第315話 If. After the villainess:対する『御伽噺』





「……このような気持ちで登城することがあるとは思いませんでした」


 いつもは気が重い登城だったが今日は違う。

 差し伸べられた手があって、自分を救うために動いてくれた人達がいる。

 本当に気持ちが軽くなっていて、ふわふわしていた。

 城門にいる守衛が訝しげな表情でエリザを見ていても、全く気にしないほどに。

 集団で場内へと入ると、優斗はバルストを連れて書類を提出しに行った。

 最初に行うのは貴族位及び土地の売買を記した契約書の提出、次いで爵位及び領地の返上だ。

 どちらも同じ部門が管理しているらしいので、優斗としては手っ取り早くて助かった。

 そしてそのためにバルストへ協力を願っている。


「しょ、少々お待ちを!」


 協力者のバルストが受付に書類を提出すると、面を喰らったのか受付嬢は慌てて部門を管理している伯爵へ報告しに行った。

 受付嬢と同じように慌ててやって来た伯爵は、書類を確認すると衝撃を受けたかのようにバルストを見つめる。


「マジェン男爵の爵位と土地の売買契約書と……貴方が持つ子爵位及び領地の返上? しかも買い取った男爵位と領地も含めて?」


 伯爵が呆然とした表情を浮かべるが、バルストは平然としたまま頷く。


「疑問としているのであれば、マジェン元男爵もこちらにいらっしゃいます。この売買契約は事実だと宣言してもらいましょう」


 バルストがそう言うと、リライトの女性騎士がクズ男を受付の前に突き出した。

 クズ男は売買契約をしたのは事実だと肯定したことで、伯爵はさらに驚きを表してしまう。


「買い取った爵位と領地をどのように扱おうと私の勝手です。法律的に何も問題はありません」


「だ、だがエトワーレ子爵! この男が容易に爵位と領地を売り渡すなど許されるわけが……っ!」


「許されます。エリザ様とこの男に向けられた王命は『イゴール=ダン=マジェン男爵とエリザ様の婚姻』のみです。マジェン男爵が爵位と領地を売買することは何一つ問題ありません」


 と、そこでバルストは不意に伯爵へ後ろの人達に注意を向けるよう促した。

 促した先にいるのは三人の少年少女だ。


「レゴン伯爵は現在、王家がヴィクトスの勇者及び異世界人を留学に誘っている話をご存じですか?」


「あ、ああ。その話は聞いているとも。昨日の夜には噂になっていた」


 伯爵自身は姿を見ていないが、話としては大きく広がっていた。

 王太子が案内していた集団を見かけた人間を、それなりの人数が見ていたからだ。

 だからこそ伯爵はバルストの素振りを見て、彼らが件のヴィクトス勢なのだということを察することが出来た。


 とはいえ、だ。


 噂が大きく広まるにしては、少しばかり早すぎる。

 王城に勤める大抵の人間が知るには、あまりにも広がりすぎている。

 ということは誰かが何かを仕掛けた――噂が広がる速度を恣意的に早めた、ということ。

 つまりは優斗が仕込んだうちの一つだ。


「では私と一緒にいる方々こそが件の勇者であり、異世界人であることもご理解していますか?」


 バルストが説明すると、代表してアガサが前に出て身分の証書を出した。

 間違いなくヴィクトスの人間であることを確認した伯爵は、予想していながらも開いた口が塞がらなかった。


「……エ、エトワーレ子爵。何故、ヴィクトス王国の方々がここに?」


「ヴィクトス王国はウェイク王国に対して、懸念事項があると仰っています。それは国内が正常なのかどうか、ということです」


「正常か……どうか? それは一体?」


「法律のある国であれば当然、私が出した書類は一切の問題なく受理されることでしょう。要するに伯爵が今、ここで処理可能な案件ということです」


 バルストが淡々と説明すると、付け加えるかのようにアガサが口を挟んだ。


「ヴィクトスはこの一件、書類に不備がなければ何一つ問題なく処理される案件だと理解しています。もし伯爵様がエトワーレ子爵の書類を理由なく処理しなかった場合、または無意味に上層部へと確認した場合、国には関係を断つことを提言しなければなりません」


