初LINE①


「えー!まじ美澪頑張って!」


 由利は今日あった匠哉との出来事を訊いて随分と興奮していた。


 今日だけ異常に長く感じた部活もやっと終わり、帰り道。

 隣を歩く由利の横顔は見慣れたものだった。



 駅のホーム。

「それで?LINEほんとに追加するの?」

「するする!でも最初なんて打とう」

「同じクラスの美澪です、追加よろしく!とかでいいんじゃない?」

「それが無難だよね~、そうしよっ」

「っていうか今やっちゃいなよ!由利もいるし!」

「え、今?!」


 その後由利は強引に美澪の鞄から携帯を取り出し美澪に握らせると、早く早く、と促した。美澪は仕方なくLINEのアプリを開き、「★高1−6★」のグループのメンバー表を出す。少々下にスクロールすると「匠哉」というアカウント名を見つけた。


「あるじゃん、あるじゃん、追加追加!」


 隣では由利が鼻息を荒くしている。


「ちょ、顔近いわ!」

「ごめんごめん、でも早く追加してよ!電車来ちゃうじゃん」


 美澪は思い切って追加ボタンを押した。



 匠哉を追加した瞬間由利の電車が来てしまい、反対方向に住む彼女等は別れた。毎晩激混みの電車に乗っていく由利を見送り、駅のベンチに座る。

 手に握るスマートフォンと顔を合わせた。

 先程から開かれた美澪と匠哉くんの個人チャットには



      匠哉くん!同じクラスの美澪です、追加よろしく(*^^*)



 と送信されたきり終わっている。既読はまだついていない。


 送信してからまだ五分くらいだから流石にまだ返信は来ないかな。

 っていうかニコマークいらなかったかも......。ぶりっ子みたい。


 そんなことを考えていると電車が来た。


 電車に揺られながら美澪は今日の出来事を思い出していた。


 匠哉君と二人きりで保健室だって、あは。ニヤニヤが止まらなくて困った。


 ブッー


 ずっと握っている携帯から振動がきた......!

 反射的に画面を見たが、由利からだった。


 由利:一ノ瀬からLINE帰ってきた?!


 美澪は滑らかに指を右へスライドさせると、由利に返信した。



        それがさ、まだ来ないんだよねー



 あれから三十分以上は経っている。たったの三十分が今の美澪にはすごく長く感じた。もう一時間は待ってる気がした。このままだと気がおかしくなってしまいそうだった。


 やっぱり追加しない方が良かったかも。




「ただいまー」

「おかえり、学校どうだった?」

「んー普通、いつも通り」


 美澪の母は毎回娘をこの様に迎えてくれるが、今日はクールに装った。匠哉との出来事がバレないように。


「あら、元気ないじゃない。なんかあったの?」

「いや、数学の点が思ったよりも低くてね」

「そうなの、ちゃんと勉強しなきゃね」


 うまく誤魔化せたのか、美澪の母は納得したようにリビングへ戻っていった。


 そのまま自分の部屋へ直行すると制服から部屋着へと着替えた。

 お気に入りの大きなポスターの前に置いてある小さなテーブルに携帯を置く。

 匠哉からまだ返信は来ていない。

 なんとか匠哉から他のものへと思考を移すことにした美澪は宿題に取り掛かった。


「ご飯できたわよー」


 下からお母さんの呼ぶ声がする。


「はーい、今行く」


 あれからどれくらい経ったのだろう。結構集中できた気がする。

 いつもの癖ですぐに携帯を手に取り、ロック画面を開いた瞬間胸が高鳴った。



 匠哉:追加したよ、よろしくー





 つい美澪の口元がほころんだ。








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甘酸っぱい 高峯紅亜 @__miuu0521__

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