョンの方がモンスターの種類も豊富な事を考え、そっちの方が得だなと、思ったことを口にすることは避けた。



「と言う訳で、各々ランクの同じ者同士で臨時パーティーを組んでもらってダンジョンに挑んでもらいます。挑んでもらうダンジョンはランクの一つ上の

 もので、審査役として一人審査官が付きます」


「審査官とは誰が付くんですか?」



質問をしたのは部屋に入って左側の椅子に腰掛けた獣人の女性だ。



「えーと、君は確か…」



サンドの問いに質問をした女性は「ノワールよ」と短く答え、質問の回答を待つ姿勢へと入った。



「ノワールさん…ですか、Cランクですね。そうですね、ノワールさんの場合はBランクのダンジョンへと挑んでもらう事になります。その場合の審査官はBランク以上の者を付けることになります。Dランクの者にはC以上、Bの者にはA以上の者が付きます。そして、この審査役の人物は審査と同時に予期せぬ事態が起こった時の事を考えて付けていますので、安心して試験に挑んで下さい」



「他に質問はありますか?」と声を掛け、質問が上がらないのを確認すると再び説明に入る。



「試験の予定日ですがダンジョンの場所がバラバラな事もあり終了日時は異なります。ですが出立の日時は同じです。今日から3日後の昼辺りには門の前に集合して下さい。3日あるのでその間にそれぞれ準備を怠らないように」



その後、臨時ではあるがパーティーメンバーの発表とダンジョン名などが知らされ説明会は幕を下ろした。説明が終わり皆が立ち上がり次々に部屋から出ていく。そんな中、腰を浮かしかけていたセリムに話かけてくる者がいた。



「さっきの発表で名前はしってると思うけど、オラはベルって言うんだ。試験の間はよろしく頼むぞ」



今回一緒に試験を受けることになっているDランク冒険者のベルだ。彼はドワーフでがっしりした体格に、茶色っぽい肌、低い身長と赤い髪と言う如何にもドワーフと言った風貌の持ち主だ。ちなみに年齢は10代後半だと言うのだが、ドワーフの特性なのかかなり老けて見える。



「あぁ、セリムだ。こちらこそよろしく」



今後一緒に行動することになる相手なので取り合えず挨拶をしておく。



「ちょっと、私も忘れないでもらえる!?」



そう言って話に参加してきたのはセリムの隣に腰掛けていたキーラだ。セリムが話かけられた事で先に出ていかず、待っていたのだ。



「いや、忘れてないぞ。キーラだろ。種族柄あまり仲良くはないが試験の間は頼むぞ」


「種族なんてどうでもいいわよ」


「…そうか」



気にしないとは少し違うが、どうでもいいとの発言に驚き反応が遅れてしまった。



「取り合えずここで話しててもなんだし、準備すっぞ」



セリムのこの言葉に二人とも賛成し一同は武器やポーションと言った道具を揃えに街へと繰り出すのだった。





セリム達一行が街で買い物をしている頃、ギルドマスターであるレイニーは都市アルスを治める領主の館へと来ていた。



「わざわざすいません」


「いいえ、構わないわ…と言うより来るのが普通じゃないかしらそれと、相変わらず腰が低いのねヴラド子爵は」



あははと照れているような笑い方をする男。照れ笑いをした男こそが都市アルスの領主といっても代理が付くのだかヴラド・サキュレータである。温厚そうな顔つきに黒っぽい深緑色の髪をオールバックにし、白のシャツの上に灰色のベストを着用している。上着は羽織っておらず、下はベストと合わせてか灰色のスーツのようなピシッとしたズボンをはいている。何故、ヴラドは代理かと言うと正式にはまだ家督を継いでいないのだ。


テーブルの上に用意された紅茶を手に取り一口飲むヴラド。そうして一旦先程までの気分をリセットする。



「それでは拝読させてもらいます」


「えぇ、不明な点などあれば言ってもらえれば…」



レイニーが現領主の屋敷にいるのにはきちんと理由がある。先日起こった防衛戦の報告をするために足を運んだのだ。本来なら代理ではなく領主に渡すべきなのだろうが、領主のダグラス伯爵、ヴラドの父は脳筋タイプの人でしょっちゅうフラフラと戦いに赴いてしまうのだ。その為実、質ヴラドが領主としての仕事を果たしている。


