引きこもった伝やん、心配する飼い猫ミケ

 その頃、伝やんは家の中どころかもう敷きっぱなしの蒲団の中にもぐりぱなしであった。時折、蒲団の中でタクアンやせんべいをボリ、ボリかじる位で食欲も全然わかないのであった。

 そして誰も寄せ付けないのである。

ただ飼い猫のミケだけがちょつぴり心配して時々蒲団に近づくと、蒲団の間からいきなり手が出、ミケを掴み有無を言わさず蒲団の中に引っ張り込むのであった。

 そしてギューつと痛い程抱きしめ、


 「ウオッ、ウオッ・・・ホッ、ホッ、ホ」


唸り声とも、うめき声とも笑い声ともわからぬ声でいっとき泣き続けるのであった。

 そんな時ミケは、蒲団から抜け出す機会を、伝助の懐から抜け出す機会を見つけ出すのが大変であった。

 またせっかく、毛づくろいした毛並みを鼻水、涙でグショ、グショにされ、毛づくろいし直すのも本当に大変であった。


 「俺だって、隣のブチのミョツペが可愛いのに、嫁にしていいかなんて、とてもご主人様に聞ける状態でないわ、今わ」


ミケは唯一の遊び仲間である黒猫のホワイトに愚痴り始めた。

(真っ黒な猫だが、何故か名前はホワイト、伝助の幼馴染の竹男が主人だ。竹男が気まぐれで付けた名前だ)


「それによお~この前なんか、興野猫会の会長につかまってさあ~長々と説教、いやあれはおちょくりだな、最後にはふきだしているんだぜ」、「いいかミケよ、ご主人様の言動には少しは飼い猫の責任もあるんだなんて言うんだぜ。そして(笑)やがるんだ。まさかお前まで狐っこか犬っこの娘、ひそかに追いかけていねえだろうななんて、笑って言うんだぜ。バカにしてねえか」


 ホワイトは可笑しくてしょうがなかったが、それでも必死に笑いをこらえいかにも神妙に「わかるよ、わかる、ク゚ッ、ク゚ッ…フ」、「わかるよお前の気持ち」と慰めている。


 (本当に良い嫁っこさんでも早く来てもらわなければ、たまったもんじゃない)

ホワイトに話して少しは気が安らいだのか、ミケの愚痴も終わろうとしていた。


この頃、めっきり毛並みが乱れ、艶がなくなったと感じる、心労の増えたミケであった。



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