ハプニング

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。紗依が号令をかけると生徒たちは起立し、彼女に続いて礼をする。皆は一斉に席から離れ、散らばった。

 次の授業の準備をしようとしていた美澪のところに千田由利せんたゆりがニヤニヤしながら寄ってきた。


「なに、授業中一ノ瀬の方ずっと見てるの!」

「あ、ばれてた?」

「当たり前じゃん、流石にガン見しすぎだから!」

 

 彼女の大きな瞳やほっそりした手足には多くの男子が魅せられていた。自分もそうだったらいいのに、とふと思ってしまう。


「でも由利も気になってる人いるんだあ」


 桜の匂いを含んだ風が窓から入ってくる。その反動でカーテンがふわりと優しく靡いた。


「え!だれだれ??」

「誰にも言わない?」

「うんうん」

「織田君だよ」


 由利は美澪の耳元で恥ずかしそうに囁いた。


「彼、素敵じゃない?別にかっこいいとかじゃないけどね。空気よめないこと多いけど面白いし、喋ってて楽しいし」


「織田のやつ、さっきの授業で私が注意されたとき隣でクスクス笑ってるんだから。全く勘弁してほしいよね。でも応援するよ!」


「ありがとう。由利も応援する」


 そういうと由利はロッカーに次の教科のノートを取りに教室から出ていった。


 

 突然右目に激痛が走った。一気に右目から涙が薄っすらと浮かび、鼻先がジンと赤くなるのを感じた。足元を見ると輪ゴムが落ちてる。

 はあ、誰かが私に向かって輪ゴム飛ばしたんだ。こういうイタズラには本当にイラッとする。


「ごめん!!」


 向こうから匠哉くんが両手を合わせながら走ってくる。え、、。え?!


「大丈夫?ほんとごめん」


 やば、匠哉くんの顔が私の顔覗いてる。


「大丈夫、大丈夫。謝らなくていいよ」


「え、右目めっちゃ赤いじゃん!保健室行こ」


「いやいや、保健室とか大袈裟だよ!」


「いやー申し訳ないもん」


 どうしよう、顔赤くなってないかな。恥ずかしい。え、まって、匠哉くんも来るの?!そう聞くと匠哉くんはあっさりと、うん、と答えた。


 は?!!?!?!


「ほら、授業まで四分しかないよ」

 

 なぜか良くわからないけど匠哉くんも保健室に来るらしい。授業サボりたいんだな。でもちゃっかり嬉しいと思ってる自分がいる。


 私は保健室に匠哉くんと行くしか道はなかった。

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