第302話 小話㉙ パーティ追放は意外と分かりやすい
キリアは無事に依頼をこなし、優斗とギルドへ戻る。
そして受付に報告をして報酬を受け取り、隣接する酒場に顔を出した。
見知った顔があるかどうか見渡すと、ちょうどラスターがいたので近付いて同じテーブルに座る。
けれどどうにも酒場の様子がおかしい。
「なんか一グループだけ騒がしくて、他が静かになってるのは珍しいね」
優斗が物珍しそうに周囲を見渡す。
五人組のテーブルからあれこれと大声が聞こえるが、他のテーブルは五人組を注視するかのように静かだ。
どうしてなのかラスターに訊くと、彼は五人組をしっかり見るように伝える。
「キリアとミヤガワはあのパーティ、覚えているか?」
「覚えているかって……えっと、確かランクDの人達で組んでたパーティよね? 前に先輩とラスター君と依頼を受けた時、あの人達を使って先輩が唐突にクイズを出した覚えがあるわ」
「ああ、確かに。そっか、あの時の彼らか」
あの五人組は前衛が二人、中衛が一人、後衛が二人のパーティだ。
ただ連携としては粗が凄まじく、どうしてパーティとして成立しているのかを優斗が二人にクイズとして出していた。
「それで、どうして騒いでるのよ?」
「どうやら今日の依頼を失敗したらしく、あの人を責め立てている」
ラスターが文句を言われている人に対して指を指し示す。
けれどキリアはラスターが示した人を見て、驚きの表情を浮かべた。
「……えっ? だって、あの人って……一番強い人よね?」
あのパーティは前衛と後衛の距離感がおかしい。
とてつもなく離れているのだ。
さらには前衛も後衛も対戦相手に集中して、周囲に意識を向けることは皆無。
それをどうにかパーティとして成立させているのは、責め立てられている中衛の彼だ。
「どうやら今日、ミスをしたらしい」
「ミスをしたって……、先輩はあの人だけランクBに相当する実力だって評してたわよ」
「……うーん。僕としては彼がミスしたなんて思えないかな。フォローしきれなかっただけじゃないの?」
遠目から何度か見たことがある程度だが、それでも責められている彼がミスをしたとは思えない。
けれど彼らは周囲の注目を一切気にせずに、仲間の一人を罵り続ける。
「いいか!? 中衛なんて中途半端な奴は使い勝手が悪いんだよ! オレ達のような前衛で戦うことも出来なければ、マレイロ達みたいに魔法が凄いわけじゃないんだからな!」
上から目線での暴言に対して、キリアとラスターはふと優斗を視線に入れてしまう。
二人の前にいるのは自称中衛だ。
「わたしの知ってる中衛ってオールラウンダーのことを言うのよね」
「一般的な中衛というのは多少は劣れど前衛に出れば数の不利を解消し、後衛に回れば一緒に魔法を扱える。ミヤガワは論外だが、師匠のところにいる中衛を見ていれば自然とそのことが分かる」
どちらもカバーできるオールマイティー性こそが中衛の凄さ。
しかも責められている彼のカバー能力は目を見張るものがある。
「というか聞き耳立ててる中衛の人達が内心、めっちゃキレてるよ」
「それも仕方ないだろう。あれは役割を理解していないからこその暴言だ」
けれど一緒にいる仲間が気付いて、どうにか落ち着くように促している。
さらにはひそひそと話し合う人達もユウトの目に付いた。
「……ん? もしかして、そういうこと?」
「どうした、ミヤガワ?」
「他の人達が静観してる理由、分かったかも」
あの暴言に対して、さすがに何人かは文句を言いに行くと思った。
けれど何故か宥めたりして、勢い勇んで動くのを止めている。
それがどうしてなのか、やっと見当が付いた。
「自分達のパーティに引き込むためだよ」
「引き込むって、あの人を?」
「そうだね。だから決定的な言葉を待ってる」
あんな風に言っている以上、彼らはパーティとして成立しないだろう。
だから責められている彼がパーティから離れられるための言葉を、他の人達は待っている。
「まあ、追放系なんてそんなもんか。小説通りにはいかないものだね」
優斗は自分が知っている物語を思い描くが、同じようになっていなかった。
「先輩、追放系って? 似たようなことが小説であるの?」
「あるよ。大体、二パターンが主流で一つは本当に無能がパーティから追放されて、その後に特殊能力が開花する。もう一つは追放される人の能力にパーティが気付いてなくて追放される」
