伝やん花火

 ・・・興野の小寒村はお祭りでもないの花火大会の真っただ中であった・・・

村中のいたる所に黒く太い筒が取り付けられ、そこからドッカン、ドッカンと真っ黒い花火玉はひっきりなしに打ち上げられ、空高くにて、赤や黄色に弾けとんだ。

 そしてそれは、興野の村中、至る所に降り注いでいる。


「伝ちゃんまた!」

「伝助の馬鹿が、また」

「伝やんまたやってしまったんだって、馬鹿だ」

「ほんで、伝助どうしてる、見ねえぞ、寝込んで、いんでねえのか」


 そう!そう!

伝やん花火は、村中のいたる所からひっきりなしに打ち上げられ降り注いでいるのであった。


こっちでは井戸端の端で、または野良の手を休めた田畑の土手で、小うるさいおばさん連中が、集まるや、始める、伝やん花火だ。


 「富ちゃん、富ちゃん聞いたがやな、伝ちゃん、嫁っこほしくて、とうとう、下平のバッサマかっぱらったんだって・・・」(笑)


 「そりゃ、ほしかっぺ、あん年になりゃ・・・」


 「下平のバッサマかっぱらうなら、よっほど俺のほうがイカッペ、ほれほれまだ若かっぺ、見てみ、このおっぱい」


 両手で土手かぼちゃみたいな胸元をゆすり、大笑いをする。


 「うちの飲んべ親父より、よっほど役にたっぺ伝ちゃんまだ若いんだから」 


 「ありゃ、まあ言うでねえシゲ子さん、やっぱ若いほうがイイノケ」


 「親父とぞうりは、新しいのに限るって、新しいのがいいに決まってぺやなあ、勝子さん」


 「ほんじゃ、言ってみっか伝ちゃんに、すぐに抱きついてくんでねえの」(笑)(笑)


 「イヤだ・・・勝子さんたら」


アハハ・・・オホホ・・・(笑)(笑)(笑)・・・


 また、あっちでは飲んべ親父共が、


 「辰やんとこの伝助、下平のバッサマかっぱらったんだって、テルちゃん、とうとう寝込んじゃたんだって」


 「そりゃ、そうだべ、息子があんな事やらかしたんだから・・・伝助なあ、しゃねえやつだな」


 「辰やんもてえへんだ、やっぱ、お寺の坊さん頼んで、いくらか包んで怪我の治療代って事にして・・・行ったらしいよ」


 「まあ・・・なんぼ下平と言っても今は礼儀あっからよう・・・仕方ねえべ」


また青年会の連中は、


 「伝助の野郎、また馬鹿やりやがって、タケオ、お前じゃないのか伝助にバカなこと吹き込んだのは」(笑)(笑)


 「バカ俺じゃないよ、あれは金吾やんだよ。キツネ捕まえろなんて言ったのは」


 「何!それを真に受けてやったのか伝助わ。馬鹿だ馬鹿だよ」(笑)


 「そんで伝助どうしてんだ、このところ見ねえぞ」


 「そりや、家から出られねえべ、お前なら出られっか」


 「出れねえ、俺出れねえ」(笑)(笑)


 「竹男、伝助のかっぱらったバッサマ嫁さんを見に行ってやんねえと・・・しゎくちゃ顔に胸に干しブドウだぞ、いかっぺよ」(笑)(笑)(笑)


いたる所でまだ伝やん花火は打ち上げられていたのである。



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