「……っ!」


「これは王命の範囲外です。覆すというのなら横暴と判断せざるを得ない。そして横暴が専横する国に大切な者を留学させるわけにはいきません」


 アガサはそこまで言うと、にっこりと笑みを浮かべた。


「ですから伯爵様がお決めになって下さい。我が国の勇者と異世界人が留学する可能性を残すかどうかを」


 間違ったことは何も言葉にしていない。

 マジェン男爵が爵位や領地を売ったことも、そして買い取ったバルストが返上することも。

 何一つ王命に反したことはしていない。

 エリザが大罪人であると言ったところで、だから書類を処理しないと伝えたところで、それは感情論でしかない。

 そして何より伯爵は留学の一件に関わるほど強靱な心臓を持っていない。

 だから口から零れ落ちる言葉は肯定だった。


「……書類に……間違いはありません」


 伯爵はアガサに伝えると、受付にも指示をする。


「処理してくれ」


「は、はい!」


 伯爵の指示に従って、受付はすぐさま書類を承認して回し始める。

 少しして伯爵の押印も付いたので、処理としては問題なく終わった。

 バルストは確認すると、一つ頷いた。


「では私の家族と元男爵、さらにはエリザ様とお子様が平民になった証書の作成を」


「……すでに作り始めているから、出来上がったら持っていくといい」



       ◇      ◇



 平民となった証書を貰ったエリザ達は、次いで離縁届を提出しに行く。

 そこでもやはりというか、提出したエリザを当然のように馬鹿にした受付がいた。

 当然、声の音量を落としていないことで、周囲の注目は受付とエリザに向かう。

 そこで受付が不受理どころか受け取り拒否を告げた瞬間、優斗がシルヴィとアガサを連れて即座に介入した。

 突然現れた三人に驚く受付に対して、優斗達は即行で自分達の身分を証明する証書を見せる。

 胡乱げに証書を確認する受付だが、三人が誰なのか把握した瞬間に小さく息を呑む。


「言いたいことは分かるか? ヴィクトス王国の公爵家及びリライト王国の公爵家が、この国の対応を見ているということだ」


 さて、と言いながら優斗は受付のカウンターに肘を置く。

 そして少しだけ身を乗り出した。


「王命は『イゴール・ダン・マジェン男爵との婚姻』。マジェン男爵は平民となったのだから王命は意味がない。理解しているか?」


 何一つ温かみのない声音に、受付は慌てて大きく頷く。


「それは重畳。だとしたら離縁届に爵位の売買記録と爵位を返上し平民となった証書。さらには王命を記された書類がある。反している部分は何一つなく正統な手段だというのに、これでもまだ不受理するつもりか?」


