第17話
「もし……」
もしも私が悟に求める代償をいまとは別のカタチに求めれば、別れは避けられるのだろうか。大半の連中、ごく普通の夢魔がすることを私もすれば。
「くぅ、うぅ~~」
駄目だ。頭に血が上るばかりで、まるで想像ができない。第一そうすれば大丈夫だという保障はない。もし悟とそうなったと仮に、仮定して(そう、仮定の話だ)駄目でしたでは目も当てられない。私は首をブンブン振りながら
「そ、そそ、それに……」
必ずしも悟が私を受け入れるとは限らない。何と言っても私は悪魔だ。種族も違えば住む世界も異なる異質の存在なのだ。
「………」
ズキリと痛みが走る。育ちすぎた疑問の果実が心の枝を
「どうかしてる……!」
私の抱える疑問は実際にそのときにならなければ答えは出ない。
そしてこの思考を私は何度となく繰り返している。そのくせ私は居直りもしなければ、自分から答えを求めて行動を(そう、少なくとも後者については白黒はっきりさせること自体は可能だ)することもない。本当にどうかしているとしか言いようがない。
「大体が本末転倒なのよっ!」
そもそも、私は目的があって悟の傍にいるのだ。悟の傍に居ることが目的なのではない。
そう、目的はそこでは、ないのだ。
「……はぁ、目的を果たしましょう」
息を吐き肩の力を抜く。逃避であることは重々承知だ。
だが、このままこうしていても納得出来る答えは見出せない。それは良く分かっている。ならば、するべきことであり、したいことでもあることをしよう。こうしているあいだにも時は流れゆくのだから。
両手を白色の空に伸ばす。果ての見知れぬ空間、その先へと届くイメージを描く。
「プラットホーム、解除」
命じる声とともに天上に亀裂が走る。卵にヒビが入るように亀裂は広がり、やがてプラットホームを縦横無尽に亀裂が走った。指をパチンと弾くと白一色の世界が砕け散った。
咲き終えた花火のように白の世界が散ると、眠っていた夢が花開く。
「……悟、やっぱりあなたの夢は美しいわ」
いつ見ても、何度見てもそう思う。
美しい。
そうとしか言えない自分の
目の前には大洋に沈み行く日の光。その光に照らされた海はきらきらと輝き、空は青とも藍ともつかない色で夜の訪れを彩る。風と遊ぶススキが私たちを囲んでキラリキラリと煌きながらダンスを踊る。海に臨む黄昏の草原。これは悟の夢の光景だ。
「あぁ……はふぅ~~」
しまりのない声が
「本当に、あなたと出会えたのは
彼と出会った当時私はナイトメアの討伐に人間の手を借りようとは思っていなかった。人間の力を当てにしていなかったこともあるが、それ以前に問題があったのだ。
私の協力者は私を満たしてくれる夢を見る者でなくてはならない。ナイトメア討伐をしてからエサとなる夢を探すのでは私の身が持たないからだ。私はかなり偏食なので、常日頃から美しい夢を見ている人間でないとパートナーは務まらない。そして、そんな人間にそれまで私は出会ったことがなかった。それゆえ、人間と手を結ぼうなどと考えたこともなかったのだ。そんなときだった、悟の夢と彼自身に出会ったのは。
初めはただこの美しさに溺れ、堪能することしか考えられなかった。だが、何日も夢の主がこの光景を夢見ていることに遅まきながら気づいた私は夢の主、つまり悟のことを探った。
浅間悟はどこにでも居そうな活発な8歳児だった。ようは私好みの夢を見るただの子供だ。
「いや、そうでもなかったのかしら?」
彼には3つ下の妹がいた。名前は浅間澪。彼女は兄に比べ弱弱しい印象の子供だった。
しかし彼女も兄同様、夢に関しては普通ではなかった。とにかく、他者の夢と繋がり
悟が言うには当時彼女がひ弱な感じだったのは、毎夜悪夢にうなされていたからだそうだ。
話が少し逸れた。浅間兄妹にとって悲劇だったそれは私にとってはまさに天の采配だった。私の糧となる夢を見て、なおかつナイトメアと戦うだけの理由のある少年の存在。私は彼らについて一通りの事を知ると
「悪魔と出会ったその日の内に契約なんてね」
ふふっ、と思い出し笑いがこぼれる。思えば悟の性格は昔から変わらない気がする。
いまでも思い出せる、初めて会ったあの日の出来事。
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