第13話
「気をつけて。単に大きくなったわけじゃないみたいよ、強くなってる」
「了解」
巨大化したナイトメアがこちらを向いた。その途端、翼のような突起がこちら目掛けて飛んできた。そのスピードはいままでのものよりも格段に速い。
「うをぉっ!?」
転がるようにして避けたものの、その突きが軽く腕を掠った。ジクリと響く痛みと痺れからしてこれは直撃したら
「悟、次が来るわ。回避準備を」
「了、解」
今度はこちらから見て右の翼が伸びてきた。今回は危なげなくかわせたが、ムウが悪い知らせを告げてきた。
「左の翼が発射可能な状態になるわ……なった」
「了解!」
再び飛んでくる翼による突きをかわす。今回もムウのお陰で余裕を持って対応できた。しかし、このままでは攻められっぱなしになってしまう。
「どうしたもんかな……」
歯噛みしながら敵の突きをやり過ごす。すると突然ムウが叫んだ。
「悟、走って! 右後方に、全力で! はやく!!」
「りょ、了解!」
彼女の叫びに訳も分からないまま走り出す。振り向かずにとにかく全力で走ること10秒弱、車同士がぶつかりでもしたかのような音と共に地面が激しく揺れた。
「なんだ!?」
思わず振り返ると、そこには巨大化したナイトメアがいた。こちらとの距離はさほどない。だが、こちらはいままで走っていたのだからそれはおかしい。
「跳んだのよ、あいつ」
ムウが俺の疑問に答えてくれた。にわかに信じがたいが、ナイトメアはあの巨体で跳び上がってこちらを押し潰そうとしたのだろう。すると先ほどの
「続けて仕掛けてくるわ! 左右の翼、両方! とにかく横に逃げて!」
「ああ!」
ナイトメアは2本の翼を矢継ぎ早に飛ばしてきたがムウの指示のお陰で初撃を容易くかわし、続く一撃を『火の箒』で弾いてしのいだ。弾き飛ばした翼を炎が舐めるが、あれでは焼き尽くすには至らないだろう。
「悟、あいつは両腕、両足を使って跳ねたみたい。いまのところ腕と足はそれにしか使ってないわ」
どうしたものかと思案していると、すかさずにムウが情報を与えてくれる。
いつも通りに俺はそれに対して思いつくままをしゃべる。
「じゃあ、近づけば何とかならないか?」
「さすがに、あの太腕で攻撃してくるでしょうよ」
「だよな。だとしたら……」
「まづはあの突起を何とかしないといけないでしょうね。あいつの跳ね飛びに気をつけながら。次、右が来るわ」
やり取りの最中もナイトメアは攻撃を仕掛けてくる。翼の飛んでくるタイミングをよんで回避、『火の箒』で打ち据える。ムウが相手の動きを
「この調子で削りきれる、か?」
「どうでしょうね。どちらにせよ、突破口が見えないうちは我慢なさい」
「了解!」
俺は会話を止めて防戦に徹する。ナイトメアの動きとムウの警告だけに意識を集中する。攻撃をかわし、反撃をいれる。こちらの反撃が効いているのか、息切れしないかなどは頭の片隅に追いやる。
そういうことはムウに任せ、とにかく俺は相手の攻撃をかわし、反撃する。攻防を繰り返しているうちにムウが指示を出してきた。
「悟、反撃を中断。距離をとって」
「了解、どうした?」
「攻撃は効いてるわ。だけどそれ以上にあいつの傷の再生が速い」
「まじかよ……」
改めてナイトメアの翼を見る。何度となく打ち据え、燃やしたはずのそれは確かに最初と変わらない姿で健在だった。
「結構ハイペースで反撃してたよな、俺?」
「ええ。どうやら奴は千切れかけたり削られた部分をゴミとして認識することで、『自分の一部』として再生させてるみたい。確立概念も強力になっているわね。だから――」
ムウは淡々と状況を告げる。俺たちがどんなに不利であってもあくまで冷静に。
「いまのやり方で倒すのは無理よ。悟、左方向へダッシュ。あいつが跳ぶ」
ナイトメアの押し潰しを距離をとりやり過ごす。しかしこのままでは勝ち目はない。接近して本体を叩かないことにはラチがあかないだろう。
「どうする……!」
打ち出されては収縮するという動作を繰り返す巨大な翼をかわし、接近すること自体は可能だ。だが、近づけばナイトメアも腕で攻撃してくるだろう。両方を一度に凌ぐのはさすがに難しい。そして、それ以上の問題がある。
「接近して、全力で攻撃したとして倒せるか……?」
「難しいでしょうね。あの図体からして硬いでしょうし、再生能力もある。押し切る前に反撃をくらうのがオチね」
「だよな」
話しながら飛んでくる翼をかわす。ナイトメア本体は緩慢な動きでこちらを姿を追って両腕を使って方向転換をしている。膨れ上がった胴体に飾りのように乗っている頭はゆらゆらと揺れていてその様は腹立たしいほどにノロマだ。
「あんな調子でこっちの姿が見えてるんだもな」
思わず悪態をついてしまう。ナイトメアも頭部は高確率で弱点なので攻撃したいところだが、巨大化した奴の頭は攻撃の届かない高さにある。
「あの馬鹿でかい口に夢奏器を突っ込んで焼き払うのはどう?中からの攻撃なら」
ベルトを使ってナイトメアの巨大な口を指しながらムウが提案してくる。
「それも考えたけど、反撃される前に焼ききれる自信がない。どれだけ効くか分からないしな。それに夢奏器ごと飲み込まれたらアウトだ」
「そう、残念」
心なしか宙に浮かぶベルトが弛んだ気がした。ムウはこの方法に自信があったのだろう。確かにその方法が俺に出来る一番強力な攻撃なのは間違いないだろうけど。
「でも、目の付け所は悪くないと思うぜ?」
「そう?」
素っ気無い返事に反して弛んだベルトが尻尾のようにピンと張った。
「ああ。ただ真正面から行って力押ししても食われるだけだろうけど、隙を突いたり、先にきつい一撃を入れてからならその方法で倒せると思う」
「つまりコンビネーション攻撃ね」
「そーゆーこと。問題は隙を作らせるフェイントも、怯ませるだけのきつい一撃も方法が浮かばないってことだ」
「駄目じゃない」
「そうでもないさ。少なくとも倒すためのゴールは決まったんだ。あとはいまとゴールを繋げる点を見つけ出せばいい」
ムウはそれ以上何も言わず、ただベルトを揺らしている。ナイトメアには勝たなければならない。なら、ただ勝つことだけを考える。勿論この方法だって穴だらけだ。だけど、足りないピースの存在を嘆くのではなく、掴み取る、創りだす。それが俺のやることだ。
さあ浅間悟、気づけ、閃け、見出せ、決断しろ。相棒が
「……そうか」
「閃いた?」
「ああ」
ムウに手早く攻撃手段を口で伝え、頭にイメージを浮かべ彼女に見せる。
「……悟、毎度ながら呆れるわ」
「そりゃ、どうも」
それくらいでちょうどいい。ムウが呆れる方法でこれまで勝って来たのだから。
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