 優斗はそう言いながら、手を伸ばして優しく受付の肩を叩いた。


「対応を間違えるなよ。間違えた場合、全世界にウェイク王国は法律がない蛮国だと言いふらす」


 なので、この書類はお前が処理出来る。

 他の誰かに確認を取る必要もない、と。

 周囲の人間に口を挟ませない雰囲気を保ちながら、優斗は暗に伝えている。


「さあ、どうする?」


 本来であれば当主ですらない貴族の令息令嬢が見ているだけ。

 冷静に考えられるのであれば、あまりにも大それた言葉だと分かるだろう。

 しかし優斗の雰囲気が冷静に考えることを許さない。

 たかが受付の分際で国を揺るがす事態に陥れるのかと脅され、しかもそれを叶えてしまうような雰囲気で冷酷に告げられた場合、冷静さは失わされ思考は狭まる。


 さらに言うのなら、確認した書類は何一つ問題がなかった。


 王命から外れたことも、離婚するにあたって何も問題ないことも理解出来てしまった。

 であれば、これを処理したところで文句を言われる筋合いは無い。

 たとえ後で何かあってとしても、こんな大問題に関わる理由もない。

 だから受付は慌てて書類を処理して離縁届をしっかりと受理した。



 エリザは離婚が成立した証書を受け取ると、少しだけ呆然とした。


「これほど簡単に離婚が出来るのですね」


 王命による婚姻が、こんなにも容易に覆された。

 しかも正攻法で。

 正直、驚きを禁じ得ない。


「母上、本当によかった」


「……カイト。そうね、ありがとう」


 近くに寄ってきた息子の頭を軽く撫でる。

 今まで苦労させてしまった分、カイトには幸せになって欲しいとエリザは思う。

 と、その時だった。

 騒々しく十数人の騎士と兵士が駆け寄ってきた。

 いや、正確には王太子が先頭切って走っている。

 なので優斗はバラッドに指示してエリザ達を下がらせた。

 静かに注目していた周囲の一般人も何事かと慌てる中で、先頭に立つ王太子が驚愕した表情で言い放つ。


「どういう……ことですか? どうして、その大罪人と一緒にいるんですか!?」


 一昨日、突然関わることを辞めると言われた。

 だというのに今日、彼らは大罪人を連れて王城の中にいる。

 しかもレゴン伯爵によれば、彼らはマジェン男爵との離婚を画策していた。

 何もかもが王太子には理解出来なかった。

 興奮して息を荒げる王太子に対して、ライトが少し前に出て聞き返した。


「ミヤガワさんと同じ質問をします。大罪人であるなら、どうしてエリザさんはここにいるんですか? どうして牢屋の中にいないんですか?」


「だから、それは――っ!!」


「ぼくには、自分達の不出来を押しつけるための生贄としか思えません」


「何を言ってるんですか!? その女はお母様を――っ!」


「だから何なんですか? 大罪人と言いながら牢屋に入れてないこともそうですし、この国が中堅国とは思えないほど寂れていることが、エリザさんと何の関係があるんですか? 石を投げつけることに理由があるんですか?」