で、その後に元パーティメンバーに『ざまぁ』するのが一般的な流れだと説明する。
「だけど前者については追放されても仕方ないと思うんだよね」
「そうなの?」
「だって無能に少しでも命の危険性を預けるわけにはいかない。荷物運びだろうと何だろうと、連れて行くこと自体にリスクが大きすぎるよ」
真面目に、一生懸命やってるから許される仕事ではない。
優斗でも同じ判断をするだろう。
「後者については、実力がある人とか分野に長けてる人だけ分かってる……みたいな感じなんだけどね。それも正直、おかしいとは思うんだよ」
「どうしてだ?」
「どうしたって違和感が残る。戦い方にしろ何にしろ、自分の実力を隠してないんだからね」
真っ当に見下すには、常識と照らし合わせなければならない。
けれど基本的にはパーティメンバーに常識がないから追放される……ぐらいは納得できる。
しかし周囲の人間からも見下されるのはおかしいと優斗は思っていた。
そんな馬鹿ばかりならギルドが正常に機能するとは思えないからだ。
「そんな簡単に分かるものなのか?」
「まあ、ラスターがやったことと一緒だよ。普通は他のパーティだったり、自分達の役割と比較するから必ず違和感は生じる。実際、クイズした時はキリアもラスターも普通に答えてたしね」
優斗はそう言うと、責められている男性を軽く指差す。
「パーティの要になってる人はどうしたって目立つよ。そのことに気付いてない以上、あの四人と……あとは隣のテーブルにいるニヤニヤしている連中は馬鹿で決定」
おそらくは責めている奴と仲が良い連中だろう。
リライトとはいえ、少数でもそういう奴らがいるにはいる。
けれど、ほんの一握りだけだ。
他の面々は舌なめずりをして機会を窺って……、
「……あれ? とはいえ、これはちょっと不味いかも」
「どういうことだ?」
「狙ってる人、多すぎ」
優斗が周囲を見渡せば、若い子達からおっさん連中まで今か今かと待ち構えている。
ざっと六、七パーティは彼を狙っているように思えた。
「おや、ミヤガワ君。困った顔をして、どうしたんだ?」
と、その時だった。
ラスターの師匠である六将魔法士、ガイストが優斗達に気付いて近寄ってきた。
優斗はこれ幸いとばかりに今の状況は伝える。
ガイストは顎に手を当てると、ふむ……と考えてから話し始めた。
「彼らが落ちぶれるのは自業自得だが、他の者達が誘うにしても平等に機会を与えたい」
「機会……というと、新人が集まってるパーティに対してですか?」
「まあ、高位ランクが集まっているパーティから誘われれば普通は乗るだろうが、それでも話ぐらいはさせてやりたい」
ガイストは可能性は低くとも、可能性自体は与えてやりたいのだろう。
優斗はなるほど、と理解を示す。
「私は少し準備をしておこう。ミヤガワ君、後は頼めるかな?」
「分かりました。上手く取り成しておきますよ」
優斗が答えると、どうやら五月蠅いパーティも佳境を迎えたようだ。
「ジェイド、お前とはもうこれまでだ」
先ほどから暴言を放っているリーダー格の男が鼻で笑う。
一緒にいるパーティメンバーも同意見なのか、見下すように彼を見ていた。
ジェイドと呼ばれた男性は何を言われるのか理解したのか、唇を噛み締めて俯く。
「このパーティからお前を追放する」
言い放った瞬間、他の面々もあれこれと追撃してきた。
「やっとこれでジェイドの使えなさから解放されるのね」
「私達、大変だったんだから」
「これで上を狙えるな!」
どうにも彼のせいで自分達は上に行けないと思っていたようだが、周囲は息を潜めながらジェイドという男性を引き入れようと待ち構えている。
その決定的な台詞を言ってくれたのだから、内心では歓喜しているだろう。
「……分かった。今までありがとう」
追放された男性は文句の一つでも言いたいだろうに、それでも堪えて立ち上がった。
そして去ろうと少しだけ歩いた瞬間だ。
「はい、ちょっと止まって下さい」
とある少年の声が悔しそうな男性に届いてきた。
俯いた顔を上げて前を見ると、そこにいたのはギルド内でも超が付くほど有名な人物が立っている。
「ミ、ミヤガワさん!?」
「まあ、僕のことは分かりますよね」
「と、当然です! ミヤガワさんのことを知らないはずないでしょう!?」
