第2話

ほろ酔い気味で路線バスに飛び乗った。

ふだん、まったく利用したことのない駅だが、

そこから自宅の目の前までバスが伸びていたのを知り、乗ってみた。


夜の10時ごろ。

ターミナル駅から出るバスはそれなりに混雑していたが、


二人掛の一席が空いていたので、するっとそこに腰掛けた。



そうこうするうち、モワンとした香り、いやニオイが漂ってくる。


やや酔っている身としては、
自分が酒場での芳香を連れてきたか、と思ったが、

そのニオイは隣席の女性の袋から漂ってくる。


ひとつふたつ年嵩か……。


ひっつめ髪にいまどき珍しいツーポイントの眼鏡、


かくにも地味な女性が手にする「さぼてん」の包み紙。



ああ、これか、と合点がゆく。


「ひとり住まいなのだろうか?」


「誰かいっしょに食事をしてくれる人はいないのか?」

「ここからバスでどこまでいくのだろうか?」
……なんて余計なことを考え、

好奇心の赴くまま、隣席の女性を盗み見た。



ひどく……疲れている……ようだ。


どうして折り詰めにしたんだろう?


その店で食べればいいのに?
 家人への土産か? 

いや、それにしては、包みが小さすぎる。

勝手な想像を巡らせていると、


その女性が「とまります」の釦を押した。



あ、ここで降りるんだ。



バスが停車し、後方の扉が開く。気になって、彼女の行く末に目をやる。

そこにはひとりの年老いた男がいた。

それが、彼女の父親なのか、
それとも歳の離れた連れ合いなのかはわからない。



けれども、


「ひとりじゃないんだ、よかった……」と、ホッとさせられたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る