 真っ当すぎる正論をライトは叩き付ける。

 言葉が咄嗟に出ず黙ってしまった王太子に対して、ライトがさらに言葉を続ける。


「ぼくは――勇者なんです。自分が正しいと思ったことを貫き通します」


 この国のやっていることを認めない。


「エリザさんを救うためにぼくは動きます」


 ウェイク王国が彼女にやったことを認めるわけがない。


「他国だからといって、勇者が怯むだなんて思わないで下さい」


 絶対に退かないことを宣言したライト。

 優斗は幼いながらもしっかりとした姿勢を見せたライトの背中を、優斗は尊敬を込めて軽く叩いた。


「鳥肌が立ったよ、ライト君」


 掛けた声に反応して、ライトが小さく笑う。

 そして優斗は皆に振り返った。


「やるべきことはやったから、帰るとしようか」


「お、お待ち下さい! 父が――国王陛下が呼んでいます!」


 慌てて王太子が言い募ると、優斗は冷たい視線を向ける。


「ウェイク王如きが僕を呼び出そうだなんて、良い身分だな」


 この状況下では本人が来るのが筋だろうに。


「まあ、いいか。先に言っておくが、後悔するなよ?」


 ここからが本番……というわけではないが、優斗達を呼び出してしまえば何をどう足掻こうとも潰れていく。

 それが分かっていない王族に、優斗は呆れるように小さく息を吐いた。



 謁見の間に到着すると、国王と王妃以外にも人間はたくさんいた。

 大抵は兵士や騎士だが、その中でも国王夫妻の近くに親子がいる。

 とはいえ、どうでもいいので優斗は張り詰めた空気の中で宣言した。


「忘れては困るから、最初に行っておこう」


 優斗はエリザとカイトを呼び寄せると、二人を背にしながら伝える。


「あのクズと離婚して平民となった二人は僕の庇護下にある。それを踏まえて会話をしてくれ」


 仮にも凡庸な王であったならば、それが意味することは分かるはずだ。

 しかし暗愚な王であったならば、優斗の言葉はまるで意味を通さない。

 案の定、蔑ろにされたと感じたウェイク王は声を荒げる。


「ふ、ふざけないでいただきたい!! いくら大魔法士様とはいえ他国で問題を起こすとは!!」


 堂々とした言葉は、暗愚であるからこそ言っても問題ないと思っている。

 そんな馬鹿を相手にして、優斗は睨むことで黙らせた。


「まず始めに言っておくが、そこら辺の連中に僕の存在を伝えていいと許した覚えはない」


 優斗が示すのは、謁見の間にいる騎士や兵士。

 二十人以上はいるだろうが、だからこそ優斗の呼び名は注意する必要がある。


「僕の存在は不用意に明かすことを全世界で禁じられている。箝口令を破れば禁固刑であることも共有されている」


 知っているはず……いや、知っていなければならないことだ。

 仮にも王だというのなら。


「そこで問おう。お前は僕に対して、どのように呼んだ?」


 今、ウェイク王が優斗をどのように呼んだのか。

 そして周囲にどのような人間がいるのか。

 説明してやったのだから、意味は分かって然るべきだ。


「はっきり言ってやるが、これは明確な罪だ」


 突きつけるように伝えれば、ウェイク王は小さく息を呑んだ。


「まずはお前が『罪人』であることを理解してもらおうか」


「ざ、罪人など……っ! わ、私は王で……っ!」


「王だろうと罪人であれば牢屋に叩き込めるのが僕だ。知らなかったのか?」


 立場の格が違う。

 千年来の伝説と、中堅の国を衰えさせた愚かな王。

 比べられる位置にいるわけがない。


「だけど、まあ、お前が罪を犯したことはどうでもよくなるだろうな。一旦、流してやる」


 優斗は罪人と伝えたことを放置すると、あらためてウェイク王の発言を取り上げた。


「それで何が問題なんだ?」


「何がではありません!! 勝手にイゴールの爵位を売り、しかも王命を破ったことです!!」


「男爵位の売却、それを買ったエトワーレ子爵の両爵位返上。加えて領地の返上。どこにも問題はないと思うが?」


「イゴールとその女の婚姻は私が王命を使って結んだものです! だというのに、それを反故にさせるなど……っ!」


「馬鹿か、お前は」


 あまりにも情けない言動に、優斗は大きく溜め息を吐いてから言い返す。


「お前は『マジェン男爵の爵位を売買することを禁じる。領地の売買も禁じる』。そういうことを王命で告げて縛ったか?」


「……そ、それは…………」


「やってない。だから爵位と領地の売買はクズの領分で行える。そしてお前が彼女に用いた王命は『イゴール=ダン=マジェン男爵との婚姻』だけだ。クズが爵位を売り払い平民となった段階で、王命は自動的に効力を失う」


