第4話

鍵を回して、玄関のドアを開ける。

中はいつも通り薄暗くて、「おかえり」などの言葉は無い。

私は取り敢えず手を洗って、キッチンに立った。

有り合わせで夕飯を作る。玉ねぎを切り、ネギを刻み、油揚げを均等な大きさにしたら、出汁をとって温めた湯の中に放り込む。そして味噌を溶かして、取り敢えず味噌汁は完成した。

あとは豆腐を適当に切って、フライパンで和えるだけで作れる麻婆豆腐と、レタスをちぎってミニトマトを乗せたサラダで夕飯にすることにした。

一人で食べる夕飯も、随分慣れた。慣れたと言っても寂しく無いわけでは無い。

もっとも、家の中で誰かと会話なんてここ二日はしていない。

母親は会社で忙しくしているし、父親は単身赴任で年末年始しか返ってこない。

「夏美、食器片付けてよね。」

「お母さん、いたの。」

いきなりぬっと現れたのでぞっとした。

「最近帰り遅いけど、ふらふら遊んでないで、勉強しなさい。」

母は蔑むような目でそう言った。

「遊んでない。」

目を合わせたくなかった。私は黙々と食べた。

「ねぇ、本当に。カメラじゃ食べていけないのよ、普通の人は。」

母は壁にもたれかかって、爪をいじっていた。

「そんなの、分かんないじゃん。」

精一杯反論しようと試みるが、声が小さくなってしまう。

「社会はそんなに甘くないのよ。」

そう吐き捨てて、母はふらりと寝室へ向かっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る