第3話

明治時代に創業した、ある洋食店の四代目に訊いた「オムレツ」のお話。

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 洋食屋にとって欠かせない料理のひとつが卵料理です。近頃は「懐かしいなぁ!」とオムライスをご注文なさるお客様が多くいらっしゃいますが、当店ではオムレツも自慢のひとつ。それにオムレツは料理人の腕が問われるメニューなのですよ(もちろん、ほかのお料理もそうですが)。


 外側はシワひとつなく、スーッとなめらか。でもひとたびスプーンを入れると……(ちなみにうちはベシャメルソースでお召し上がりいただくので、ナイフ&フォークではなくソーススプーンをお付けしております)、とろ〜り溶け出すのです。決して、玉子焼きになってはいけません。あくまでも外はふんわり、中はとろ〜り。これが代々、当店に受け継がれてきたオムレツで、そう簡単には真似できない職人技が光る名物料理なのです。


 その技をちょっとお見せしましょう。熱したフライパンに澄ましバター(バターから乳固形分と水分を分離したもの)と、塩・胡椒で味付けした卵を4つ入れます。手早く、菜箸でクルクルとリズミカルに卵を混ぜ、そうです、スクランブルエッグを作るようにクルクル、クルクルと。

 底側がクレープ状になったら、フライパンを一瞬、火から離して、手前側から卵を返します。そうして反対側も同様に。火は最後まで強火のまま。ですが、決して火が通り過ぎないので、ふわっとエアリーなのです。


 そのままでも充分すぎるほど濃厚な味わいですが、そこにコクがあってまろやかなベシャメルソースを合わせます。ソースには小海老を添えますと、プリッとした食感が小気味よいアクセントに。付け合わせとしてマカロニサラダ、トマト、生野菜を。ほどよい酸味のトマトのドレッシングをかけていただくと、ほら、極上の一皿のできあがり。


 そうそう、うちのオムレツは卵オンリー! フランスの料理書『ラルースガストロノミック』に出ているオムレツ・ナチュール(卵だけのシンプルオムレツ)に則った正統派なのです。ひと口頬張ればやみつきのオムレツ、どうぞご賞味を。

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