 優斗は理路整然とウェイク王に吐き捨てる。

 即座に反論出来ない時点で、目の前にいる王の程度が知れるというものだ。


「それで、もう一度問おう。僕は一体、お前の王命の何を破ったというんだ? この国に則って正攻法で正統に手順を踏んて手続きしただけで、文句を言われる筋合いはない」


 王命を破っていない。

 ただ、王命の効力が発揮できないようにしただけだ。


「な、ならば処理した書類は無効だ!!」


 ウェイク王は反射的に言葉を返すが、それこそ泥沼に嵌まるようなものだ。

 優斗はシルヴィに合図を送ると、彼女は書類を主に渡した。

 そして大魔法士は嘲笑いながらウェイク王に紙を突きつける。


「そうなると、あのクソ男には四○○○億の借金がある。覆すというのならお前が払え」


 霊薬の売買に関する契約書を作った際、優斗は非常識な条件を記した。

 爵位と領地を売り払って払えば、霊薬の代金を手打ちにする旨を。

 だが、違えた場合は法外な値段を払わせる、と。


「霊薬が一瓶で一○○○億。それを四つ使ったからな」


 優斗はくつくつと嗤いながら、楽しそうにウェイク王へ説明する。


「あいつは金を使い果たしていたから、他に売れるものがない。仕方ないので爵位と領地を売った端金で手打ちにしてやった」


「それはマジェン男爵の責任であって――っ!!」


「僕がわざわざ手打ちにしてやったんだ。意味もなく理不尽に掘り返すのなら、お前が責任を負うのは当然だ」


 大魔法士が手打ちにしたことだ。

 相応の理由なくして横暴を働くことはあり得ない。


「いいか? 覆すのなら無関係を装うなよ」


「な、ならばイゴールには新たに男爵位を授け、エリザと婚姻する王命を出そう!」


「本当に考え無しの鳥頭だな。案の定、僕が最初に言ったことを忘れているようだ」


 その場限り、思い付いたことを声に発している。

 だからこそ愚かだとしか言いようがない。


「この二人は現在、僕の庇護下にある。それがどのような意味を持つか、理解しているのか? いや、理解していたら言うわけがないな」


 優斗は目の前にいる王が愚図だとは思っていた。

 国内の状況を見れば一目瞭然というものだ。

 だからこそ愚図の思い付きでした発言など、優斗にとっては赤子の手を捻るよりも容易い。


「今はまだ自国の平民とはいえ、だ。僕が庇護している人間に対してお前は奴隷にして、これからも虐げると宣言したんだよ。それを許すと思っているのか?」


「いくら大魔法士様といえど、この国の王は私だ!! これは私の権限で行える――」


「――お前如きの権限で、僕の庇護を超えるつもりか?」


 瞬間、絶対零度の声音と視線を優斗は浴びせる。

 さらには殺気で謁見の間にある窓ガラスが全て割れた。

 二十人以上もいる騎士や兵士は、訳も分からず唐突に浴びせられた殺気に恐怖して腰が砕けてしまう。

 当然、国王や王妃が立っていられるわけもない。

 優斗はへたり込んだ国王を見下しながら、さらに厳しい言葉を投げつけた。


「僕がお前の戯れ言を“仕方ない”で済ますと思っているのか?」


 問いに対して返答を求めるが、国王は恐怖で身体を震わせるだけ。

 だから優斗はゆっくりと国王に近付きながら、九曜を呼び出した。


「お前が王だから『仕方ない、諦めよう』と。そう言ってもらえると、本気で勘違いしているのか?」


 九曜を鞘から抜き、剣の切っ先を国王に突きつける。


「僕を嘗めるのも大概にしろよ、ゴミが」


 大魔法士という存在を、あまりにも軽んじている。

 ここは自国なのだから、大魔法士すら超えると勘違いしている。


「こちらは王命を無視せずに正攻法を取った。けれど、それが気に入らないというわけだな? 彼女達を渡せば何もしないというのに、わざわざ新たに王命を使ってまで大魔法士を虚仮にしたいわけだ」


 どうしてウェイク王がエリザを奴隷にしたいのか。

 何故、そこまで虐げるのに拘るのかを優斗は理解出来ないし、するつもりもない。

 だがウェイク王の在り方はあまりにも滑稽で、あまりにも残念だった。


「……はっ」


 静寂な空間の中で、不意に優斗から笑い声が漏れてしまう。

 蔑み、嘲り、尚も馬鹿にした嗤い声を優斗は隠しもしない。


「なるほど、なるほど。だとしたら“仕方ない”」


 先ほどと同じ言葉を優斗は使う。

 けれど意味合いとしては全く違った。


「互いの主張が相容れないというのなら、残された道は一つだけだ」


 優斗は九曜を鞘に収めると、誰もが想定しない言葉を放つ。

 それは優斗が人間の形をしているからこその想定外。



「――“戦争”するとしよう」



 ただの一個人が、国に対して戦争を吹っ掛ける。

 本来であれば冗談としか思われないように発言ではあるが、発言者が宮川優斗であれば冗談になることはない。

 何故なら『御伽噺』とは、一人で国と対することが出来るのだから。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る