「それはそれは、ありがとうございます」
礼儀正しいのだろう。
ジェイドはおそらく二十歳を幾つか超えているだろうに、優斗に対して敬語を使ってきた。
「あの、それで俺に何か用ですか?」
「ジェイドさん。これから時間、ありますよね?」
「……ええ、まあ。ミヤガワさんも見ていたでしょう?」
「見てましたよ。そのことで少々、お話があるんです」
にっこりと笑みを浮かべた優斗は周囲を見回す。
「とはいえ、その前に希望パーティがどれだけあるか確認しておきますね」
周知するように言うと、一人のおっさんが若干顔を顰めた。
「……お~い、ユウト。それはないんじゃないか?」
「あっちにいる若人にも機会をあげてくださいよ。新人が安全に成長するチャンスでもあるんですから」
教えるように、とあるパーティを軽く示す。
そこには期待の眼差しでジェイドを見ている十五歳ぐらいの少年少女がいた。
おそらくギルドに来て間もない子達だろう。
おっさんも彼らのことを見ると、なるほどと納得して息を吐いた。
「そう言われちゃ仕方ないな」
「というわけで彼を引き入れたいパーティの代表者一名、手を挙げてください」
居酒屋にいる人達全員に声を掛けると、あちらこちらから手が上がってくる。
「なるほど、希望するパーティは八つか。やっぱり多いね」
優斗は手を上げたパーティを確認すると説明を始める。
「皆さんは自分達のセールスポイントを伝えられるよう、考えておいてください」
各々の代表者から了解の意が示される。
けれど置いてけぼりなのは当人のジェイドだ。
不思議そうに優斗を見ている。
「あの、ミヤガワさん? これは一体、どういうことなんですか?」
「貴方にはこれから面接をしてもらいます」
「め、面接ですか?」
「ぶっちゃけて言うと、ジェイドさんの実力をちゃんと分かってる人は多いんです。で、あんなアホなことを言うパーティにいるぐらいなら、自分達のところに来てもらいたいんですよ」
優斗の言い分に手を上げた人達はうんうん、と頷く。
ジェイドはそれを見て、驚きの様相を呈していた。
「新人に中堅、それに高位ランクが集まってるパーティまで名乗りを上げています。あそこにいるおじさんは高位ランクパーティのリーダーですよ」
優斗にさっき文句を言ったおっさんは、格好付けながらジェイドに手を振る。
「ただ、まあ、新人の子達にもチャンスはあげたいじゃないですか。だから面接という形で希望する人達と話し合って貰いたいわけです」
優斗が新人パーティにウインクすると、凄く嬉しそうに両手を上げて喜んでいた。
「それに安心してください。この一件、ガイストさんも関わってるので万が一パーティ選びに失敗してもアフターフォローは万全ですよ」
まあ、実際はミスらないと思う。
何だかんだでガイストが上手にジェイドの本音を聞き出して、最適のパーティ選びのアドバイスをするだろうから。
と、その時だった。
騒いでた元パーティのリーダーらしき男が優斗に突っ掛かってくる。
使えないと評していた男を追放した十秒後にこんなことをされれば、苛立つのも当然だろう。
「テメェ、突然出てきて何を仕切ってんだよ!?」
「何で仕切ってると言われても、ガイストさんに頼まれたのが一つ。あとは、まあ……僕が仕切れば全員が仕方なくも納得するでしょう?」
優斗がおっさんや周囲に視線を向ければ、全員が大きく頷く。
「そりゃユウトに言われたらしょうがないだろ」
「こんなガキが何だってんだよ!」
怒鳴りながらテーブルに手を叩き付ける男だが……むしろ彼の反応こそ周囲は信じられない。
ざわつき始める人達を代表して、おっさんが男に説明する。
「こいつはこのギルドにおいて、たった一年で駆け上がった最年少のギルドランクAだ。正直、ガイストと同等レベルでここだと有名だぞ。そんな奴が仕切ってるんだから、そりゃ言うことの一つも聞くってもんだろ」
他の冒険者とも仲良く、トラブルを起こしたこともない。
だというのに十八歳という若さにしてギルドランクAという破格の強さ。
ガイストが仕切ることを頼んで当然というものだ。
「ついでに言えば中衛なんで、ジェイドさんも先ほど言われたことは気にしなくて大丈夫ですよ」
優斗がジェイドの肩を軽く叩く。
馬鹿の戯言を信じられても困る。
