首
宗谷 圭
首
彼女ハ優シク、ソシテ美シク。彼女ガ笑フト、私ハ胸ノ奥ニ春ガ訪レタヤウナ心持チトナルノデス。
彼女ノ全テガ、私ノ心ソノ物デ。彼女ハ私ニトツテ、世界ソノ物ナノデシタ。
シカシ或ル時、私ハ気付イテシマツタノデス。時ガ経ツニツレ、彼女ノ表情ガ私ノ心ニ影響ヲ与ヘナクナツテイルトイフ事ニ。
時ノ流レガ、彼女ノ容色ヲ衰ヘサセタ事ニ起因スルモノデセウカ。私ハ日ニ日ニ、彼女ノ振ル舞ヒヤ表情ニ私ノ心ガ動カナクナツテユク事ニ困惑シ、戦慄イタシマシタ。
コノママデハ、私ニトツテ世界ソノ物デアル彼女ガ、イナクナツテシマヒマス。私ノ世界ガ、壊レテシマヒマス。
デスカラ、私ハ私ノ世界ヲ守ルタメニ、或ル決断ヲ下シマシタ。
時ガ流レテ彼女ノ容色ガ衰ヘル事デ、私ノ世界ガ壊レテシマフノナラバ、時ガ流レナイヤウニスレバ良ヒ。
私ハ何モ知ラヌ彼女ヲ、ヒト気ノ無ヒ場所ニ呼ビ出シマシタ。ソシテ、懐ニ隠シ持ツテイタナイフデ、彼女ノ胸ヲ……。
事切レタ彼女ヲ前ニ、私ハ慟哭イタシマシタ。私ガ想ヒヲ寄セテイタ彼女ガ死ンデシマツタ悲シミト、私ノ世界ガコレ以上壊レズニ済ンダトイフ喜ビトデ、胸ガイツパヒニナツテシマツタノデス。
ヒトシキリ泣ヒテカラ、私ハ彼女ノ首ヲ切リ落トシマシタ。私ノ世界ヲ保ツタメニハ、彼女ノ存在ガ欠カセマセン。デスガ、人ノ體ヲ一人分住マワセルニハ、私ノ下宿ハ狭過ギマス。デスガ、首一ツデアレバ、何トデモナルデセウ。
ソノ日カラ、私ト彼女ノ首ノ、奇妙ナ生活ガ始マツタノデス。
彼女ト暮ラスニアタリ、私ハ親友ノ一人ニノミ、事ノ次第ヲ語ツテ聞カセマシタ。彼ハ気ガ弱ヒ
デスガ、彼ニコノ話ヲシタ事ハ大キナ失敗デアツタト、私ハ後日思ヒ知ル事トナルノデス。
或ル日、私ガ下宿ニ帰ルト、彼ガ来テイマシタ。大家ニ入レテモラツタト言ヒマスガ、彼ニシテハ珍シヒ事デアルナト、私ハ思ツタノデス。彼ハ、
「ソコデ何ヲシテイルンダヒ?」
私ガサウ問フト、彼ハ真ツ青ナ顔ヲ私ニ向ケテ寄越シマシタ。ソノ顔ト、先程マデ彼ガ見テイタ方角ト。ソノ二ツカラ、一ツノ恐ロシヒ考エガ頭ヲ過ギリ、私ハ足早ニ彼ノ元ヘト歩ミ寄リマス。
彼ガ見テイタ方角ニハ、押入ガアリマシタ。私ハソコニ、ホルマリン漬ケニシタ彼女ノ首を飾ツテイタノデス。デスガ、ソコニハ何モ無ク……。
彼女ヲダウシタノカト、私ハ彼ニ詰寄リマシタ。スルト、アラウ事カ、彼ハコンナ事ヲ言フノデス。
「口ノ堅ヒ坊主ニ頼ンデ、密カニ燃ヤシテモラヒマシタ」
「何ダト?」
目を剥ヒタ私ニ、彼ハ目ニ涙ヲ溜メナガラ、コウ言フノデス。
「ダツテ、アマリニ哀レデハアリマセンカ。首トナツテ、コノヤウニ狭ヒ世界ニズツト居続ケルナド……」
彼ハ、ホルマリン漬ケトナッタ彼女ノ首ニ憐憫ヲ覚ヘタヤウデシタ。デスガ、友情ニ厚ヒ彼ハ私ヲ官憲ニ訴ヘル事モデキズ、悩ンダ挙句ニ彼女ノ首ヲ持チ出シ、コノ世カラ消シ去ル事ヲ選ンダノデシタ。
彼ハ、私ニ謝リ続ケマシタ。デスガ、ソンナ事ハモウ、如何デモヨロシヒ。
彼女ノ首ハ、失ワレマシタ。
彼女ノ顔ヲ見ル事ハ、モウ二度ト叶ヒマセン。
嗚呼。
嗚呼。
世界ガ、壊レテユク音ガシマス。
ガラガラト、音ヲ立テテ。
晴レモ雨モ、アリマセン。空ガ、消ヘテユキマス。
色ガ消ヘテユキマス。
音モ消ヘテユキマス。
世界ガ消ヘテユキマス。
嗚呼。
嗚呼。
(了)
首 宗谷 圭 @shao_souya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます