伝やんと村人たち

・・・そして伝やんの縁側・・・

 伝やんがうなだれて座り、その隣にはミケがちょこんと座っている。(ああ~今日も好物の煮干しはお預けかな~もう何日になるんだよ・・・)ミケの切ない声は今日も響く。


 そう伝やんは憂鬱であった。

時々深い溜息をつきながら、もう、半日ちかくも縁側に腰をおとしたままなのである。

 伝やんは、ものすごく落ち込んでいた。

 そしてものすごく疲れていた。

 あの時のことを思い出すと、もう息をするのも億劫なくらい、落ち込み、疲れ、憂鬱になっていたのである。


 昨日なんか、

まわりの小学生のガキ共までもが、伝やんを見てクス、クス笑うのである。

 ましては、うるさいババア連中ときたら目ざとく伝やんを見つけては、


 「伝ちゃん、伝ちゃん」


と手招きし、

伝助の顔をじっと覗き込み、思わず口元を押えふきだしてしまうのである。

・・・そして・・・そして


  「伝ちゃん、伝ちゃん大変だなや・・・この前は日暮山で・・・もう飲めねえ、もう飲めねえ、もう飲めねえ勘弁してくれって、一人で酒盛りやってたらしいが・・・今度は船場の蕎麦畑かや」


 「深い、深いって騒いでいたんだって」

 「綺麗なお姉さん助けようとしたんだって・・・」

 「コン、コンとなく、綺麗なお姉さんだって・・・」(笑)

 「鎮守の森のキツネッコにでも、よっぽど好かれているのけや伝ちゃんは」(笑)

 「アハハ、(笑)、今度はいい娘っ子になって伝ちゃんの嫁ッコに来んでねえの・・・」

 「鎮守さんのキツネッコ、メスキツネでねえの・・・」(笑)


みんなでそんな事、あんな事、なんでも言って・・・大笑いするのである。


もう、村中がみんな・・・

伝やんのキツネッコ話で盛り上がって・・・

アハハ、オホホ、アハハと入道雲みたいにモク、モクと盛り上がり村の端から家々をどんどん飲み込みグワン、グワンと大きく膨れ上がりゴロン、ゴロンと転がり、伝やんの背を迫いかけてくるかのようだった。

 その入道雲は、

既にもう、伝やんの家の周りは全て飲み込んでしまった感がした。


(なんとかしなくてはならぬ・・・なんとかしなくてはならぬ・・・)


伝やんと飼い猫ミケの憂鬱は今日も続いているのである。


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