その意思を込めて手に触れられて、ジェイドは嬉しそうに頷いた。
「はっ、中衛ってことはテメェも寄生虫ってことかよ!」
リーダー格の男の暴言に、中衛を担当している連中が苛立つ気配があった。
けれど優斗は何でもないように皆へ話し掛ける。
「まあまあ、皆さん落ち着いて。彼らは二つほど勘違いしてるんですから」
宥めるような声音で、けれど続く言葉は苛烈だった。
優斗は指を一本立てると、
「一つ。馬鹿が中衛を理解出来ると思いますか?」
誰もがポカンとするような突き刺す台詞を放った。
さらに中指を立てて、
「二つ。前衛の役割だろうと後衛の役割だろうと、ランクAの僕に対してランクDの彼らが上回る部分は一つたりともない。彼らはその程度のことも分からない愚か者なんですから、笑って許してあげましょうよ」
優斗の言葉が周囲に届くと、次第に笑い声が漏れてくる。
特に中衛を担当している連中は、爆笑を堪えるように肩を震わせていた。
その様子にリーダー格の男はさらに苛立ったようで、
「俺らはこいつに足を引っ張られてただけなんだよ! 実力はランクAだっ!」
「……はっ? まさかランクAになれる人間が、たかが一人に足を引っ張られるぐらいでランクDに留まるとでも?」
優斗が馬鹿を見る目で疑問を呈すると、おっさんが吹き出して笑い出す。
そして優斗の肩を面白そうに何度も叩いた。
「ここまで豪語されると、さすがに笑っちまうなユウト」
「はっきり言ってランクDで受けられる依頼の魔物とか、僕だと大体が秒で片付けられますからね。足を引っ張るも何もないですし」
「おお、さすがはユウトだな。おっさんは三十秒ぐらい掛かるかもしれないぞ」
「どっちにしろ足を引っ張られる前に終わるじゃないですか」
ギルドランクAの連中はヤバい。
ギルドランクSはもっとヤバい。
それがこの仕事をしている人達にとっての共通認識だ。
だから優斗とおっさんの会話も特段、おかしなものではない。
「ミヤガワ君、ちょっと彼と打ち合わせをしたいんだが大丈夫だろうか?」
ガイストがひょっこりと顔を出して声を掛けてくる。
優斗は頷くとジェイドの世を軽く叩いた。
「頑張って下さいね。これから面接に行く方々は間違いなく、望んで貴方とパーティを組みたいと思ってますから」
「あ、ありがとうございます、ミヤガワさん!」
優斗から応援の言葉を掛けられて、嬉しそうにガイストの下へ歩いていくジェイド。
そのまま二人が消えていき、彼を望むパーティがセールスポイントを考えるために話し合おうとした瞬間、
「――っ! ジェイドが使えないのは間違いないんだよ!」
リーダー格の男がまた吠えた。
優斗はそれを見て、ふっと息を吐く。
脳みそに何が詰まってるのかと思うぐらい気位が高い。
「それなら間違えた認識のまま、死ねばいいんじゃないですか?」
「……なっ!」
「貴方のパーティ、そして同調する隣の連中は近いうち確実に死にますね」
優斗は彼らと一緒にジェイドを蔑んでいた隣のテーブルにいる奴らにも伝える。
「ギルドランクAの人間として、それは断言してあげますよ」
討伐系の依頼を受ければ、五回以内には死ぬだろう。
森だろうとどこだろうと死体があって利点はないから、ギルドの職員にも伝えておいた方がいい。
優斗がそんなことを考えていると、ジェイドを追放したパーティの後衛を担当している女性の片方が顔を真っ青にしていた。
どうやら優斗が死ぬことのお墨付きを与えたことで、少し冷静になったらしい。
「ど、どうしてそこまで言えるの?」
「どうしてと言われても、以前に僕が見かけた時とパーティの戦闘スタイルは同じでしょうし、むしろ依頼に失敗したなら悪化してるんじゃないですか? だったらジェイドさんが抜けた以上、パーティでの戦闘が成立するわけない。死ぬのも当然のことでしょう?」
女性が周囲を見回すと、優斗の説明にうんうんと頷いている。
誰も否定する要素がないと分かっているからだ。
「わ、私達がおかしいってこと?」
「おかしいから僕は貴方達を対象にして、後輩にクイズを出したわけですしね」
優斗が言うと、おっさんが面白そうに乗ってきた。
「後輩にクイズっていうとキリアの嬢ちゃんにか?」
「あとはラスターも一緒にいたんで、ついでに出しましたよ。まあ、普通に正解してました」
優斗はテーブルに座っているラスターとキリアに視線を向ける。
