保健室
ガラガラガラ
匠哉は重い保健室の扉を開けると口元で、失礼しまーすと呟いた。
美澪も後に続いて入る。
保健室には誰もおらずシンと静まり返っていた。
「誰もいないねー」
「いいよ、もう帰ろ?」
「なんで?」
「だって次数学だよ?」
美澪は自分でも焦り口調になっていることに気づいていた。
っていうか何言ってんの私。
「なにその理由」
フン、っと鼻先で笑うと匠哉はゴソゴソと棚をあさり始めた。
「何探してるの」
「
「私も探す......」
美澪はさすがにここに立っているだけじゃマズいと思い、匠哉と一緒に氷嚢を探し始めた。
「匠哉くんさ、」
「ん?」
好きな人とかいるの?という言葉が出かかったが、グッと飲み込んだ。
「......なんでもない」
「ちょっとさっきから思ってたんだけどさ、俺らの今の空気重くない?」
「そうかな?」
「いや、俺もっと美澪社交的でお喋りなやつだと思ってたんだけど」
何気ない一言だったが嬉しかった。
匠哉君、私の本当の姿知ってたんだ。私はもっとお喋りな人だから、今ここにいるのが匠哉くんじゃなかったら絶対どうでもいい内容とか大声で話してんだろうな。
そのまま黙っていると匠哉は「まあ今は目が痛いからね」と独り言のように呟いた。
「あった」
美澪は水色の氷嚢を一番下の棚から取り出した。
「お、ナイスナイス。貸して、氷入れてあげるから」
そういうと匠哉は氷入れから氷を何個か入れ始めた。
美澪はその匠哉の横顔にしばらく見惚れていた。
なんでこんなにカッコイイんだろう、身長も高くてイケメンで。高身長のせいか皆と同じ制服を着ているのに匠哉くんだけずば抜けて輝いて見える。
はあ、匠哉くんの制服になりた......
「はい」
美澪は我に返った。いつの間にか匠哉が目の前で氷嚢を差し出していた。
「大丈夫?ぼーっとしてたけど」
「あー!大丈夫大丈夫、考え事してただけ」
「ほんと?ならいいんだけど」
***
ゆったりとした足取りで教室に戻る最中、匠哉と美澪は無言だった。
とっくに次の授業は始まっており、いつも騒がしい廊下は静まりかえっていた。
カチカチとチョークの音が廊下に漏れている。
「匠哉くん、」
なるべく大きな声にならないようにひっそりと言った。
「どした?」
「LINEのグルから匠哉くんのこと追加してもいい?」
「★高1-6★」と名付けられたLINEのグループチャットには六組の生徒全員が参加していたが美澪は半年間匠哉を自分のアカウントに追加する自信がなかった。
「あー全然いいよ、追加してしてー」
「じゃあ家帰ったら追加するね」
「おっけー」
早く授業も部活も終わって夜になれ!
美澪は天に昇るような思いだった。
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