第一章 あたしと魔物とエクソシスト-7
次の日の朝。
「……なんで」
あたしは道の真ん中で呆然と立ち尽くしていた。
年始三日間の巫女バイトも終わり、陸上部の練習も今日はお休み、そんな平和な一日の午前十時。あたしは年賀状を投函するために、ポストへ向かおうとしていた。そんな穏やかで平和な一月四日を過ごそうとしようとしていた、のに。
どうして白昼堂々、金髪碧眼でマントを着た、ファンタジーな見た目の人間が目の前に立っているのか。
しかも、どうしてあたしを見て、不思議そうな顔をしているのだろうか。その表情をしたいのはあたしの方だ。
「どうした原のばら、道の真ん中で立ちつくして」
その質問をしたいのもあたしの方だ!
その他諸々の暴言やら何やらを抑えて、あたしはなんとかその疑問を絞り出す。
「なんで、いるの、高橋」
「昨日、別れ際に『またな』と言っただろう。予告済みだ、問題はない」
屁理屈かよ! 確かに言った気もするけど、次の日会うなんて誰も考えないだろ!! しかも「どうしてここにいるか」の説明に全くなっていない!
「だから、どうしてここに」
「いや、昨日心配されたお礼をまだ返していないということを、思い出したんだ」
「え」
自分でもすっかり忘れていたことを言われ、少しうろたえる。
「そ、そんなのどうでもいいって……」
「昨日の夜から改めて考えた。電卓は複数個いらないということだったが、ならば一体、どのようなものだったら複数個渡しても構わないだろうかと。そして結論が出たのだが、鍋でどうだろうか」
「中学生に鍋を複数個渡してどうしたいんだよお前は!」
まず、複数個渡すっていう前提をなくすべきだろ! どこから出てきたんだその前提!
「そうか……」
首元を掻いて俯く高橋は、心なしかしょんぼりとして見えた。
えっ、あたしが悪いの?
僅かに罪悪感が首をもたげる。けれどあたしが何かを言う前に、「あ、そうだ」と高橋が顔を上げた。
「忘れていた。もう一つ言うことがあったんだ」
「え?」
「頼みがある。実はまた、何と言うか、その、魔物が、逃げた」
……あたしが悪いどうこうじゃない! 高橋の駄目さが異次元だった!!
「どんだけ逃がしてんだテメェ――!!」
「切り捨てると十匹」
「切り捨ててた後の数字で既に多いから! 切り捨てなかったら何匹なの!?」
「十九匹」
「ふざけんなぁぁぁぁぁっ!!」
四捨五入を最大限に活かしてんじゃねえよ!!
叫びながら、こいつをどうしてやろうかと頭の中がパニックだ。高橋は高橋で、あたしを見ながら小さく首を傾げ、
「いらいらしているのか? 牛乳を飲め」
と、さらに油を注いでくれる。
ああ、こんなに空は晴れているのに。今からでも絵馬に書きたい。新たに増えた大量の悩みを全部まとめて解決してくれる、完璧な四字熟語を。
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