普通なら領主がふら付いているなど他の貴族の反感などを買うのだが、性質たちの悪い事と言うかダグラスは戦闘においては結構な力を持っており

これまでの防衛線や荒事で活躍してきたことがあり強く出られないのだ。


ヴラドは受け取った書類を読み始める。その間レイニーは特に何もすることも無かった為、周囲に視線を巡らせていた。値が張るであろうソファーに机、

それと調度品。身なりは良く整えられていて清潔感がある。



(ただ、貴族の割にはものすごく謙虚なのよね…)



ヴラドの唯一の欠点ともいえる事を考えながら老執事が用意してくれた紅茶に口を付ける。そうこうしている内にヴラドは読み終えたようで紅茶に口を付けていた。飲み終えるのを待ってから話しかける。



「何か不明な点はあったかしら?」



レイニーの疑問にヴラドは数秒考えてからゆっくりと口を開く。



「今回の防衛戦は今までとはかなり違うと言う事ですね。まさかAランクモンスターまで出てくるとは…」



それは質問の答えとしては正しいものとは言えなかったが、レイニーも今回の顛末を聞いた時は同じことを思ってしまった為に特に質問の答えを急かす

ような真似はしなかった。ただ、年の功とでも言うのかレイニーの場合は驚きこそすれ、それを口に出す事はせず冷静に説明を受けていたのだか…



「兎にも角にも今回の事は今までに類を見ない自体ですね。Aランクなんてここ周辺にはいない筈ですし…考えられるとしたら人為的なものでしょうか?」


「えぇ、可能性としては高いでしょうね。ただ、その場合それ程の高ランクモンスターそして大群を用意できるとなればかなりの実力者と言う事になりますわ」


「…それは、どこかの国もしくは組織的な犯行である可能性が高いと?」


「あくまでも可能性の話ですけどね」



可能性の話しであれ、ここが狙われたのは事実であり今後も同じ事が起こらないとも限らない。それを分かっているかこそヴラドの口調は重くなり、レイニーにそうではないと否定して重い気持ちを払拭は出来ずとも軽くしたかった。


今回は運よく勝つことが出来た。だが次はと考えると絶対に勝てると言う保証はない。やれやれと今後の事を考え重くなる気分をどうにか堪え対策の話しへと移行する。



「街の強化が必要ですね…王都に言って騎士団を…は無理ですね。防備が薄くなればそこが狙われるかもしれませんし」


「冒険者に頼らざる得なくなるわね…」


「迷惑をお掛けします」



貴族らしからぬ頭を下げると言う行動をするヴラド。とは言えレイニー自身、頭を下げられずとも

護る気ではあった。ここに住む者としては街がなくなってしまったら困るのだ。ギルドの娘たちや町民は特に。だからレイニーは恩を売るとか迷惑とは考えておらずあたりまえの事なのだ。



「お任せを」



強い意志の感じられる声で請け負う。それからもう二言三言話し合いをし、レイニーは屋敷を後にするのだった。




レイニーが立ち去り老執事と二人きりだけになった部屋でヴラドはため息を吐いた。



「少し休憩を入れられてはいかがでしょうか?」



ヴラドの事を気遣い休憩の提案をしてきたのは先程の話し合いからずっとヴラドの後ろで待機していた老執事だ。黒のスーツに身を包み、短い白髪は綺麗に整えられてチェーン付きの鼻眼鏡をかけている。



「心配ありがとう、でも問題ないよマルコフさん」



執事にさん付けなど普通なら使わないだろうが、本来マルコフはヴラドの父、ダグラス・サキュレータの執事であり、ヴラドが子供の頃から屋敷に仕えている存在だ。


子供の頃からお世話になっており、父親がしょっちゅうフラフラしてた事で、マルコフに父親みたいだなと言う意識が芽生えていた。その為に執事でありながら、尊敬の念も込めてさん付けをしているのだ。



「にしても、最近は物騒な事が多いですね。エルフの国アルフレイムの事もありましたし…」



この誰に対しての問いでもない独り言にマルコフ老執事は、そうですねと短く返答するのだった。



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