第14話

「じゃあ、いくぜ、ムウ!」

「了解!」


 彼女の返事を合図にナイトメア目掛け走り出す。跳躍ちょうやくの後何も仕掛けてこなかった奴だが、距離が縮まったからなのか翼を飛ばして攻撃してきた。真正面から来るそれをぎりぎりでかわす。

 回避してから方向転換し、ナイトメアの周囲を走る。敵もこちらを追ってぐるぐると回る。旋回しながらも翼による攻撃を繰り出してくるが、その狙いは段々と正確さをなくしていく。

 やがてこちらのかく乱にごうを煮やしたのか相手は左右の翼を同時に飛ばしてきた。こちらを挟み込むようにして放たれた翼を急停止し、身をかがめてやり過ごす。


「ムウ!」

「了解」


 ムウに合図し、俺は素早く横飛びした。普通ならこのまま駆け抜け翼から離れるところだが、そうはせずに翼の真下に身を潜める。


「頼むぞ~……」


 頭上の翼がいまにも自分を押し潰すのではと冷や冷やしながら、ナイトメアがこちらの姿を見失っていることを祈った。ナイトメアは動かず、目の前の翼もピクリともしない。

 いままでも伸ばしきった翼をそのまま振り回すことはなかった。だからナイトメアの次の動きはおのずと予想できる。


「………」


 ナイトメアは翼を収縮させ始めた。その速度はかなりのものだ。俺は歯噛みしながら夢奏器を強く握り反撃のときを待つ。じきに収縮が終わるだろう。

 大丈夫だ。タイミングはムウが合わせてくれる。


「悟! いくわ!」

「……!!」


 返事をしたかったが風圧で出来なかった。だが、そんなことを気にする間もなく身体が振り回され宙に投げ出された。

 まるでジェットコースターのような加速に耐え目をカッと開くと、前方からはナイトメアの頭部が迫ってきている。いま俺は宙を飛び、敵の弱点を間合いに捉えつつある。


 ナイトメアが打ち出した翼にベルトを使って取り付き、収縮し切る直前にそれを軸にして跳びあがり頭部を叩く。

 翼に取り付き俺の身体を打上げるだけの力と、何より早すぎず遅すぎずのタイミングがかなめの作戦。我ながらムウ頼りの作戦だ。だけど、俺の相棒はちゃんと俺を行きたいところまで届けてくれた。


「っ、はぁぁぁあああ!」


 勢いを殺さずに『火の箒』をナイトメアの頭に叩きつける。渾身の一撃は頭部に直撃し、その反動で身体が更に上空へと持ち上がる。しかし、いまの一撃でも頭部を大破させるには至らない。


「ムウ! 追撃!」


 瞬時に腰のベルトが伸び、頭部の角に巻きつき俺を引き戻す。引き戻される途中でベルトが解け、俺はナイトメアの真正面に着地する。そして半壊した頭で苦しげな叫びを上げるナイトメアの胴にある馬鹿でかい口に『火の箒』を突き立てる。


「燃やせぇぇ!!」


 意識を『火の箒』の先端に集中させる。勢い良く火が膨れ上がり、ナイトメアの口から「シュボッ、ボッ、ボボ」とくぐもった音を立ち始める。悲鳴はいよいよ大きくなり、ナイトメアは身をよじり暴れ始めた。

 苦痛のせいか攻撃を仕掛けてはこないが、いつこちらに矛先が向くか分かったものではない。


「こん、のおぉぉぉっ!!」


 気合を入れて火力を上げるが、未だに敵は倒れない。確実に効いてはいるが、このままでは反撃されてしまう。


「悟! 敵が!」


 ムウの悲鳴で顔を上げるとナイトメアがその太腕を振り上げている。あれをくらったら、流石にマズい。


「くそっ!」


 一時撤退が頭をよぎった瞬間。振り下ろされそうとしているナイトメアの手、正確にはその指に異変が起きた。


 ポンッ


 間抜けな音を立てその指が弾け飛んだのだ。そして次の瞬間、その傷口から炎が吹き出した。ナイトメアの体内から開放された炎はいままでのお返しとばかりに膨れ上がり暴れだした。

 ナイトメアの身体に執拗しつようまとわりつきあぶり、その全身を燃やす。焼かれた身体のあちらこちらから新しく火柱が上がり、それらもまたナイトメアを襲う。


 それを繰り返すうちにナイトメアはただの火の塊と化した。

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