すると二人は肩を竦めた。
「あれは、さすがにな」
「わたしはあの人のこと、素直に凄いって思ったし戦いたくなったわ」
優斗は二人の返答に苦笑すると、さらに新人の子達やおっさんにも声を掛ける。
「皆さんもジェイドさんの凄さは分かってるからパーティに入れたいんですよね?」
「はいっ! 警戒範囲もフォロー範囲も普通の冒険者よりとっても広くて、しかも反応が速いから凄いなって思ってたんです! 真似しても出来なくて、だからジェイドさんがいたら安全が増すと思って誘いたいんです!」
「なるほど。続いて高位が集まってるパーティのリーダーが入れたい理由は?」
「パーティの体制が崩されにくいからな。ああいった奴は重用したいんだよ」
おっさんが頭を掻きながら答えると、新人の子達に笑いながら言う。
「選ばれても選ばれなくても、恨みっこなしだからな」
「はいっ!」
ほっこりするおっさんと新人のやり取りを見ながら、優斗は女性に告げる。
「まあ、そういうわけで驚異的なフォロー能力を持つジェイドさんがいて、どうにか成り立っていたパーティですからね。いなくなればどうしたって死ぬでしょう?」
「だ、だけどジェイドのフォローはいつもギリギリで――」
「まだ気付きませんか? 貴方達が有能な前衛と後衛なら、中衛に出番はありません。中衛というのは、どうしたって相手の出方を窺ってから動くリアクションになってしまうからです。優秀だと言うのなら、本来はジェイドさんが動くことを恥と思うべきですよ」
さっさか魔物などを倒していれば、中衛は動くことはない。
ジェイドの動きに文句を付けている時点で、彼らがランクAの実力を持っていない証拠だ。
「というか、あんな馬鹿みたいに前衛と後衛の距離を空けて何をしたいんです? 普通のパーティの倍は距離を取ってますよ?」
「……倍?」
「ええ。ジェイドさんはね、それを間に合わせてたんですよ。前衛の参戦も後衛に回っての魔法攻撃もね。そんな人がいなくなったら、連携も何もないでしょう」
だからこそ周囲も簡単に分かったわけだ。
ジェイドの凄さが。
「というわけで、そろそろここから出て行ってくれません? これから死ぬ人達の馬鹿騒ぎも耳障りですし、ジェイドさんの輝かしい未来の邪魔ですから」
優斗がにこやかに手を振ると、周囲もそれに乗じて一緒に手を振る。
居酒屋にいる客全員に手を振られれば、どれだけ吠えたところで無意味で情けない。
それが分かったからか、ジェイドを追放したパーティと一緒に馬鹿にしていた連中は、すごすごと居酒屋からいなくなっていた。
それから数時間後、ジェイドはおっさんの高位パーティに入ることになった。
色々と悩んだようだが、どうやらおっさんがジェイドをランクAまで育て上げると言い切ったのが決め手になったようだ。
けれど週に一度、新人パーティにもジェイドを貸し出すことになった。
彼の警戒範囲やフォローの速さが新人の生存に直結するのも確かだからだ。
新人には少しだけ難しい依頼でも、彼がいれば十分に達成するが出来る。
そしてそれが成長に繋がっていくだろう。
「ガイストさん的には満足な状況ですかね?」
優斗は隣に立っているガイストに話し掛ける。
「そうだな。どのパーティも熱意があって彼を誘っていた。悩んだ末、最終的には高位パーティに入ることになったが、週に一度は新人の面倒を見るのも彼の成長には繋がっていくだろう」
ガイストは自分の弟子達だけではなく、どうやらこのギルド全体の底上げも考えていた。
先ほどのような馬鹿共はどうでもいいが、夢と希望を持った新人が死ぬ可能性は低いほうがいいからだ。
元々、ここのギルドは面倒見がいいおっさん達が多くいるが、ガイストが来てからさらに面倒見が良くなったのも、おそらくは影響を受けてのことだろう。
「ミヤガワ君も、もう少し多くの若人を導いてくれると嬉しいのだがな」
「勘弁してくださいよ。僕は特別に生意気な連中を扱ってるんですから」
キリアはもちろんのことだが、ラスターもあれで一筋縄ではいかない。
優斗とガイストだからこそ言うことを聞かせることが出来る。
だからこそ優斗が苦笑すると、ガイストも仕方なさそうに笑った。
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